第6話 門番とヘイジ防衛騎士団長

 城門の前に立つ二人の門番のうち一人、右に立っている方が、僕たちに問いかける。


「君たちは何の用があって、聖都ラメンに入るのかね?」


 ナタリーが、僕を指し示しながら答える。


「この人の国際冒険者免状を発行していただくためですわ」

「そうか。で、君たちは何者なのだ?」


 ナタリーが、懐からカードのようなものを取り出す。


「こういう者ですわ」


 門番たちは、そのカードをまじまじと見つめていたが、やがて急に態度を改めて、言う。


「失礼しました。どうぞお通り下さい。ナタリー・エレンスタイン殿下と…」

「私の旅仲間の、ヘイ・ボーンですわ」

「ヘイ・ボーン様」


 そして、急いで敬礼をして、道を開けた。


 王女というのはすごいものだな。

 だが、マギッターに100万のフォロワーがいようとも、門番たちは、彼女からカードを見せられるまで彼女の身元を知らなかったらしい。

 ということは、僕のことも、意外と知られていないかもしれない。


 そう期待したかったのだが…。


「あ、そういえばそちらのお方は、マギッターで、何やら最強のお方として噂になっているお方じゃありませんか?」


 背後から、声がかかった。


 僕の中に、奔流のような思考が流れ込む。


 どうして僕の方が王女よりも知名度高くなってるんだ?マギッター、色々と怖いんだけど…。


 ナタリーが、呆然としている僕の代わりに応える。


「そうですわ。

 彼がいなければ、今頃私は、黒竜王に倒されて死んでいたかもしれません。

 道中でも魔牛に襲われましたが、私は、彼がいたおかげで安心して対処することができました。そうでなければ、私はモンスターがいつどこから出てくるかという不安のあまり余裕を失って、無用にモンスターを倒してしまったかもしれません。

 ですが、彼はご自身の真価に気付いていませんでした。それ故、私は、彼にふさわしい免状を発行してもらうために、こうしてここまで来たのです」


 僕は平凡なのに、勘違いした王女に安心感を与えていたらしい。

 それにしても、道中でも気になっていたのだけど、無用にモンスターを倒すとは、どういうことなのだろう?

 モンスターは、倒せばいいものじゃないのか?


 そんなことを考えていると、何かを聞き付けたのか、市内の方角から、一人の立派な体格をした男がやってきた。


「ナタリー殿下。ご無事で何よりです」


 よく日に焼けた肌と、禿げあがった頭を持っているこの男は、身を立派な鎧でくるんでいる。

 ナタリーは、微笑んで彼に答える。


「これはお久しぶりですわね。ヘイジ防衛騎士団長」

「ええ」


 そして、彼は、僕のことをじっと見つめる。


 鋭い視線に、ひるみそうになる。


 この人は、強い。戦えなどと言われたら、一瞬でメッキが剥げてしまうだろう。

 そうならないと良いのだけど…。


「して、こちらが、殿下がマギッターで最強だと喧伝しておられるお方で?」

「ええ。ヘイ・ボーンさんよ」

「平凡そうな名前だな。見た目も凡庸で、強さを感じさせる要素がどこにもないのだが」


 名前だけなら、ハゲをローマ字に直して英語読みにしただけのような名前のヘイジ防衛騎士団長ともいい勝負だと思うんだけどなあ。


「おい、今髪のこと考えたな?ちょうどいい口実ができた。貴様の実力が殿下のおっしゃる通りか試したいから、この私と勝負してくれたまえ」

「えっ!?」


 言わんこっちゃない。どうやら僕は、ここでナタリーとはお別れのようだ。


 短い道中だったけど、楽しませて久手手ありがとう、ナタリー王女殿下…。


 そんなことを考えている僕を無視して、ヘイジは剣を抜いて僕の前に突き付ける。


「勝負、してくれるな?」


 僕は、王女の方を向いてみる。

 すると、彼女は、ニッコリとほほ笑んで、言った。


「期待していますわ、ヘイ。だって、やっとあなたが戦っている姿を直接見ることができるんですもの」


 NOOOOOOOOO!


 叫びにならない叫びが、恐怖の震えに変わる。


 冷や汗が止まらない。


 王女からの信頼が、僕を殺してしまうだろう。


 It was the beauty that killed the beast.


 ああ、思考が混乱する。身体が震えている。訳の分からない言葉を口走ってしまったし。


 どうすればいいんだよ!


 視界が霞む。そうか、僕は、攻撃を見るまでもなく、死んでしまったのだな…。


 ナタリー、君の無邪気さに、僕は一度は助けられ、しかし、二度殺されるのだ。


 そう、思った時だった。

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