最強パーティ―厄災討伐へ―

第10話 春兎とアレッタ

 外に出ると日差しが眩しく、 吹き抜ける風は心地よい。

春兎は準備をして一足早く外へと出ていた。

前日に討伐に関する説明を受けた後、 皆は一度宿へと戻ったわけだが

疲れが残っていたためか着いて早々、

深い眠りに落ちていき、そのまま朝を迎えた。


「んー! やっぱ朝の空気は気持ちがいいな 」


 春兎は腕を上にあげ大きく背伸びをする。

それが何とも気持ちよく眠気を吹き飛ばしてしまう。

皆がまだ起きてこない様子を見て、 もう一度この街を

見て回ることにした。

次はいつ戻ってこられるか分からないため、

後悔の無いように一通り見て回るつもりだった。


 いざ行こうとした瞬間、 グイグイと引っ張られるような感覚を腰のあたりに

感じていた。春兎はヒナでも起きてきたのだろうと

ゆっくりと振り返える、 しかし実際そこにいたのは

彼の予想していた人物とは違っているわけで・・・

黒髪の女の子、 アレッタ=シルベットが眠たそうにこちらを見つめていた。

彼女は左手で目を擦りながら反対の手で彼の服を掴んでる。


 ――えーっと、 これはどうすればいいんですかね。

さっきから掴んだまま離してくれないし、 どう反応したらいいか。


「アレッタ?? おはよう、 悪いんだけど掴んでる手を—― 」


 ――スースース―。


 ―― 寝てるし!!

 そんなに眠たいならまだ寝ていればいいのにと思いつつも、

春兎はアレッタを優しく起こした。


「あれ? 春兎ひゃん、 おはようござ—― ふぁあああ 」


 彼女は大きなあくびをしながら、

目の前にいる少年に向かって挨拶を交わす。


「起きてくれたか、 悪いんだけど手を離してくれないかな? 」

「ふぇ? 手・・・ ? ・・・ うわわわわわ! すみません!

 私ったら寝ぼけてて! 」

「大丈夫だから、 とりあえず落ち着こうか 」

「あ、 えと、 はいぃ 」


 ――アレッタが寝ぼけるなんてことあるんだな。

何か新鮮な感じがして良かったけど、 って考えてみれば

俺、まだ皆のこと全然知らないんだよなぁ。


「そ、 そういえば春兎さんは、 こんな朝早くに何をしてたんですか? 」

「んっ? 特に何もしてなかったけど、 これから街を見て回ろうかなって 」

「街を、 ですか? 」

「そそ。 次いつ帰ってこられるか分からないし、

 皆が寝ているうちに少しでもね。 それに服装がこれじゃあちょっとね 」


 春兎の服装は、 こちらの世界に来てからずっと学生服のままで

 所々傷がついており、 戦闘の跡が見てわかる程だった。

 そう話す彼を見てアレッタは何か考え込むように下を向いた後、 一言。


「私も行きたいです!! 」



 ♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


「ふっふっふーん 」

「やけに上機嫌だな、 さっきの眠たさは何処へいったのやら 」

「だって、 やっと春兎さんと二人で買い物何ですもん! 」

「買い物ねぇ 」

 

 二人は防具屋へと向かっていた。

断る理由も無かったため、 春兎はアレッタと共に

街を見て回っていた。


「春兎さん! 早く早く!! 」


 ――しかしまた随分とご機嫌だなぁ。


 意外にも朝強かったりするのかな? などそんなことを考えながら前を歩く

彼女についていく。

 

 それほど時間はかからず防具屋へ着き、 二人は静かに扉を開け中へと入る。

すると店の奥から、 一人の女性がやってきた。

髪はセミロングで少し肩にかかる程度、

身長は160といったところか、

おっとりとした物腰で他の人に安心感を与えられる、

そんな印象の人物だった。

春兎が彼女を見つめていると横から冷たい視線が突き刺さった。

ジトーっとこっちをみるアレッタが怖い。

何もしてないのに浮気でもしたかのような罪悪感に襲われたようだった。


 —―おかしいな、 何もしてないのに!


「あの~、 何かお買い求めですか~? 」


 ゆったりとした口調で彼女は訪ねてきて、

防具が欲しいことを説明した。

春兎が欲しいのは丈夫かつ軽い素材の防具、

この街にあるかどうかは正直不安だったが

女性は少し待つようにと言って店の奥へと姿を消す。


 それから5分後、 防具を持った女性がやってきた。


「これなんてどうでしょう? 魔法耐性に優れており、 戦闘の邪魔にならない程軽 くそれに加え丈夫なので滅多なことでない限り燃えたり切り裂かれたりという

心配はございません 」


 女性が持ってきた衣服は確かに軽装という言葉が似合うほど薄く

動きやすそうだった。

例えるなら黒いライダースジャケット、 見た目は文句無しのカッコよさ

だったのだがサイズが合うのかは不安だった。

店員は察したのか、 すかさずサイズは持ち主に合わせて、

伸縮自在になることを説明、 更に値段も安くすると言ってくれた。

良質な装備だったので、 安くすると言ってもいい値段がした。

それでも任務クエストの報酬があったため、

迷わずに購入。

思わぬ買い物が出来て満足だったが、

どうしてそこまでしてくれるのか疑問だった。


「なんでそんなに良くしてくれるんですか? 」

「ん~。 お客様一人一人、 大切に思っての商売を心がけていますのでって言うの  は建前なんですけど、実はあなたのことは知ってたんです 」

「あー、 魔王の幹部を倒したからですか? 」

「それもあるんですが、 あなたが最初にこの街に来た時皆に笑われているのを見  てしまって 」


 ――あーそういえばそんなことあったな。

忙しすぎて忘れちゃってたけど、 てか元はと言えば

あのクソ神様のせいなんだけどな。


「それで私自身も、 あんな武器で勝てるほど甘くないのにって

 少し馬鹿にしてたんです 」

「まぁ、 あんな鍋のフタで勝てるなんて思う奴の方が頭おかしいと思われても 

仕方ないしな 」

「それでも、 あなたは盗賊を倒し、 あの凶悪なフェンリルを倒し更には

オークナイトまで退けさせるという事をしてしまった。


  ――盗賊倒したのは確かにそうなんだけど、 幹部たちについては俺が倒したんじゃ  ないんだよなー。てかギルド館では三人で倒したことになってるのに、

 どこをどう間違えたら俺が倒したことになるのやら。


「だから、 もし話す機会があれば少しでも力になりたいと思っていました 」

「いや、 全然気にしてないですよ? 俺一人で幹部倒したわけでは無いですし、

 それにこんないい装備も買えましたのでこっちとしては、

 ありがたいってところです 」

「そう言ってもらえて嬉しいです! 是非また買ってください! 」


♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


 二人は女性に挨拶をして店を出た。

早速装備を身に着けてみたが、 中々に身体に馴染んだため

違和感は全く無かった。


 チラッと隣を見るとアレッタは頬を膨らませてあからさまに

不機嫌になっている。

お前はリスか! とツッコみたいのを我慢して春兎はポケットから小さな紙袋を、

取り出す。

流石に一緒に来てもらったのにあまり構ってあげられて無かったので

そのお詫びということで、 それを差し出す。

突然のことに彼女はキョトンとした表情になってしまった、

プレゼントだと言って渡すと先ほどまでとは一転して物凄く笑顔になる。

その幼い表情があまりにも無邪気で可愛かったが、 バレると死亡フラグがたちそうなので、 そっと胸の内に隠した。


「春兎さん! これ! 私が貰ってもいいのでしょうか!? 」

「まぁ、 構ってあげられなかったしな。 せめてものあれだ 」


 春兎は店内でアレッタにばれないように、 装備品を選んでいた。

女性店員のアドバイスもあり、 それを買って渡したところ

アレッタが目を輝かせていた。


「中身! 見てもいいですか!? 」

「あ、 あぁ。 気に入ったら身にでもつけてくれればいい 」


 アレッタはワクワクしながら中身を取り出した。

手に取って現れたのは青水晶アオスイショウと呼ばれる

鉱石で出来たペンダントで透き通るようなその青色は、 太陽にかざすと

鮮やかな輝きを見せる。


「綺麗・・・ 本当に私なんかが貰ってもいいんでしょうか!? 」

「当たり前だ。アレッタに買ったんだからな 」

「ありがとうございます! 大切にします! 」


 彼女はそういうとペンダントを首からかけた。

青水晶の輝きもあってのことか、 彼女が少し大人っぽく見えて、

不覚にも春兎はドキッとしてしまった。

優しく笑いながら似合っているかどうか聞いてきたが、

逆にこっちが照れてしまい真正面から彼女を直視出来ずに顔を背けてしまった。

しかしアレッタは回り込んで上目遣いで話してきた。


「春兎さん? 大丈夫ですか? それとも私にはこのペンダント

 似合っていませんでしたか!? 」

「似合っているから!似合い過ぎてるから逆に照れて、って近い近い!」

  

 お互いもう少しで密着してしまうのではないかというくらい近く、

アレッタも流石に気づいたのか少し恥ずかしそうに、 春兎から離れた。


「コホンッ。 さてとそろそろ皆も起きたことだし戻るか 」

「そ、そうですね! 戻りましょう! 」


 アレッタは顔を赤らめながら、 小走りに来た道を引き返す。

それを追って春兎も再び歩き出した。


 


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