第15話 襲撃者の正体②

 女性は深々と頭を下げた。

先程まではまともに話すことも出来ないでいたが、

解呪のお陰でこうして話せるようになったのだ。


「先ほどはありがとうございました 」

「いいから、 頭上げて。 そもそも解呪したのフレイだし俺らは何もしてないし 」

「まさか、 呪いが解けるとは思ってもみませんでした 」


 春兎は対面している女性を心配しながら、

経緯を教えてくれるように話を持ち掛ける。


「自己紹介がまだでしたね、 私はシェスタ=メイル。

先程説明があった通り女王陛下直属の部下でございます 」


 話してる女性の印象は、 落ち着いていて冷静。

身長は160程度だろうか、 肩にかかるくらいの髪の長さで

クイナの弟子とは思えない。 どちらかというとクイナの方が

弟子のような気がする。 話ながらチラッと彼女の方を見やった。

視線を向けられた彼女は悟ったのだろう。

意味深な笑顔を彼へと向けた。


「コホンッ。 春兎君、 あとでちょっといいかな? 」

 

 ――あら、 俺の言いたいことが分かったのかな。

笑顔の裏にどす黒いオーラが見えるのは気のせいかな?


「と、 ところでそちらの二人は!? 」


 このままでは命の危険(自業自得)を感じたので

咄嗟に話題を変えて見たところ、クイナも気になっていたのか

そちらに興味を持っていかれる。

シェスタは後ろで立っている二人を快く紹介してくれた。


「彼女らは双子の姉妹で・・・

もちろん私の双子のという意味ではないですけど 」


 そういってシェスタは順番に紹介していく。

どちらも背丈はほとんど一緒、 髪も黒で目にかかる程度、

瞳の色については二人とも真紅の色をしている。

黙っていればどっちがどっちが分からないのだが、

シェスタはそれを声で判別するというということを春兎は聞いていた。

そして我慢の限界がきたのか双子のうちの一人が口を開いた。


「つーかーれーたー!早く終わらせようよ!! 」

「そうは言ってもまだ終われないよ、 お姉ちゃん 」


 随分と賑やかな女の子と、 それとは対照的な落ち着いた女の子の印象をうけた

春兎だったがここで改めてシェスタから紹介される。


「そっちの疲れてる感だしているのが姉のアメリアで反対に

こっちの落ち着いてるのが妹のロート。 声も似ていますが判断はしやすいかと 」


 確かに声を聞いたあとだと分かりやすい。 姉つまりはアメリアの方が先ほど疲れたと言っていた女の子、 逆に静かで落ち着いた話し方をするのが

妹のロートなのだろう。 それにもう一つ、

二人を見分けるポイントがあった、 扱っている武器が違う。 姉のアメリアの方は

鉄扇を所持し、 妹のロート方は魔法杖ロッドを所持していた。


「して、 どうしてこんなことを? 」


 春兎はシェスタに本題を切り出す。

隣ではクイナが聞いており、 アレッタについては

眠たかったのだろうか話の途中で退席して、 今は荷台で

三人仲良く眠っている。


「そうでした! こんなことしている場合では無かった! 」


 シェスタは思い出したように慌てふためいたが、

クイナが仏の様な満面の笑みで、 私達への謝罪について

何かないのかと彼女を追い詰める。

それはもう満面の笑みで。

どす黒いオーラが見えたのはきっと気のせいだと思いたかった。


「す、 すすすすみません! 先程はあんなことを! 」

「俺らのことならもう大丈夫だから。 後は・・・ 」


 話を聞く前に春兎はシェスタの後ろにいた姉妹を

荷台へと案内した。 明らかに疲れていたのが目に見えていたので

寝かせることにしたのだ。

よほど疲れていたのだろう彼女らもまたすぐに眠ってしまった。

元々、 荷物を大量に詰めるだけの広さがあるために、

寝場所に関しては五人が寝たところで窮屈にはならなかった。

そして再びシェスタに振り向き、 事情を聞く。

俺の横にはクイナが座り、 焚火を挟んで対面して彼女が座る。


「で、 何があったんだ? 」

「そうですね話せば長くなりますが・・・ 」

 

 それから彼女は、 あるがままの真実を語り始めた。

王都が魔物に襲撃され戦場と化したこと、

女王が何者かに連れ去られたこと、そして今なお王都では戦火が消えないこと。

他国へ力の援助を求めようと独断で動いた矢先、俺らを見つけたこと。

見つけたはいいが、自分たちにはある魔物の術がかかっており

話合いが出来なくて、仕方なく襲撃という名の名目で近づいたこと。

解呪されるのは彼女らにとっては嬉しい誤算だったみたいだったようだ。


「ちょっと待て、 情報量が多すぎてついていけない、 襲撃されたところでそんな火の粉が上がるまでに発展するのか?それこそ王都って言うくらいなんだから強い奴らならいくらでもいるだろ。」

 

「そうですね。 確かに最初はすぐに収まるものだと思っていました。 住民も多少混乱していましたが、 たかが襲撃、 それこそ選りすぐりの剣士や魔術師が来てからは安心したのでしょう。 直ぐにその場は鎮静化されました。 ですがその判断の甘さが最悪の事態を生んでしまった 」

 

「もしかして魔王の幹部とか 」


 クイナが口を挟むが彼女は首を横に振ってそれを否定する。

そんなものよりももっと恐ろしいものだと。


「・・・ 聞いたことあるかも知れませんが害獣王ワーム。

あれが王都に襲来したのです。 それも何十万もの魔物を引き連れて。

倒された魔物から発せられるフェロモンに引き寄せられ奴らがきたのです 」

 

 二人は驚いた。 聞いたことも何も自分たちがこれから討伐しにいく魔物、

厄災獣のうちの一つだったのだから。 春兎は隣のクイナに話をふる、

予定を変更したほうが良いと。 しかし彼女は気が乗らなかった。


「確かに王都を助けたいのは分かる、 でも討伐するのはもっと先 」

「何を悠長な、 人の命がかかってるのに! 」

「分かってる! けどこのままじゃ私達死ぬかもしれないんだよ!? 」

「・・・どういうことだ 」


 クイナ曰く一番最後に倒すべき相手だったらしい。

強さで言えばどれも化け物級だが、 唯一ワームについてだけは別格そのもの、

魔王の幹部であってもいいとこ相討ち、 それこそオークナイトが戦った場合

負けるのは確実にオークナイトだろうと。

春兎は直に戦ったのだからその幹部の強さくらいは大体わかったつもりでいた。

だからこそ鳥肌が立つ。 あれほど強かった奴が負けるほどの強さ。

しかも魔法、 スキルについては未知数。 もちろん強さに至っても謎のままだった、

そのためにも他の厄災獣を先に倒しつつ情報を集め万全にしてから

向かいたかったのだ。

しかし春兎は食い下がらなかった、 どれほど強かろうが関係ないと。

元々倒す予定なのだからそれが少し早くなっただけだと。


「本当に討伐しに行くんだね・・・ 」

「当たり前だ、 というか任務取ってきたのそっちだろ 」

「ハァ 。分かったよ、 乗ってあげるわよ。 その代わり負けとかありえないから 」

「あたりまえだ 」


 二人の意思を確認したシェスタは再びお礼を伝えたが、

春兎は全てが終わってからと制止する。

クイナに至っては協力するんだから援助金くらいはでるんでしょうね

なんていう始末だ。


「そういえば二人ってどういう関係なんだ? 」

「言ったでしょ、 シェスタは私の弟子よ 」

「いや、 一見接点なさそうだし 」

「はぁ、 そこまで鈍いとは。 同族よど・ う・ ぞ・ く 」

「ファッ!? 」

 

 春兎は一瞬理解が出来ずに、 もう一人の女の子に説明を求める。

どうやら二人とも同郷出身で、 クイナは剣の師匠だったらしい。

その話に関しては本当なのだろう、 彼女の腰には長剣が携えている。

しかしここでまた疑問が浮かんだ。

 

「おい待て、 確かクイナの使ってる武器は鞭じゃなかったか。

  それに思い出したぞさっき槍に付与させるだかの風魔法も使ってたな 」

「そうだったっけ~? 」

「あ、 クイナはあらゆる付与魔法を武器の特性に関わらずに

付与することが出来るんですよ 」

「なっ、 シェスタ私の秘密を 」

「お口にチャックだクイナ。 シェスタそれはどういうことだ 」

 

 —―そして彼女は教えてくれた。

話をまとめるとこういうことだ。

例えば鞭に槍専用の付与魔法を、剣に鞭専用の魔法を

付与することが出来る、それが彼女の個人スキル。


万能付与ユニークエンチャント


 ――それに加えクイナは銃以外なら大体何でも

武器を扱うことが出来るというおまけつきだ。


「お前ってそんなに凄い奴だったんだな 」

「あーあ、 バレちゃった。 シェ・ ス・ タのせいで 」

「言ったら駄目だったんですか!? 」

「当然よ、 暫くこれで春兎君を遊ぼうと思っていたのに 」

「お前は俺を何だと 」

「仕方ない、 一回で許してあげる 」

「へっ? 」

「だから、 事が全て終わったら私とデートしなさいって言ってるの!

それで許してあげる 」


 正直、 面倒くさいと思ってもいたがこっちだけ情報をしているというのもフェアでは無いような気がして渋々それを受け入れる。

その様子を見ていたシェスタだったが瞼が閉じ始めていた。


 流石に体力の限界だったのだろう残りの二人もいつの間にか

朝までぐっすり眠っていた。


 

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