第7話 豚みたいな鬼みたいなアイツ!

「何なんだよ! こいつら! 」

「【氷柱連射アイス・レジュール】!! 」


 いきなり襲ってきたそいつらを四人は対処していた。

春兎が鍋のフタで敵を吹っ飛ばし、

ヒナの氷魔法の一つ、 氷柱つららのようなものを幾重にも飛ばしあいての戦力を削っていく。


「うりゃあ!! 」

「惑いなさい。 【幻惑灯籠ルヴェリカ】!! 」


 アレッタは生まれ持った戦闘スキルがあるのか魔法を使わずとも

敵を次々に薙ぎ払い、

クイナは魔法を使って相手の動きを止める。

というより相手が混乱している。

春兎も初めて見る魔法に思わず目を奪われた。

混乱しているところをクイナはすかさずムチ

相手をパパンッと倒していく。


 何故こんな戦闘に巻き込まれているのか。

時間は10分前に戻る。


—――――――――――――—――


 三人はクイナの案内で散策を楽しんでいた。


「ぉぉおー。 春兎兄ちゃん!! 見て見て! キラキラ光ってる!! 」


 ヒナはキラキラ光るペンダントを見てから後ろを振り返り春兎に楽しそうな

眼差しを向けていた。

元々、 氷狼だったためヒナは街というものとは無縁だった。

しかし人間となった今、 何もかもが新鮮に映るこの瞬間は彼女にとってどれほど

楽しいものなのだろうか。

ヒナの楽しそうな顔につられて思わず春兎も笑みがこぼれた。

そして、 そわそわしているのが、 もう一人・・・ アレッタだ。

姿こそ人間の少女の姿をしているが、 紛れもない魔族。

それも魔王の娘ときたものだ。

彼女もまた、 こういった賑やかな街とは無縁だったのだろう。

はしゃぎこそしてないものの、 さっきから落ち着かない様子だなということを

春兎は感じていた。


「・・・アレッタ?? 」

「はいっ!?!? 」

「いや、そんな驚かなくても。そわそわしてるから大丈夫かなって。

 一緒に見に行こ?? 」


 春兎はアレッタに手を差し伸べ、 優しく声をかけた。

彼女は少し戸惑いを見せたが春兎の手を握ろうとした。


 しかしその時だった。


  街に大量の何者かが押し寄せてきた。


 「ウゴォオォォオオオオオ!!! 」


 激しい雄たけびを上げながら、 街の人々に襲い掛かる。

たちまち周囲は大パニックを起こすが、この街の警備兵と思われる集団が

退治を早急に開始していた。

街の人々は安堵に包まれるが、それも一瞬。

相手の数が多すぎたのだ。


「何だこいつら!! 」

「春兎さん気を付けてください!こいつらはオークです。

 攻撃力こそ高くありませんが集団でこられると厄介です! 」


 間からクイナが割って入った。

手を握ろうとしたバレッタは少し寂しそうにしたが、

すぐさま敵を倒すことに集中し始めた。

さっきまで楽しそうにしていたヒナも、いつのまにか春兎の横につき

戦闘態勢をとっていた。


 ――仕方ない。 今はこのオークを優先するしかないか

警備兵だけでは、この数には勝てないと見越し

四人は押し寄せるそれを倒すのに力を貸すことにした。


――――—―――—――—―


「大体倒したか?? 」

「そうですね。 でも何でオークが急に 」


 春兎とクイナは一旦呼吸を整えながら、

口を開いた。そして春兎の横からアレッタが口を開く。


「すみません。 もしかしたら私がまた迷惑かけたのかも・・・ 」

「迷惑??何言ってるんだ? 」

「いえ、 また私を追って誰か来たんじゃないかなって 」


 そこには笑顔は無く、 悲しそうに彼女は俯いていた。

それを見た春兎は思わず・・・ ツッコみたくなった。


「アレッタ 」

「はい・・・ 」

「んのぉ、 アホォ―—―!! 」


 スコーンとアレッタの頭部にチョップをかまし、

人差し指を彼女に向けて言い放つ。

 

「迷惑何て思うなアホ! 」

「えっ!? えっ!? 」

「いいか! こんなの迷惑のうちに入らないんだよ!言ったよな?

 魔王の娘でも神の娘でも来いって! アレッタのことは仲間だと思ってるし

 仲間が大変な目にあってるなら助けるのは当然でしょーが!! 」


 アレッタは春兎の言葉に驚いたのか少し、 照れくさそうに下を向きながら

それから少し、 はにかんだように春兎を見た。


「フフッ。 春兎さん、 そのセリフ恥ずかしくないんですか? 」

「何をー!? 」

「冗談です。 ありがとうございます、 お陰で少し気が楽になりました 」


 さっきまでの落ち込みが嘘だったように、

アレッタの表情は柔らかくなった。

と思うと同時にクイナから声をかけられる。


「お話し中のところ悪いんだけど、

 前方から物凄い殺気が近づいてくるんですけど」

「春兎兄ちゃん、 相手物凄く強いよ」


 アレッタ、ヒナから強烈な緊張感が伝わってくるのが分かった。

街の正面入り口から二人、 一人は大柄な男。

もう一人は小さな男。 どちらも強力な魔力を持っているが、

特に大柄な男の魔力は禍々しく、 狂気すら感じられる。

しかし、 ただ一人春兎だけは例外だった。

いくら魔法適性があるからと言っても、

魔力を感知するのとは別の話。

春兎は相手の魔力がいかに強大か自身で分からないのだ。

フェンリルの時も然り魔力感知が出来ないからこそ、

慌てる素振りすら見せなかった。


「何か物凄い睨んでるんだけど? 」

「え、 いや何で春兎さんそんな平気なんですか。 あの風貌、

 恐らく魔王軍ですよ? それもかなりの強さ 」

「春兎兄ちゃん、 あいつ倒す?? 」

「そうだね。 ヒナやっちゃって! 」


 ヒナが攻撃態勢に入った時、

横からアレッタが止めに入った。


「待ってください! あの人とまともやりあっては駄目です!! 」

「どういうことだ?? 」

「彼、 得意は接近戦なんですが魔法耐性が高く特に

 風、 氷の魔法は効かないです」

「うそ! あんな豚みたいなやつなのに、 魔法耐性とかあるの!? 」

「春兎さん言い過ぎですよ、 見てください。

 目の前の豚男、 顔真っ赤じゃないですか 」


 クイナから注意されたが、

当の本人もめちゃくちゃ煽っていく。

確かに目の前にいるソイツは顔が真っ赤になってるように見える。

その男は顔を真っ赤にしながら、

それでも冷静を保ちながら話始める


「こいつらを倒したのは、 てめぇらだな?」

「だとしたらなんだ。 豚男 」

「ブフッ 」


 春兎の言葉にクイナは笑いを堪えていた。

笑いを堪えながら、 もう一度その男を見ると、 可笑しくてふいてしまった。


「てめぇら、 さっきから豚豚うるせぇんだよ! 俺は豚じゃねぇ!!

オークナイトだ。 俺の恐ろしさ、そこのガキなら

分かるんじゃねぇか??」


「彼の言うとおりです春兎さん。 確かに見た目はあれですが、

あれでも魔王の幹部クラス。 単純な力比べならフェンリルよりも上です。 」


「そういうことだ。 とりあえずくたばれや!! 」


 オークナイトは、 そう言って持っていた斧を振り回し始めた。

砂埃が宙を舞い、 二人の男の姿を隠す。

油断はしていなかったが、 一瞬の隙にヒナの間合いまで詰め寄り

彼女を斧で吹っ飛ばす。


「くっ 」


 苦痛の表情を浮かべながらヒナは後方へと飛ばされた。


「ヒナっ!!! 」

「春兎兄ちゃーーん!! 私は大丈夫だから!!! 」


 後方で吹っ飛ばされたヒナは多少傷を負ったものの大丈夫なようだった。

 

「さてと面倒そうなやつも片付けたし、 あとはあんたらだ 」

「オークナイト様早く終わらせてしまいましょうよ。 街の奴らの捕獲に

 失敗してしまった今、 魔王の娘を捕らえるのが最優先事項です 」

「確かにそうだろうな。 よしお前いらない 」


 オークナイトは斧を全力で振り上げ、

今まさに彼と話していた側近のオークを遥か彼方へ飛ばした。


「おい、 どういうことだよ。 仲間なんじゃなかったのか 」

「仲間? 勘違いするなよ。 俺は俺のやりたいようにやるだけだ。

俺は別に、そこの娘を連れ戻そうなんて考えちゃいねぇわけよ。

ただ強いやつと戦いたいだけだ 」


 オークナイトはそう言い放ち、 斧を構え春兎を指名した。

 春兎の武器は鍋のフタなわけできっと、 斧で鍋のフタ壊されるんだろうなと

そんな嫌な想像が彼の頭をよぎる。


「来い、 もしあんたが俺に勝ったら見逃してやる。

 だが俺が勝てばここのやつらは全員皆殺しだ 」


「春兎さん。 コイツの口車に乗る必要なんかありません。 私も戦います 」

「そうですよ。 魔王の娘である以上私にも戦う責任があります 」


 クイナとアレッタは春兎に駆け寄るが、

当の本人は、 二人の応援を断った。

確かに嬉しい誘いったが、 春兎は、 それどころじゃなかった。


 ――え、 待ってこんな奴と戦うの? 体格差ヤバいんだけど。

なんか軽く鬼みたいな形相だし豚だか鬼だかわからんにょ

だけど!?!?!?!?

もうだめ。 混乱しすぎて頭の中でも呂律が回らない。


 二人の応援を断ったのは、 カッコつけたいとか、 心配させたくないからとかではなく、ただ単純に話を聞いてなかっただけで、 それくらい春兎は動揺していた。


 ――あ、 やばい冷や汗止まらないどうしよ。

う〇こがでそうなくらい緊急事態なんだけど。


 少しだけチラッと相手の方をみたら、 準備運動をしていた。


 ――どうしてこうなった。

もうやだ、 帰りたい。


 後ろを見ると応援を振り払った二人の羨望の眼差しが素直に胸に突き刺さる。


 —―やめて? 眩しすぎて心が痛いよ。


 春兎はそんな二人の眼差しがあったからなのか、

渋々オークナイトとの戦闘を受けることにした。


 ―—―本当に漏れそうなほどピンチ!!


 心の中で春兎は叫んだ。










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