第14話 襲撃者の正体①
「ウワァアァアアア! 来るな来るな来るなー!! 」
寝起きで頭が回ってないフレイは状況が読み込めず炎の短剣を振り回していた。
先程までぐっすり眠っており、 トイレに起きようとしたら
物凄い速さでこちらに向かってくる不審者がいるのだから、
混乱しないのも無理な話でフレイの叫び声にアレッタ、 ヒナも目が覚めて
瞬時に戦闘態勢をとり始める。
「フレイ、 とりあえず落ち着いて。 てか短剣振り回したら
私たちまで危ないんですけど 」
アレッタは一度、 剣を収めるように言うが、
パニックになっている彼女は聞く耳を持たない。
今にも飛び出しそうな姿を見てヒナはフレイの足元を凍らせて転倒させた。
「ふげっ 」
「ヒナちゃんナイス! 」
ヒナは後ろ向きに転ぶフレイを心配しつつ
声をかけてくれたアレッタに向かって親指を立てて
寝起きのドヤ顔をかまして見せる。
そもそも何故二人がここまで冷静に対処できているのかというと
アレッタについては魔王の血を受け継いでおり、
生来、 命の危険にさらされることが多い魔王の特性の一つとして
寝起きでもすぐに戦闘が行えるよう身体や脳がそれに順応している。
反対にヒナは氷狼本来の本能。
元々氷狼は戦闘、 逃走時における判断が非常に早く危険察知能力が非常に高い。
そのうえ状況の整理、理解においても他の魔物と比べ優れているので
寝起きでも身体がどういう行動を起こせばいいのか分かるようになっている。
そのため二人は即時行動が出来るというわけだ。
容赦なく襲い掛かる敵だったがヒナの氷魔法によって、
フレイ同様転倒させられる。
そこをアレッタが雷魔法で身体の自由を奪う。
二人は連携が決まったのが嬉しかったのか小さくハイタッチして見せ、
襲ってきた者たちが何者か彼らに近づいた。
そこで春兎、 クイナも合流。
「春兎さん!? それにクイナも! 一体どこに行ってたんですか 」
「悪い、 最初はそこの焚火にいたんだ
コイツらと戦闘をしているうちに奥の森にな 」
「そうそう、 全く春兎君ったら敵を逃がすんだもの 」
「なっ!? クイナだって人のこと言えないだろ! 」
「言えます~。 少なくとも貴方よりは役に立っていました~ 」
春兎とクイナのやり取を聞いていたアレッタだったが
頬が見る見るうちに膨らんでいき羨ましそうに二人を睨みつける。
そこへヒナのトドメの一撃。
「凄く楽しそう・・・ 」
「はうっ!! 」
ボソッと呟いたヒナの声がアレッタに大ダメージを与える。
仮にHPゲージというものがあるとするなら彼女は次の一撃で倒れてしまうだろう。
そこまでのダメージを負っていた。
しかし無残なことに追加攻撃がやってくる。
「二人から幸せな気配が伝わってくる 」
「あうっ!! 」
その言葉を聞いた彼女は撃沈した。
今にも地団太を踏みそうなアレッタを見て
ヒナが一言向ける。
「うっそー 」
「・・・ヒナ?? 」
「アレッタの焦った顔が面白くてつい冗談を 」
「からかわれた!? ・・・ よーくーもー! 」
「にっげろ~! 」
ヒナを追いかけまわすアレッタを見ながら、
いつの間にこんなに仲良くなったんだと春兎は不思議に思ってたが、
クイナはその隙に正体不明の襲撃者に近づき、 三人の顔に掛かっている布を取っ払った。
「・・・っえ!? 」
正体を知った彼女は急いで春兎を呼ぶ。
それにつられるように追いかけっこをしていた二人も
加わってきた。
「あれ? ところでフレイは? 」
クイナの問いかけにヒナは無言で焚火近くを指した。
どうやらフレイはひっくり返り気絶、そのままもう一度眠ってしまった様だ。
起こすのも面倒だと彼女をそのままにしておくことにして、
三人が集まったところでクイナは彼女らを見ながら話した。
「まさか、 あなた方が出てくるとは思いませんでしたよ 」
「クイナこの人たちを知ってるの? 」
春兎の問いかけにクイナは静かに頷く。
「彼女らは女王陛下の部下よ 」
――・・・え?
春兎はあまりに唐突なその言葉に一瞬、
思考を止めてしまった。
「そしてその一人である、 シェスタは私の弟子よ 」
――・・・ふぅ、 いい天気だ。
続けざまに出てくるクイナの言葉に
春兎の脳は思考を処理できずに、 真夜中なのに
天気が良いなど頭のおかしいことを考え出す始末だ。
「ちょっと春兎君!? 聞いてるの? ねぇってば!! 」
「え? あぁ、 聞いてるよ? ただあまりにも理解が追いつかなかっただけで。
えーっと女王陛下の部下? この人たちが? 」
しかしながらまだ半信半疑だった。
全員女性というのもあったが、それ以上に皆可愛かった。
背で言えば150くらいの子が二人、160くらいの子が一人だった。
暗闇でしかも素早く動き回りながらの戦闘、 春兎に関して言えば
必死に逃げ回っていたのだから身長など気にする余裕も無かった。
なので改めて自分より背が低いことに驚いている。
「で、 どういうことか説明してくれますよね?
分かっているんですよ? 既に身体が自由に動くことくらい 」
クイナが半ば怒気を含んだ声で詰め寄るが三人は目を合わせようとしない。
アレッタもヒナもその様子をただ茫然と見つめていた。
「言えないのであれば良いんです。 それもありでしょう。
ただまぁこの後どうなるか分かりませんけどね? フフフフフフ 」
顔は笑ってはいたが心は笑っていない、 そんな感じの様子を
春兎達は傍らで見つめていた。
しばらく沈黙が続いた後、 一人が口を開こうとしたがすぐに
口を閉じる。 その繰り返しを数回したところで、
流石に疑問に思った春兎は彼女らに話すことが出来ない理由があるのか聞いた。
すると驚くべきことに三人全員が激しく頷いた。
クイナもどういうことなのか聞いたがやはり黙ったままだった。
アレッタもお手上げといった感じで、 ヒナに至っては立ったまま眠っていた。
気づけば戦闘から結構な時間が経過しており本来ならまだ寝ている時間。
ヒナだけでなく他の三人も限界が来ていた。
「クイナ、 どうする? 」
「どうするって言われても話せないんじゃあ・・・ 」
そのまま暫くまた沈黙が続くかと思えたが、
消えた焚火の方からフレイが歩いてきた。
「ふわぁああああ、 皆して何してるのよ。 って痛たた何でこんな頭痛いの。
「え。 さっきのこと覚えてないの? 」
「さっきのこと?? 私ずっと寝てたと思うけど・・・ 」
「あ、 ううん寝ていたんなら別にいいの 」
どうやらフレイはトイレに起きたところ皆が集まっているのが見えたから
近づいただけだけのようで、 先程の出来事を覚えておらず
アレッタは胸をそっと撫でおろして安堵した。
「それにしても、 あー何かこの人たち嫌な感じがするわね 」
フレイは彼女らを見るなり光魔法を繰り出した。
「ふわぁぁあ。 【
フレイの魔法と共に目の前の三人の首筋辺りから
どす黒い何かが消滅したのが確かに見えた。
「やっぱり何かの呪いだったみたいね。
じゃあ私はあっちでもうひと眠りするから、 おやすみー 」
そう言い残してフレイは歩き始め、 彼女を追うようにして
ヒナも欠伸をしながら引き返す。
そして二人仲良く荷台で再び眠りについた。
残された春兎、 クイナ、 アレッタは呆気に取られていたが、
一つだけ思うところが重なった。
『美味しいとこだけ持っていきやがった!!!』
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