第13話 奇襲!夜襲!強襲!
この日、 五人は野営をしていた。
次の街に着くには最低でも後、 半日はかかるため
静かな森の中で過ごすことを決めていた。
辺り一面、 真暗闇で目の前で燃える焚火が
安心感を与えてくれる。
既に皆寝静まっていたが春兎は見張りの役目も含め起きていた。
目が冴えて眠れないっていうのもあるが、
今は彼女らを休ませることが一番だと見張り番を自ら引き受けた。
暫く焚火をボーっと見つめていた春兎だったが、
ふと思い出したようにギルド証を取り出した。
自分が習得した魔法の整理でもしようと思ったのだ。
新しく覚えた魔法は4つでスキルが3つ。
そのうちの一つが【
いうわけだ。
もちろん契約上、 鍋のフタに関わる技しか習得できないわけだが、
それでもこの短い期間で強敵と対峙してきたのだから、
少しは誇ってもいいんじゃないかとさえ思えてくる。
「ふぅ、 まだ試していないものもあるけど流石に使っておかないと
まずいよなぁ。技の性質もまだよくわかってないし、
それにこの武器についても 」
――皆が寝ているうちにいくつか試したほうがいいか?
けどもし起こしてしまってら申し訳ないし、 やっぱ起きてる時のほうが良いのか。
そんな考えを繰り返しているうちに少女が一人、 眠りから目覚め春兎の方へとやってきたのだ。
「ふぅわぁぁあああ。 春兎君、 見張り交代するから寝てきてもいいよ? 」
そう言ってクイナは春兎の前へと歩いてくると横へと座った。
「気持ちは嬉しいけど、 クイナだってまだ眠いんじゃないの?
無理しないで寝てくればいいのに」
「私は長らく夜型の生活をしていたので規則正しい生活っていうのが
まだ慣れてないのよ 」
「それでよく昼間あんなに起きていられたな 」
「私でもビックリよ。 ・・・ 春兎君、 寝なくて大丈夫なのであれば
少し話に付き合ってもらえないかな? 」
話というより質問だった。
これから立ち向かう炎帝ケルベロス、 その後に戦うであろうキマイラ、 ワーム。
この
挑む案件、 選んだのはこちらであっても拒否も出来たはず。
なのに何故引き受けたのかと。
春兎はしばらく考えたが当人にして見れば彼女らがこれ以上暴走するよりかは、
こっちのほうがいくらかマシに思えただけで理由らしい理由なんて
存在しなかったのだ。
そんなことを口走ってしまったら他のメンバーからも
きっと後でボロクソ言われるに違いない、
だから必死に理由を探していたわけだが、まぁ見つからない!
目の前の彼女はじーっとこっちを見ているし適当な理由で逃げられるとも
思えない、まさに手に汗握る展開のわけだったが
沈黙が続いていたのでクイナは不思議そうに
何か言えない理由でもあるのかと問いてきたが、
春兎は黙って頷くしかなかった。
「そうなのか。 じゃあケルベロスを倒したときにでも聞かせてね。
流石に三体倒した後っていうのは待ちきれないからさ 」
春兎はブンブンブンブンと激しく縦に首を振った。
クイナは何となく理由がなさそうだなということを察していたが
深くは追及しなかった。
それから二人は他愛もない話をしていた。
フレイの普段の態度や氷狼であるヒナが半獣人になるまでの経緯、
アレッタが魔王っぽくないってことなど。時折可笑しくて静かに
笑いあいながら語っていた。
どのくらい時間がたったのだろうか、
あたりはクイナが起きてくる時よりも暗く、冷たい風が
肌をなぞる。
「寒っ! 焚火の火強めるか、 クイナ流石に寝ないと・・・ クイナ?? 」
「しっ!! 」
クイナは物音を立てないように目で合図を送る。
彼女の意図を素早く理解した春兎は、
その場で黙り込み周囲の音に集中する。
(二人・・・ いや三人か?? )
ほとんど物音の立たない動き方だったが今の春兎には
微かな地面との擦れの音でさえも敏感にとらえることが出来る。
これが彼が習得したうちの一つのスキル【
スキル発動中は相手の細かな位置を知ることが出来るが、 その代わりに
他の魔法及びスキルが使えなくなる・・・ということを彼はまだ知らなかった。
「クイナ! 敵がこっちに向かってきている、 俺らで対処するぞ 」
「分かったよ! 」
「・・・来る! 」
春兎の声と同時、 見慣れない黒い布切れを纏った者たちが二人を襲いに行く。
クイナは自分専用の武器、 『
相手目掛けそれを振るうが避けられてしまう。
しかしクイナの攻撃はそれで十分だった、
もう片方の仲間が魔法を使う時間を稼ぐには。
「春兎君! 任せたよ! 」
「了解、 行くぞ
彼が技を発動した瞬間、襲ってきて者たちは
その荒くれた風によって飛ばされた・・・ はずだった。
・・・・・・ シーン ・・・・・
「あれ!? おかしいな間違えたか!? 龍舞風! 」
・・・ しかし何も起こらなかった。
それもそのはずだった。 彼はスキル気配誘導を発動中だったのだから。
通常であればスキルを発動しながら魔法を繰りだすことは可能であり、
むしろそっちの方が遥かに強い、 だが彼は使えなかった。
幸運度がよりにもよってこう言ったところで足を引っ張ったのだ。
それが魔法に大きく影響を及ぼした結果、
彼は魔法・スキルを複数同時に扱うことが出来ない状態になっていたのだ。
もし使うとするとなればスキルを解いてから魔法の使用。
また、 別スキルを使いたいときは現在使用しているスキルを解く
必要があったのだが、 今の春兎には何が起きているのか分かるわけが無かった。
「あわわわわわわ! 魔法がでない!! ってこっちきたー!! 」
慌てふためく春兎に敵は容赦なく襲い掛かる。
必死に敵の攻撃をかわし続けるがそれでも三人相手は厳しかった。
いつの間にか辺りは真っ暗闇になり、 眼で相手を捉えるのは難しかった。
それでも何とか敵の攻撃をかわすことが出来るのは、
彼の発動スキル気配誘導のお陰だった。
だがかわせるだけであって反撃ができるわけでもない、
ましてや今は3対1、 手数も圧倒的不利。
状況はむしろ悪化していた。
「やばばばばばば!! うおっ! ちょ、 危っ、 ひぃ! 」
情けない声を上げながらも何とか攻撃をかわし続ける。
そこへ後ろから声が聞こえた。
相手には姿は見えてなかったのだろうが、 春兎はスキルのお陰で
仲間の位置が手に取るように分かっていたのだ。
「春兎君! 左へ避けて! 」
言われた通りすぐさま左へ避けた瞬間、
魔力を帯びた風が三人を突き飛ばした。
技が当たったのを確認すると、いつのまにかいなくなっていた
クイナが暗闇の中から姿を現す。
「クイナ!? どこにいたのさ! 」
「むぅ。 私は最初の位置からほとんど動いていないよ。
君たちがどんどん離れて行ったんじゃんか 」
「え? 」
クイナが指した方向を見ると焚火が燃えているのがわかる。
相手の攻撃をかわすのに必死で移動していたことに気付かなかったのだ。
「それにしても随分と情けない声が聞こえて・・・ お可愛いことで 」
「アァアアアアア! 忘れてくれ! 大失態だ! 」
「録音しとけば・・・・ あっフレイにでも伝えてあげよ・・・ 」
「それだけはやめてくれ!! 」
「じゃあ貸し1つで手を打ってあげる 」
「・・・ 分かった。 で俺は何をすればいい 」
「んー。 内緒。 まぁ後々使うとするよ 」
クイナの企みにこれ以上足を踏み入れてはいけない気がして
春兎はそれ以上聞くことが出来なかった。
代わりにさっき相手を飛ばした技のことを聞いた。
「あー、 あれ? 風魔法の一つで、 【
本当は別の技にしたかったけど、 バレると思ったからこっちにしてみた 」
そこで春兎は一つ疑問に思った。 先程まで彼女が使用していた武器は
鞭だったはず、 何故そこで槍がでてくるのかと。
彼の疑問に察したクイナは、 不敵な笑みで彼を見る。
「ふっふっふー、 教えてほしい? どうして槍が使えるのか教えてほしい? 」
「なっ・・・ 教えてくれ 」
「あっれ~? それが人に教えてもらう態度かなぁ?? 」
――コイツ!! 遊んでやがる、 悪魔め。
「ふ~ん、 悪魔ね~ 」
「お前まで人の心を読むんじゃねぇ!! 」
春兎はクイナの言動に振り回されていたが、
それに夢中で大事なことを忘れていた。
「おい、 クイナ 」
「お、 頼む気になった? 」
「違う、 そうじゃないんだが・・・ 」
「じゃあ何よ 」
「・・・ あいつらは? 」
「そんなの、 あそこで・・・ 」
見ると既に姿は無く二人の間に嫌な予感がよぎった。
「なぁ、 クイナ? もしかしてだけどさ? 」
「いやいやいや、 きっとボロボロになって退散したのよ 」
「そ、 そうだよな。 まさか皆の寝ている方向に・・・ 」
「馬鹿っ! それ死亡フラグ―― 」
その瞬間向こうでフレイの叫び声が聞こえた。
瞬時に二人の頭の中には、
『あっ、 やっちまった 』という言葉しか浮かばなかったが
そんな事を考えている場合でもなく
春兎、 クイナは急いで皆のいる場所へと引き返すのだった。
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