第8話 漏れるとかの次元じゃなくてね!?
――さてどうしたものか。
春兎は二つの意味で危機に陥っていた。
一つは目の前の敵が強そうということ。
二つ目は、 本当にう〇こが漏れそうということ。
主に後者のほうが今の彼にとっては最優先事項だった。
本当にピンチに陥っていたのだ。
—―ヤバいヤバいヤバい。 本当にヤバい。
お腹がぎゅるるって鳴ってるんだけど。
何か変なものでも食べたかな!?
「どうしたクソガキ。 来ないなら、 こっちからいかせてもらうぞ! 」
オークナイトは全速で走りながら突っ込んでくる。
手にはしっかりと斧が握られており、
春兎めがけて一直線だった。
「誰が、 逃げ—― 」
ぎゅるるるるるるという音と共に腹痛が春兎を襲う
――うぉおヤバい。 腹がヤバい!
てかクソとかいうなよ! いまの俺には禁止ワードなんだよ!
「死ね 」
ナイトオークが春兎の目の前まで迫り斧を振り上げる、そして—―
勢いよく斧を振りかざす。
地面に斧が当たった衝撃で、 ズドォオオン! という音と共に
激しく砂埃が舞い散り春兎の姿を隠す。
「あっけないな。 所詮はクソガキだったか 」
「嘘。春兎さんが死―― 」
「春兎兄ちゃーん!! 」
アレッタとヒナの心配する声が春兎には届かない。
何故なら—―
「悪いな。 まさかフレイに助けてもらえるなんてな 」
「ふんっ。 別に助けたくて助けたわけじゃあ。 たまたま、
そうたまたま通りかかったからよ! 」
フレイは春兎を抱えたままオークナイトの後方へと移動していた。
いまのフレイは春兎とほぼ同じ背丈である。
これがフレイの使える呪文の一つ、
外見変化。 自身にも効果のある技が使えてフレイはホッとしていた。
というのも外が騒がしくて起きて見れば心声聴は解けていたが、
春兎がピンチではないか。 しかし自分のこの外見じゃ、 あの魔物に勝てそうもない。
なら春兎と同じくらいの背になればいいんじゃないかという、
楽観的発想に思い立ったというわけだ。
幸運度が極端に低い彼女にとっては賭けではあったが。
それを見事に賭けに勝ってしまった。
「あれは、 フレイさん? 」
アレッタが驚くのも無理はない。
今の彼女は春兎と同じくらいの背丈なのだから
「全く。 春兎ってば私がいないと本当にダメダメなん —―何?? 」
「フレイさん? そんなに強く肩叩かないで?? 漏れちゃいそうだから 」
「漏れるって何よ。 おしっこ?? 」
「残念ながら、 違うほうだ。 俗にいうモンスターだ 」
「なっ!? 女の子の前でなんてこと言うのよバカぁ! 」
残念ながら今の春兎にはフレイと言い合う余力がほとんど残されていなかった。
「テメェら俺を無視してんじゃねぇぞぉおお!! 」
「あーあ。 どうすんのよ完全にアイツ切れてるんですけど 」
「仕方ない。 やるしか—― 待てよ。 フレイ、 アイツにも【
「出来るけど、 成功する試しはないわよ?私のは、
たまたま上手くいっただけで 」
「分かってる。 最初からうまくいくほうに賭けてないから安心しろ 」
「なっ――!? 」
――大丈夫だ。 もし俺の仮説が正しいのであれば、
無理に相手と戦う必要はない。
「頼むフレイ、 やってくれ 」
「あぁ! もうっ! 分かったわよ。 やればいいんでしょ!? 」
フレイが魔法を発動させようとした瞬間、 彼女の右手に重なるように
春兎の右手が彼女の手の上に添えられた。
「ちょっ!? 春兎!? 何を!!? 」
「いいから! アイツに集中しろ!! 」
「もぉー!! 何なのよ!! 」
半ばやけくそで彼女は外見交換をオークナイトへと放った。
「はっ! んなクソみたいな攻撃俺には効か—―!? 」
本人も驚いたことだろう。
まさか自分が豚になっているだなんて。
さっきから何か訴えてるみたいだが、
俺には分からなーい。
攻撃するフリをして見たところ、 豚になったナイトオークは
勝てないと踏んだのか一目散にどこかへ逃げていった。
――助かったのか??
一瞬の沈黙。
すると一人の女性が助かった!! と嬉しさのあまり飛び跳ねていた。
それに呼応するように、 一人、 また一人と喜んだ表情で笑いあっている。
数秒もしないうちに街は歓喜の渦に包まれていったのだった。
「成功したな 」
「どういうことよこれ 」
「フレイの運の無さを逆に利用させてもらった 」
「私の? 」
「その魔法は自分が想像した通りの姿にさせる魔法のようだが、
幸運度がマイナスになれば、 それとは反対のことが起こると思ってな 」
「そっか! だからあいつが豚に! 」
「まぁ賭けでもあった。 幸運度がマイナスってことはどんな姿になるかは
ランダムにも近いからな。 さっきの姿よりも凶暴になるかもしれなかったし。
まぁ。 効果がいつまで続くのか知らん... が... ヤバい! 」
後ろで見ていた三人も春兎の元へ駆けつけてきた。
「春兎さん。 御無事で何よりです 」
「春兎兄ちゃん凄い! 」
アレッタとヒナは嬉しかったのか春兎の前で
小さく跳ねている。
ゆっくりと歩み寄ってきたクイナもまた
嬉しそうな表情を浮かているが、
いまの春兎にそんな余裕などなかった。
「ちょっとどうしたのよ!? 」
「もう... 我慢出来ない... フオォーー!!! 」
心配するフレイの声を他所に春兎は謎の奇声をあげながら
どこかへと居なくなってしまった。
「えーっと、 どうします?皆さん 」
クイナの問いかけに三人は無言のままだった。
だが直ぐにフレイが口を開き、それに続くようにアレッタ、ヒナも口を開いた。
「私、 まだ街見ていないから見て回りたいんだけど 」
「ヒナも! ヒナもまだ見たい!! 」
「私も迷惑でなければ 」
じゃあ決まり! ということでクイナは街を見て回ることにした。
予想外な敵が現れたのは致し方ないが、 本来の目的はこっちだったのだから。
そしてそのすぐ数分後、 満足げな顔の青年が戻ってきた。
「ふぅ-。 危なかったー。
もう少しで俺のモンスターが地上に堕ちるところだった 」
「なぁーにが俺のモンスターよ! 」
「げっ。 フレイ。 まだここにいたのか、 てっきり街を見て回っているのかと。
てか姿戻った? 」
見ると普段のフレイの姿に戻ったようだ。
やっぱ、 フレイはこういう感じじゃなきゃなと
春兎はホッとしていた。
「今何か失礼なこと考えたでしょ? 」
「考えてない! 考えてない! 」
――全く。 こういうところは妙に鋭い。
「ふふ。 皆で決めたんです。 春兎さんが戻ってから一緒に行こうって 」
横からクイナがクスっと笑いながら、
春兎に簡単に説明したところで五人は街を見て回ることにした。
街はすっかりいつもの活気を取り戻し、
まるでオークが来ていなかったかのような賑わいだ。
人の力って凄いんだなぁと春兎が心の中で感心していると、
後ろから学生服を引っ張られた感触があったので振り返ると
恥ずかしそうに俯いていたアレッタがいた。
「どーしたの春兎? 」
急に立ち止まったためか、 前を歩いていたフレイがこちらを振り返る。
それに合わせ皆一度足を止めたが、 すぐに追いつくからと
春兎は三人を先に行かせた。
「さてと、 何か話したいことあったんじゃないのか? 」
「え、 あ、 いえ、 その 」
先程は不安そうにしていた彼女だったが、
今は何だか恥ずかしがっているようにも見えた。
「あの、 先程はありがとうございました 」
「え? あー、 いいよ別に。 結果フレイが来なかったらヤバかったんだし、
俺もトイレでそれどころじゃなかったしな 」
「それでも! 春兎さんは私を守ってくださいました! 」
「ま、 まぁ、 仲間だからな 」
――アレッタってこんなに意思表示はっきりする
魔王の血が流れていることも関係しているからかもしれないが。
「その、 それだけです! それじゃあ私は先に・・・」
――何だ?急に大人しく・・・ あぁ。 そういうことか。
春兎はオークが来る前のことを思い出し、
彼女に向って静かに手を差し伸べた。
「さっき繋ぎそびれたもんな 」
「いいんですか? 」
「たかが手繋ぐことくらい気にするなって 」
「・・・はい!! 」
もしアレッタに尻尾が付いていたのなら、
分かりやすいくらいの反応が見れただろうなと
春兎は静かに思っていた。
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