第7話 ボーン・ミストと聖都ラメン
「何だ、これは…」
ヘイジ防衛騎士団長の声が聞こえた。
どうして聞こえるのだろうか?僕は、本当に死んだのだろうか?
考えていると、ナタリーの声が響く。
「ボーン・ミスト、とでも呼ぶべき状態ですわね。
私が戦闘シーンを直接見ることができなかったのは、ボーンが最強だったからのみならず、一時的に霧が立ち込めていたからでもあります。ヘイジ防衛騎士団長が剣を突きつけたことで、ヘイも戦闘態勢に入ったのでしょう」
霧?意味わからないぞ?なんでそれが僕の戦闘態勢になるんだ?
というか、ボーン・ミストのネーミング、もう少し考えて欲しいんだけど?
「普通、戦闘態勢になるだけで霧が立ち込めますか?殿下にはどう見えているんですか?」
ん?ってことは、さっき視界が霞んだのは、僕の周りに霧が立ち込めたからなのか?
ナタリーが、一息ついてから言うのが聞こえる。
「ウォーム・アップのために体を小刻みに高速振動させた結果、程よくかいた汗が霧状に分散させられたのだと思います。姿をくらます手段にもなるので、一石二鳥。
まさに、理想的な戦闘態勢だと思います。しかし、私は、まだまだ未熟ですので、いくら震えて見せてもあのような芸当はできませんわね」
「普通はそうでしょう。参りましたよ。確かに、ヘイ・ボーンさんは最強のようですね」
僕に突き付けられていた剣が、さやに収められるのを感じる。
視界が開けてくると、そこには、心底嬉しそうに笑っているナタリーと、呆れて苦笑しているヘイジ防衛騎士団長がいた。
「でしょう?私がマギッターに流したことには、間違いなどないのですよ。
仮にも私は、東の王国の王女でもあり、その発信力、影響力が及ぶ範囲には一定の自覚もありますからね」
いや、相手が勝手に勘違いしてくれたから、今回は助かったけど、次はどうなるか分からないからね?
「その証拠に、ヘイの最強ぶりを補強する新証拠であるボーン・ミストは、しっかり流させていただきましたわ」
NOOOOOOOO!
またもや心にならない叫びが走る。
さすがに二度も最強だと流されたら、バレたときにはどうなるものやら分かったものではない。
王女殿下をかどわかしたとして処刑されてしまうかもしれない。
後に引けなくなってしまったじゃないか。
このナタリーは、無邪気でありながら、実際のところ私の生殺与奪権をあっさり手中にしてしまったのだ。
一国の王女とは、やっぱり恐ろしいものである。
そんな風に、僕が内心びくついていると、彼女は、相変わらずの笑顔で、僕に向かって言う。
「では、そろそろ参りましょうか。国際冒険者免状を発行する、冒険者庁へ」
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冒険者免状を発行するという冒険者庁へ向かう道すがら、聖都ラメンの街並みを眺めていると、やはり大きな町は全てのスケールが大きい。
天までそびえんばかりに、何棟も立てられているラメン聖教の教会。その頂上についているもじゃもじゃとした毛玉のような何かは、善神ラメンの像だろう。
ラメン聖教は二神教で、善神ラメンと悪神パ・スタが戦っていると説く宗教である。
善神ラメンに尽くせば、生きているうちも死んだ後も救われる、という主張で、それ故に一日一回は、たとえ心の中だけであっても、祈りを捧げるとよいと言われている。
確か南の海洋帝国を除く全世界で強く信奉されているから、僕らもやっぱりこれを信じなければならない、と故郷の長老が、口が酸っぱくなるほどしつこく子供たちに言っていたな。
元々この西の聖教国も、ラメン聖教を信ずる北の共和国と東の王国が土地を寄進したことで成立しているという歴史だったはず。
詳しいことは辺境の木こりには関係ないから全然頭に残っていないけど、教会で神父さんがそう説明していたのは何となく覚えている。
そんな宗教国家の都だけあってなのか、やはり聖都ラメンには、教会が非常に多いように思われる。
目に見えるだけで、二十はあるかもしれない。
その合間に、大小さまざまな規模の商店が並んでいて、時々商人が、いらっしゃい、見ていくかい、などと声をかけている。
宗教国家と言えども、一日中人々が祈りだけで過ごしている訳ではないようで、その活気のお陰で、僕も教会にいるときのような息苦しさを感じずに済みそうだ。
そんなことを考えながら歩いていると、僕らの目の前に、教会とはまた異なった形の、大きな建物が見えてきた。
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