第22話 再生魔法

王都中央部、厄災と言われる大蛇を相手に

春兎はその場から動けずにいた。


「参ったな。まさかこんなことになるなんて」


春兎は辺りを見回しながら軽くため息をつく。

いつの間にか辺りを取り囲む様に

多くの魔物がそこにはいた、それだけなら掃討するだけのはずなのだが、大蛇が目の前にいては、それすらもまともに行うことが出来そうにない状態だった。

敵の殲滅を優先すれば目の前のワームに襲われかねない、かといってそっちに集中すれば

敵の集中砲火を浴びること間違いなし。

この上ない最悪な状況下だったが春兎は至って冷静だった。


今やるべきことはワームの討伐。

周りからはその手下と思われる魔物の群れ。

はてさて困ったものだが、やることは変わらない。

あくまでも目的はワームを倒すこと、

それ以外はその過程に過ぎない。

春兎は盾を構え、臨戦態勢に入るが、

それを察したのか周りの敵が次から次へと

春兎へと襲いかかっていく。

もちろんソイツも周りの敵に合わせ、

いつでも仕留められる態勢に入っていた。

しかし春兎は、そんなことはお構い無しと

いうばかりに真っ直ぐ一直線にワームの元へと駆けていく。


「威勢だけは認めてやる」


ただ一言だけ言い終わると、

ワームは一斉に辺りの魔物をけしかけてきた。

春兎は襲いかかる魔物に目もくれず、

ただ一直線にワームの元へと駆けていく。

すぐ背後、何十センチとない距離に詰められ

魔物達は自身の爪を対象物へと向ける。


――仕留めた!

ワームは確かにそう思った。

しかし予想とは裏腹に魔物が爪をたて襲ったのは自身の仲間だった。

周りの敵が驚くのも無理はなかった。

何故ならそれらは急なやってきたのだ。



春兎は小さな声で礼をして

後ろを振り替えることなく駆けていく。


何が起きたのか、ワームの視線の先には

少女が二人立っていた。

一人は青い髪の少女、もう一人は黒い髪の少女だった。


「マサカあんな小娘共にジャマされるとはな、だがフタリ増えた所でモンダイない。所詮はただの人間ダ」


敵は向かってくる少女二人に自身の兵を

差し向ける。

十、二十とどんどん増えていく敵に対し、

少女達はただ突き進んで行く。

襲いかかる敵をも軽々と払いながら、

真っ直ぐにワームの元へと向かっていた。


「誰かいませんかー」


春兎は中に入るや直ぐに、あたりの状況を確認していた。

周りは薄暗く、血と何かが混ざり合ったような酷く気分が悪くなる匂いを

放っている。

二階、三階まであるだろうか目を凝らしながら階段へとつづく道を進む。

途中、何かの奇襲が仕掛けられてると思い警戒をしていたが

何事もなく二階へと着いてしまった。


――さて、どうしたものか。


周りを警戒しながらひとまず救助者がいないか各部屋を探すが至るところが腐敗していて

とても人が生き残ってる感じがしない。

それでも微かな希望を信じて一個ずつ部屋を見て潰していく。


「あれは」


三階の一室、微かに光が漏れている場所があった。

目に見えて分かるような光ではなく、

注意しないと分からないような弱々しい光だったが辺りを警戒しながら進んでいた春兎はそれを感知していた。


「うっ、ぐ」


人が倒れてる。見慣れたその姿は双子の姉妹の内、

ロート本人だった。

すぐさま近くへ駆け寄り、無事を確認する。


――よかった、幸い致命傷は避けられているみたいだ。


しかし暗くて最初は分からなかったが、

よく見ると肌は赤く焼けており、

所々紫色に変色している現象、

毒に侵されている、それも高位の魔法での

継続型の毒、そしてもう一つが、

延焼魔法で、こちらも継続型のものが掛けられていた。

ロートは倒れながらも、状態異常回復魔法を倒れても尚、無意識下で発動されていた。


しかし春兎はすぐにそれが半永続型の延焼魔法だということに気がつく。

その証拠にロートの対抗魔法は反応こそしているものの

延焼反応が消えず、じわじわと身体を害していっていた。

 

――まずい、このままじゃロートは助からない・・・

  何か、何か手は無いのか・・・

ふと春兎は持っていた鍋のフタが点滅しながら光っていることに気が付いた

こんな時に何の光なんだよ。こっちは急いでるっていうのに!!!

焦りに焦りを重ねる春兎だったが頭の中に

自分がたった今覚えた魔法が流れてくる。


『魔法:脈流の再生リバース・リカバー


この魔法は一体・・・

いや、今はそんなこと考えてる場合じゃない!このタイミングで出てきたんだ、

何としてでも役に立ってくれなきゃ困る!


「安心しろ、ロート今助けてやるからな

・・・ふぅ、脈流の再生リバース・リカバー


春兎はロートの手を握り、魔法を発動させた。その瞬間、ロートの身体から毒素が抜けていくのが見てとれた。

更にあれだけ酷かった火傷までもが、みるみる内に治っていく。

春兎はその様子を見て安堵したのと同時に

強い目眩に教われその場に倒れてしまった。










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無名な彼女は魔王の娘!? 夜月 祈 @100883190

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