第18話 制圧された王都

 戦火が回る王都、負傷した人々、生臭い血の匂い。

それら全てを嘲笑うかのようにはそこに蹂躙する。

無数の魔物を従えて厄災獣ワームは王都の、その城を根城としていた。

絶望に嘆く人々を楽しむかの如く上から

その様を見下ろしていた。


♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


「これは一体・・・」


 王都へと着いた春兎達だったが、

既に戦場と化しているそこを目の当たりにし

春兎は思考が追いつかなくなっていた。


「春兎兄ちゃん、あれ 」

「あれは!? 」


 ヒナに指差されたほうを目で追うとアメリアが

敵と戦っているのが見えた。

自分たちがここに来るまでの間に

どれほどの敵を相手にしていたのだろうか、

その身は既にボロボロで、頭で考えるより先に

五人は救援に向かった。


「ゴメン、 遅くなった! 」


そう言いながら春兎はアメリアの周りの敵を一掃する。


「もう救援来ちゃったかー! 私一人で全滅させる勢いだったのに 」

「全滅って。 でも思ったより元気そうだな 」

「まぁね。 でも元気って程でもないよ。 さっきから毒の瘴気を吸い込み過ぎた 」

「毒? そんなの全然分からなかった。 なぁ皆 」

 

 四人の方を向くと何故か皆して不思議そうに春兎を見る。

アレッタに至っては驚いている様子だった。


「春兎さん、 平気なんですか? 」

「平気って? 」

「アメリアちゃんの言った通りこの周辺、 いや王都全体がもれなく毒の瘴気が

充満しているんですよ!? 私は耐性があるので少しであれば問題ありませんが、

とても人間に耐えられるものでは無いと思うんですが」

「え、 そうなの? でも別にどこも問題は・・・ 」


 

自分で状態を確認していると横からクイナが口を挟んできた。

彼女曰く、 毒についての耐性があるのは、 ここに来る途中で

シルフの加護を受けたからだろうと。

彼女らの加護は状態異常の耐性に効果を発揮し、 本人が意識していなくても

危険を感知すれば自動で発動されるそうだ。

春兎自身、 身に覚えが無かったが今はクイナの言葉を信じることにした。


「シルフであるアッテのあの術を突破したんだし、

春兎君にはその加護を授かる資格が十分にあったってことだよ、

それに今はこんなことで立ち止まっている暇は無いと思うんだけどね 」


 —―確かにクイナの言う通りだ。


 春兎はアメリアに現在の戦況を確認した、

しかし事態は彼らが思っていたよりも悪いことを知る。

南、および西側のエリアが既に制圧されており、

東側においても厳しい戦いを強いられているとのことだった。


「で、 私たちのいるこの北側が唯一生き残っている場所と言っていいかな。

それでも無事とは到底言えないんだけどね 」


 春兎はそこまで聞いてシェスタ、 ロートがいないことに気付いた。

残りの四人も薄々気づいていたのだろう、

フレイがアメリアに問いかけた。


「ねぇ、 残りの二人は? 一緒なんじゃないの? 」

「それが・・・ ここについてからはぐれちゃってどこにいるか分からないんだ。私も急いで探そうとしたけど見事にこの魔物共に分断されちゃって 」


 —―なるほど。 もし仮に知性があの魔物にあるとするならば

少し厄介かもしれないな。

もし制圧されたとされる場所に彼女らがいたとしたら危険だ。


 春兎は少し考えた後、 チームを編成した。


「相手の規模が分からない以上下手に動くのは危険だ。

けどそうも言ってられない、 そこでチームを編成する 」

「チーム?? 」


 ヒナが首を傾げて不思議そうにしていた。


「そう。 時間が無いから戦力的に分けていく。

酷だけど皆には北側以外のエリアを奪還して欲しいんだ 」


 春兎が申し訳なさそうに皆に頼むと意外にもフレイが乗り気だった。


「全く! 仮にも私たちのリーダーなんだからしっかりしなさいよ!

奪還くらい余裕でこなして見せるわよ 」

「そうです! 私だって春兎さんの決断に異論はありません! 」


 —―フレイ、 アレッタ。


 クイナとヒナの方を見ると彼女らもついていくという顔をしていた。

それが嬉しくて少し泣きそうにもなったが、 すぐさま気持ちを切り替えて

春兎はメンバーを分けた。


・南側=アレッタ

・東側=ヒナ

・西側=クイナ

・北側=フレイ、アメリア


 もちろんこれにも意味はあった。

一番被害の大きい所に戦闘経験のあるアレッタ、 クイナを配置。

次に東側に個人でも十分能力を発揮できるヒナを配置。

現時点で被害の少ない北側にフレイとアメリア、

ヒナが東を早めに取り返しそのままアレッタかクイナと合流。

その後もう片方に合流、北側に二人を置いた理由は確実に北側を

死守するためという春兎の計画だった。

当の本人はというと皆が戦ってくれている間の時間稼ぎ。

中央に君臨する化け物を少しでも足止め、その後合流した

皆で一気に叩くというものだった。

しかし内容を聞いてクイナ、 アレッタは快く思っていなかった。


「春兎さん、 確かに私は異論は無いと言いました。

けどその作戦はあまりにも無茶です! 」

「うん、 私たちが各個撃破しエリアを取り戻すというところまでは賛成出来る。

しかしその間、春兎君がワームを相手にするというのには賛成しかねる。

もし仮に私たちが到着するまでにやられていたらどうするんだ! 」

「やられないように立ち回るさ。 それに今はこの判断が

一番のベストだと思っている 」


 春兎の根気に負けたのか、 アレッタ、 クイナは早めに駆けつけることを約束し

戦火飛び交う魔物の群れへと走って行った。

ヒナも二人の後に続き自分の役目を果たすために、

別方向へと走って行く。


「さてと、 あたしたちも負けてられないわね 」


気合を入れなおしたフレイが北側を守るべく剣を振るう。


「何やってんの春兎!せっかく私が戦ってあげるんだから感謝して

早く行きなさいよ!」

「フレイ・・・ 全く後でグリグリの刑だな 」

「なっ!? 今は関係ないでしょ!? 」


 ギャーギャーわめいているフレイに見送られ駆け足で

中央へと目指す春兎、その目の前にアメリアが立っていた。


 「春兎! もし二人を見つけたらよろしく頼む 」


 アメリアの言葉に無言で頷き、春兎もまた魔物の群れへと

突っ込んで行った。


街は混乱に陥っていた。

魔物の進行は留まることを知らず、

建物は半壊し、 木々は薙ぎ倒され人々は避難することもやっとの状態。

この広大な大都市が一瞬で乱戦と化していった。

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