第12話 水面下で動く娘たち

 途中、 ゴブリンの乱入はあったものの、

その先は驚くほど順調だった。

天気も雲一つない快晴で吹き抜ける風が心地よい。

よくあの騒動の中、 馬は逃げなかったなと思うところもあるが、

ヒナが上手く制御してくれたのだろう。

元々、 彼女も獣だったため何か通じる部分があったのではないかと

勝手に考えているが、素直に感謝しかなかった。

あそこで馬にも逃げられていたら2日で着くところを5日はかかっただろう。

本当に助かったと、春兎は馬車を操るヒナの頭の上に手を置き優しく撫でる。


 ヒナは少しくすぐったそうにしながら、 それでも心地よさそうに

それを受けていた。


 他の三人は先程の戦いで疲れたのか、

さっきよりも静かにしていた・・・ かのように思えた。

しかし実のところ春兎に聞こえないように女同士の静かな戦いが

始まっていた。


「【悪戯な防壁空間シュトライヒ・スパーツァ

これで春兎君には私たちの声は聞こえないよ 」


 クイナが出した魔法、 悪戯な防壁空間。

使用者が範囲を設定することで、 その範囲内にいる者の声は

外部には決して届かない魔法。

通常は偵察や隠密行動、 パーティ内における緊急通信としての

役割を果たすものだが、クイナは自身の持ってる魔法そのほとんどを

長年、 娯楽のためだけに使っていた。


「さて、 これで春兎君の耳には私達の会話は聞こえません。

思う存分話し合えます 」

「あのさ、 何を話すっていうのよ 」

「このクエストを受けた理由についてです 」

「え? ノリと勢いで選んだんじゃないの?」

「・・・ ハァ。 アホですか、 本気で私がそんな理由で選んだとでも? 」

「あー! 今馬鹿にしたでしょ! クイナまで私のこと馬鹿にするつもり!? 」

「馬鹿にはしていません、 考えが少し幼稚と思っただけで 」

「馬鹿にしてるじゃん!! 」

 

 二人の会話を聞いていたアレッタだったが、

話が進まなかったので、 たまらずにクイナに先を進めるように促した。


「コホンッ。 そうですね、 話を進めましょう 」


 そう言ってクイナは話し始めた。

彼女によると、 近年魔王軍の活動が活発化、

更には先日の戦いでフェンリル、 オークナイトが倒されたことにより

他の幹部、 つまりは次期魔王候補の呼び声が高い者たちが、

少しずつ集結しているとのこと。

私たちが見つかるのも時間の問題で、 一人一人

強くなって幹部と対等に戦えるほどの力を身に着けてもらわないと

いけないという話だった。

しかし、 アレッタはふと疑問に思った。


「強くなるのに何でこの任務クエストを選んだんです? 強くなると言っても  他のクエストもあったはず・・・ 」

 

「私がこれを選んだ理由は二つ。 一つはお金、 この人数で移動するには、

それなりの資金が必要です。 そのために一番高額なクエストを受けました。  

もう一つは各々のステータス高上の付与です。

時間のない中、 今回の相手は一気にそれを上げられるため丁度いいのです。

更に王族から直々に謝礼があるそうですよ? 」


「そうだったんですね 」

「魔王の娘がいる中でするべき話では無いと思ったのですが 」

「気にしないでください! 父からは自分の好きなように生きろと言われて

 ますので。それにたとえそれが魔王討伐だったとしても今の私の仲間は、

 このパーティですので 」

 

「そう。 その言葉を聞けて嬉しいわ。 じゃあこのまま話を進めるけど・・・ 」


 クイナが話を進めようとした瞬間、 フレイが待ったをかけた。

それならどうしてこんな魔法を張ったのか。

春兎にも聞いてもらったほうがいいのではないか、

それでなくてもヒナまで話から外す必要はあったのか疑問に

思ったのだ。


「春兎君だけ強くなったら元も子も無いじゃないですか。

私がこの任務クエストを受けた本当の狙いは

私たち自身がつよくなることなのですから 」

「へぇー。 ちゃんと考えてるんだ。ちょっと意外かも 」 

「当然です。・・・ もう突撃罪の暴妖精ディザスター・タイラントなんて呼ばせないんだから・・・ 」

「何か言った?? 」

「何でもありません。 後はヒナを話し合いから外した理由ですが、単純に前に座って馬車を扱っているからです。それにアレッタから聞いた話ですがフェンリルを一瞬で倒したそうじゃないですか 」

「そうなのよっ! あの時のヒナめっちゃカッコ良かった! まさか魔王軍の幹部を瞬殺しちゃうなんて思ってもみなかったわね 」


「それなんですよ。 どうしても彼女の強さが幹部に匹敵するとは思えないんです。 とまぁ今はこの話は置いといてどのみち幹部を倒せるほどの実力であればこの先も問題ないと思いますので、 そこも含めて今回は話し合いは必要ないかなと 」


 二人とも何となく納得したところで馬車が止まった。


 馬車を降りた二人が荷台に近づいてきて、こちらに話しかけているが

何も聞こえない。 そこでクイナは魔法を発動していたことを思い出し

急いで解除した。


「ど、 どうしたんですか!? 春兎君! 」

「え、 いや今回野営する場所へ着いたから呼びに来たんだけど

何の反応も無かったから」

「そうなんですか! わかりましたすぐ行きますね ! 」

 

 少し不思議がったが春兎はすぐに野営の準備へと向かって行った。

その後ろをヒナがついていくが、 クイナのほうを向きグッと親指を

彼女だけに唇だけ動かしこう言った。


 「


(え、 嘘。 まさかさっきの話・・・ 聞かれてた!?!? )


そこでクイナは初めて動揺した。


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