第11話 北の共和国へ

「さて、ヘイが国際冒険者になった以上、もうこれ以上この国にとどまる理由はありませんわね。

 四大魔女と黒竜王、この世界における最大の脅威も、もはやこの国にはいないことは確実なのですから」


 免状担当庁を出たナタリーが最初の発した言葉は、この西の聖教国を出ようというものであった。


「そうなのか?」

「ええ。

 東西南北の四大魔女は、それぞれ東西南北四か国の奥地にいるといわれております。故に、西の魔女が倒れた今、この国には、まずいないと言って良いでしょう。

 私の目的は、東の王国の王女にふさわしい強さを手にすることです。ヘイが一緒なら、残る三人の四大魔女の討伐もできるかもしれませんし、この国に残る理由は全くありませんわよね?」


 実力がバレるよりはマシにせよ、僕は結局危険な目に遭うしかないらしい。


 だが、この機会に便乗できるうちに、他の国を見て回るのも手だろう。そう考えた僕は、ナタリーに答える。


「分かった。それじゃ、まずはエルフ族が住まうという北の共和国にでも足を運んでみようか」


 人魚族が中心だという南の海洋帝国も捨てがたいのではあるが、エルフ族の美貌は、下半身が魚っぽい人魚族と異なり、全身的であると、昔習った記憶がある。

 だから、僕は、見られるうちに名高い美貌を一目でも目にしたいと思ったのだ。


 だが、ナタリー王女は、やや複雑な表情を浮かべる。


「北の共和国、ですか…。私達にとっては、あまり魅力的な土地ではないかもしれませんわ」

「というと?」

「あの国は、種族の平均的な知的水準に基づく階級社会を敷いております。最上位のエルフ族、それに次ぐドワーフ族はまあいいのですが、私達人間族は階級としては獣人族の上、下から数えて二番目で、あまり待遇がよくありません」

「なるほど」

「まあ、多種族国家故に、やむを得ないということもできるのですが…」


 それでも、エルフは見てみたい。ナタリーも綺麗だが、きっと人間離れしたエルフの綺麗さは、それ以上のものであろう。


 やれやれ、僕も男なんだな。


「どちらにせよ、四大魔女を討伐しなければならない以上、行った方がいいと思う。

 東の王国の王女だということを明らかにすれば、階級社会と言えども無碍には扱えないだろうし…」

「そうですわね。その手がありましたね。あまり使いたくはなかったのですが…あの国に行く以上、いつまでもお忍びにしない方がいいでしょう。ヘイのためにも」

「僕のため?」

「私独りなら、どんなおんぼろ宿のみすぼらしい人間族専用部屋でも耐えられます。

 ですが、最強の男であるヘイ・ボーンをも同じ扱いにすることを私が認めたとしたら、それは、あなたに対する無礼に当たりますから、認めるわけには行きません」


 お気遣いは嬉しいが、ナタリーの気遣いは、いつもちょっとずれている気がする。

 これだけ気を使えるのなら、そもそも無闇にマギッターになど流さないで欲しかったのだが…。

 まあ、それは言っても仕方がないか。この機会がなければ行くこともできなかったであろう聖都ラメンなども見られたわけだし。


「そうか、ありがとうな、ナタリー」

「うふふ」


 笑うナタリーもかわいい。


 冷静さを失い、ひたすら崇めたくなるような美しさ、可愛らしさが漂う。


 とにかく、これで話はついたのであろう。出るとするか。


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 そうして、僕らは、北の共和国へ向かう街道を、馬車に揺られて移動していた。


 聖都を抜けると、やはり単調な森林が続いていく。西の聖教国は、道中に宿場街を設けるほどの広さはなく、たまにいる歩き旅の旅人は、街道から少し引っ込んだところにある集落に泊めてもらう習慣になっているから、なおさら道は単調である。


 馬車に揺られること半日。今回は、特にモンスターに遭遇することもなく、西の聖教国と北の共和国の国境にある、検問所までたどり着いた。


「これが国境なのか…」

「そうですわ。各国の国境には木の柵が張り巡らされていて、越境街道のところに、こうした検問所が建てられているのです。

 最近は、東の王国への不法移民が増えていることもあって、各国の検問は昔よりも厳しくなっているようですわ。尤も、国際冒険者免状を持っている私達にはあまり関係のないことですが」


 スムーズに通れればいいけど、と僕は少しだけ不安に思った。

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