第5話 魔牛、魔力塔と聖都の城門

「ンムーー」

「ンヌーー」


 ナタリーの言葉を無視して、突進する二頭の魔牛。


「しょうがないわね」


 そう言いながら、ひらりとかわすナタリー。


「ンムーー」

「ンヌーー」


 かわされたと気付き、方向を変えて突進しなおす魔牛。


「彼らの想いを受け止めよ。ロイヤル・シールド」


 ナタリーは、今回はよけずに、何やら呪文を唱える。


 魔牛二頭をも受け止め切れるほどの大きさを持った光の盾が、ナタリーの前に展開される。


「ンム!?」

「ンヌ!?」


 魔牛二頭は、光の盾にぶつかり、勢いを止められる。


 足を動かし、盾を押し切ろうとする二頭。


 ナタリーはなんてモンスターと戦っているのだろうと思うと、僕の背中に冷や汗が流れる。


 しかし、徐々に二頭の勢いが衰える。


 光の盾から、細い糸のような光が、ナタリーに向かってゆく。


 それを胸で受け止めるナタリー。


 彼女は、うなずきながら、そして二頭にゆっくり近づいていきながら、一人で何やら言い始める。


「うん、うん。そうだったのですね。

 求愛のダンス、誰にものぞいて欲しくない神聖なるダンスをしていた時に、たまたま私達に見られてしまったと思って、それで怒って私達に襲い掛かってきたのですね。

 でも、ここは人間が使う通り道。いくらダンスの時に森林中を駆け回るといっても、ここにはみ出してしまったのは、あなたたちにも非がありますわ。

 ですから、今日は大人しく森に帰っていただけますかしら?そうすれば、私達に邪魔されることもありませんでしょうし」


 彼女は、両手を広げ、盾にそっと触れる。


 盾を走る光の模様が波打つ。二頭の魔牛が、涙を流す。


「お分かりいただけたのですね。では、行ってもらうとしましょう」


 盾が、二頭を包み込み、浮かび上がる。


 そして、そのまま、森林のどこかへと流れていき、その一点に吸い込まれるように着地する。


 引き込まれるように、その動きを僕は見ていた。が、ふと元々の役割を思い出して、ナタリーに言う。


「他にモンスターはいないみたいだね。もう、戻って大丈夫だと思う」


 すると、ナタリーは僕の方へと振り向き、パアッと輝かんばかりの可愛らしい笑顔を浮かべながら、言う。


「ヘイ、私もすごかったでしょう?ヘイほどじゃありませんが。ですから、褒めてくださいな」


 馬車に乗った彼女が、僕に抱き着く。


 うん、確かにかわいい。これは、褒めてあげない訳にはいかないだろう。


 僕は、彼女の美しい金髪頭を優しくなでながら、言う。


「よく頑張ったね。よしよし」


 ナタリーが赤面しながら、言う。


「うふふ。私、ずっと一人旅でしたの。東の国ではいつでもチヤホヤされてましたもので、たった一人異国にいるのは、寂しいものでした。

 ですが、もうその点は安心して良さそうですね。ヘイという、包容力まで最強のパートナーがここにいるんですもの」


 ナタリーが僕を抱きしめている腕に入っている力が、グッと増す。


 王女と言っても、普通に人とかかわりたい女の子なのかもしれない。


----


 それからは特に記すべきこともなく、無事聖都ラメンの城門が見えてきた。


 頂きにもじゃもじゃとした毛玉のような何かがくっついた塔が、何本も建っているのが、城壁越しにも見える。


 僕の住んでいた町にも、小さいながら同じような塔があったので、あれがラメン聖教の教会だということは、何となく想像がつく。


 しかし、あの城壁ですら、僕の故郷の教会よりも高さがありそうなのに、よくあんなに大きなものを作れるなあ。


 やっぱり、この国の中心地、聖都だからできることなのだろうか?


「すごいな、あんなに高い建物は初めて見たよ」


 門前に泊った馬車から降りるとき、僕は、自然とそんな独り言を漏らしていた。

 先に降りて、僕の前に立っているナタリーは、その言葉を拾って、言う。


「そうでしょうか?道沿いにあった魔力塔と同じぐらいだと思うのですけど」

「魔力塔?」

「ええ。道沿いに二本ぐらいは立っていたでしょう。あの赤と白の模様の、高い鉄塔ですわ」


 言われてみれば、確かにそんなものを見たような気もする。


「ああ、あれか」

「ええ。人々の脳波を整流して、情報伝達を可能にするのです。

 我が東の王国が開発した、テレパスネットを支える、重要な装置ですわ」

「なるほど」


 東の王国の技術力は、本当に高いようである。


 しかし、今はそれよりも、城門をくぐらなければならない。門前には、二人の門番がいる。

 さすがに都だけあって、警戒は厳重そうだ。 

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