第21話 氷狼と風狼

 王都東エリア—―

 

 ヒナは相対する目の前の少女を睨みつけていた。

 

 春兎を追いかけようとした矢先、 突如として目の前に

立ちはだかり行く手を阻む謎の少女、 身長は同じくらいだが、

戦闘能力だけでみれば自分よりも上だろうと認識する。

ここで足止めを喰らうわけにもいかず、 一刻も早く仲間の元へと

駆けつけたかったがその望みも薄くなっていったところだった。


「そこどいて、 早く春兎兄ちゃんの所へ行かないと 」

「春兎? あぁ、 さっきものすっごいスピードで中心部へ向かって行った・・・ 」

「悪いけど、 話している余裕は・・・ない! 」


 ヒナは既に得意と言っても過言ではない氷結界からの氷決壊で

一気に勝負を決めに行った。

いつかの魔王幹部の一人、フェンリルすら手も足も出なかった技なだけに

彼女の本気度がうかがえる。


「・・・終わり、【氷決壊アイス・ブレイク】 」


 パリンッという音だけが響き氷が儚く散っていく。

その様子を見届けたヒナが駆けようとした時、周りの異常に気が付いた。

見ると先ほどまで乱戦だった光景が嘘のように静まり返っており、

物音どころか人の気配すら感じられない。

そんな奇妙な雰囲気に飲まれそうになりつつも彼女は落ち着いていた。


「【氷眠アイシング】」


 言うと彼女は静かに目を閉じ気を一点に集中し始めた。


「そこ!」


 次に目を開けた時ヒナは気配のするほうへ氷の刃を投げつける。

ヒュンッという刃音はおんと共に先程までいなかったところから声が

聞こえてくる。


 —―いったぁい。 なんなのさもうっ。


 その声と共に視界がぼんやりと切り替わっていく。

ヒナは元の現実へと戻るや否や間髪入れずに声の主の元へ

技を浴びせる。


「もう同じ手は食わない、 【氷柱連射アイス・レジュール】 」

「わぁっ! ちょっ、 ちょっとタンマ!! 」

「やられて!! 」

「いきなり攻撃って、 ちょ、 危ない! 」


 ヒナのいきなりの攻撃に驚いた少女だったが、

自分に向かってきた氷柱連射をことごとくかわす。

それでも彼女の攻撃は止まることを知らず、

一気に降り注いできた氷に呑み込まれてしまった。


「ふぅ、 今度こそ終わった 」


 一息つくヒナだったがすぐにまた警戒態勢を取る。

土埃と同時に倒したはずの少女が、

無傷で目の前に立っていたのだ。


「全く、 いきなり攻撃なんて酷いよ! 」

「何で・・・? 」

「そんな不思議そうな顔しなくてもいいじゃん、 もう! 」


ヒナが不思議そうにしているのを余所に

目の前の少女は一人言のように文句を呟いていた。


アイス・・・ 」

「わぁっ! ちょ、 まって! 話し合おう! 話せばわかる! 」

「問題ない 」

「あるから! 問題あるから! 私死んじゃうから! 」


そこまで聞いてヒナは攻撃を中止

したがすぐさま、 また臨戦態勢に入った。

話している限りそこまで強いという印象は

受けなかったが、自分の技がどのようにして

破られたのかが気になったからだ。


「ちょっと待ってったら! 戦う意思は無いんだってば! 」

「さっき、 攻撃されたけど? 」

「あれはちょっと試してみたの!面白そうだっから! 」

アイス・・・ 」

「ごめんってば! 謝るから! 」


手をパチンッと合わせて謝る姿を見て

ヒナは一旦攻撃する姿勢を崩す。



「ふぅ、 ようやく話せるよ」

「どうして生きてるの? 確かに技は当たったはずだけど 」

「ふふーん♪ それは秘密~ 」

アイス・・・ 」

「分かったってば! 攻撃しないで! 」

「じゃあ話して 」


ヒナのそっけない態度に、若干ためらったものの相対する少女はため息まじりに話し始めた


「はぁ、 まず先にさっきの幻は私の技の一つ、 そして今の氷柱連射だっけ? あれは当たったんじゃなくて全て

「つまり・・・? 」

「あー、 もう! つまりこういうこと!! 」


説明するよりも実際に見たほうが早いと判断したのか、少女は自らの身体を宙に浮かせて見せた。

それを見たヒナは目をキラキラさせて

興味津々に見入っている。


「私の出しているこの風が魔力感知の役割をしているんだよ 」

「おぉ! 凄い! 」

「ふふーん♪ でしょでしょ?私って凄いんだから! こういうことも出来るんだから!【突風爆扇フウセンカズラ】 」


そういうと両手に魔力を集中し始めた。

そして腕を広げ周囲の魔物に向かってそれを放つ。

当然として周りにいた敵は吹き飛ばされたのだが、よく見ると敵の身体に無数の切り傷がはいっていたのがヒナには見えた。


「凄い!何その技 」

「敵を近付けずに倒す技だよ? まぁまだうまく制御は出来ないんだけどねー 」


自分とは異なる技に興味を持ったヒナだったがそれと同時にふと思った。


―― ・・・今のって味方じゃないの?


周囲に飛ばされた敵に目をやると

何かを悟ったのか目の前にいる少女の顔が

段々と青ざめていくのがわかった。


「アワワワワワ、 どうしよ、 やっちゃった 」

「・・・ えーっと、 仲間だよね? 今の 」

「え、 ち、 違うよ!? 全然知らない! 」

「え、 でも今、 アワワワワワって 」

「ち、 ちがっ! 」

「やっちゃったって 」

「やってない! ・・・ 事故、 そう事故よ! 突然強い風が吹いて皆飛ばされて・・・ 」

「・・・ジトー 」

「そんな目で見ないでよ! えーっと、そう! 悪いのはここを蝕んでる奴よ! ソイツのせいで皆やられた! きっとそうに違いない! 現に魔王様の部下以外にも紛れ込んでいたし 」

「え? 全部仲間なんじゃないの? 」

「そんなわけないでしょ!? 誰が好き好んであんなキモ蛇どもと仲良くしなきゃいけないのよ! まぁ自分の部下の顔すらわからないんだけどね♪ 」


 ハァ――― と大きなため息をつきヒナは再び辺りに倒れている敵を

見渡していて考えていた。

もしかして今、この魔王の幹部と戦う必要は無いのではないか?

敵の傷口を見る限り皆、大体同じ個所に切り傷がついており

その力を繊細に扱う魔力操作マナコントロール技術は

彼女の目から見ても非常に優れており、それ故に一時だけでも

仲間になってくれたならどれほど強力なものなのだろうかと。


(これで魔力が制御できないって・・・)


「ねぇ、 ところで名前聞いてなかった。」

「私はアクゼナ!魔王幹部の一人で自由気ままに旅する少女さ! 」

「・・・えと、アクゼナ 」

「なになに?? 」

「もしよかったらなんだけど一緒にあの蛇倒すの手伝ってくれない? 」

「えー、 でも私も暇じゃあないからな~ 」

「ふーん、 さっき言ったこと忘れたんだ・・・ 確か元凶はあいつだって、

 まぁいいか今そこの部下起こして本当のことを・・・ 」

「分かった! 分かったから! 協力してあげるから! 」

「やった! アクゼナありがとっ! 」

「全くもう・・・ で、 君の名前は? 」

「ヒナ、 氷狼のヒナだよ 」


氷狼という言葉を聞いた瞬間、 自身の八重歯を覗かせながら

目をキラキラと輝かせ始めた。

ヒナは不思議に思っていたが、 目の前の少女が自ら話し始めた。


「ヒナって氷狼なんだね!!! なんだもう早く言ってよ! 親戚みたいなもんじゃんそしたら! 」

「えと、 何が? 」

「あ、 そっかまだ言ってなかったね 」


 そう言うとアクゼナはヒナに軽くお辞儀した。


「改めまして風狼のアクゼナだよ! よろしくねヒナ! 」

「え、 う、 うん。 よろしく 」

「さーってじゃあ行くとしますか! 」


 気分が乗ってきたのかルンルン気分でアクゼナは

都市の中心部へと向かって行く。

それに続いてヒナも後を追った。

先程はアクゼナの勢いにつられ、ついつい反応してしまったが

先を行く少女を追いながら冷静に考え直した


・・・やっぱりどう考えても親戚にはならないよね?

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