第17話 シルフの守護する森
春兎達五人は緑聖の森、その入口へと来ていた。
ここを抜ければ王都まではかなりの近道になるだろう。
しかし足を踏み入れて早々、違和感に気付くことになる。
――おかしい、さっき聞いた話じゃあ確か妖精族が守護しているようだが
妖精どころか生き物の気配すら感じない。
「なぁ、これってどういう・・・あれ? 」
春兎が振り向くと先ほどまでいた仲間たちがいなくなっていた。
――どういうことだ? はぐれた? いや、 フレイはともかく
ヒナやアレッタまでもがはぐれるとは考えにくい。
だけど今の状況も理解が追いつかない。
さてどうするか・・・
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
春兎が森に迷っているであろうその頃、 他の四人は妖精族と対峙していた。
この森に入り違和感を覚えたクイナが警戒していたのにも関わらずに
目の前で自身の仲間が急に倒れたのだ。
「一体、 何のつもりなのかな? 春兎君を術で眠らせるなんて」
クイナは対面するシルフに笑顔で話しかける。
笑顔とは言ってものの目が笑ってはいなかった。
ヒナ、 アレッタも戦闘の態勢を取っており、 フレイは春兎に浄化魔法をかけている。
「無駄です。 呪いでもない限りその魔法は効果ありません 」
彼女の言葉を聞きフレイは魔法を中断する。
「私の質問に答えてくれるかな? どうして彼だけ眠らせたのさ 」
「彼の腕を試すためです 」
「それが理由で狙ったんですか!? 」
少しの怒りを抑えながら聞くクイナに対し放たれた言葉に
アレッタは驚きを隠せなかったが、 妖精族の長シルフは立て続けに言葉を繋げる。
「あなた方がここを通りたい理由は知っています。
しかしながら簡単に通すわけにはいきません 」
「どういうことですか? 」
「私は他の者の魔力を感じることが出来ます。 しかし彼のそれはあまりにも異質。 私は彼の実力が知りたいのです、それにそこから戻って来れる力がなければ
この先にいる者を倒そうなど無理な話だと思います 」
アレッタの疑問に極めて冷静にその理由を話す。
「妖精族の貴女ならわかるでしょう。アイツの恐ろしさが 」
クイナは黙って一度小さく頷いて見せる。 確かに彼女の言う通りだった。
厄災獣ワーム、 各属性の魔法に対する抵抗力がとても高く攻防共に優れている、
更に言ってしまえば厄災獣と呼ばれる所以はそれだけではなかった。
「懐かしいですね、 もう何百年も前の話ですか。 彼を押さえたのは 」
目の前のシルフは穏やかにそれでいて気のこもった声で話し続ける。
「あの戦いで我々は多くの同胞を失いました。 それがまた繰り返されようとしている。 この戦いはあなた方が思っている以上に過酷だということを自覚してもらいたいのです。 もっともそこの緑髪の彼女は危険性を察しているようですが 」
そう言いながらシルフである彼女はチラッとクイナの方を見やった。
「そうだね、 私もあの戦いで両親を失ったよ。 でも過去がいくら強敵であったとしても今勝てないという理由にはならない。 それに・・・ 」
クイナは一度深呼吸して力強く言い放った。
「春兎君が倒すと言った以上それを信じるのが仲間ってものだから! 」
そこにいたシルフだけでなく隠れて見守っていた他の妖精たちも驚いた。
彼女が【
その中で彼女の口から仲間という言葉を聞かされたからだった。
それを聞いてシルフは暫く考えた。
「分かりました、 あなたの覚悟は十分に伝わりました。 しかしながら
彼の術を解くことは出来ません 」
「それは分かっているさ 」
クイナは春兎のそばに行き座りこんだ。
何をするわけでもなくただただ座りだした。
それを見てアレッタ、 ヒナと続きフレイも少し離れた場所へ座る。
「勘違いしては困るよ、 何も諦めたわけじゃないし信じると
言った以上春兎君が戻るまで待つつもり 」
傍にいた他の三人もそれに同意し首を縦に振る。
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「何処までいっても誰もいない。 ということは敵の罠なんだろうなぁ 」
誰もいない
――何らかの術何だろうけど皆が居ないことを考えると、
俺だけが受けたか、或いは皆それぞれが受けたか、
または皆バラバラにされたかなんだろうけど、
恐らく俺だけ受けたか皆受けたかなんだよな。
バラされたのであれば何らかの今頃クイナやアレッタ辺りが何か
仕掛けているだろうし。
ここで春兎は自身が新しく魔法・スキルを習得したのを思い出した。
――そういえば結局どんなものを覚えたか深く確認していなかったけど
丁度いいからここで使ってみるか。
—――――10分後—――――
――この魔法はヤバいな。
春兎は絶え絶えになった息を整えて再度魔法をチェックする。
—―あと使ってないのはこの魔法か。
まぁあえて最後にとっておいたんだけど。
「【
鍋に手を添え魔法を使うと同時、微かに青色を帯びた淡い光が
春兎を包んだ。
彼は瞬間不思議な声を聞く。
『 私はいつでも傍にいるから 』
この言葉と共に春兎は意識を失った。
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再び目覚めた時ヒナが顔を覗き込んでいた。
――ここは・・・戻って来れたのか。
てかヒナさん?顔近すぎるんですが?
「春兎兄ちゃんが目を覚ました! 」
「春兎君! 戻ってこれたんだね! 」
「まぁ何とかね、 それよりクイナ何があったの? 」
クイナは事情を説明しあるがまま起きたことを春兎に伝える。
――てことは、やっぱり術に掛かったのは俺だけだったのか。
でこっちにいるのが張本人のシルフの女の子ね。
「えーっと・・・ 」
「シルフのアッテです。まさかこんなあっさり戻ってくるとは
思いませんでした 」
予想よりもだいぶ早く戻ってきた彼に対しシルフの少女は驚きを隠せなかった。
「ところで、 時間はどのくらいたった!? まさか一日とかじゃ!? 」
「春兎さん落ち着いてください。 まだ30分しかたっていません 」
「良かった。 急いで王都を目指さないと 」
「ちょーっとストップ! 」
急ぎを見せる春兎に突然フレイが待ったをかけた。
「ちょ、 ここを抜けるのは良いとしてどうやってこっちに戻ってこれたのさ! 」
「んー。 上手くは言えないんだけど魔法でかな? 」
「そんな魔法あるの!? 」
「あるんじゃない? 使えたんだし 」
フレイとの会話の最中、 今度はシルフの少女が待ったをかける。
「一体どんな魔法を使ったんですか!
ただの属性魔法では本来戻ってこれないはず 」
「んー。 良く覚えてないんだけど、 現逆の反転って魔法なんだけど 」
「・・・ 聞いたことない。 やっぱり貴方は
「そりゃあ、 こことは違う世界から来たからな 」
「異世界!? ・・・ なるほど通りで・・・ 」
彼女は一瞬考えた後再度、五人に問う。
「本当に行くんですね 」
「うん。 それが約束だしね 」
「あなた方では勝てないかもしれませんよ 」
「それでもやらなくちゃいけないからさ 」
彼女に一礼をした後馬車に乗り込み五人は再び王都を目指した。
「どうか、 彼らに最上の祝福を 」
何百年も前、異世界から来たとされる者の手によって厄災が封じられた。
そのことを思い出しながらシルフの少女アッテは
森の妖精ピクシーやフェアリーたちと祈りをささげた。
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