第3話 鍋のフタで初討伐!

 そんなわけで二人は氷狼アイスウルフ討伐に近くの森へ来たわけだが、

一匹たりとも姿が見えなかった。

全てやられてしまったんじゃないかと春兎は思っていた。


 —―フレイなんか、 飽きたのか一人で蝶々とたわむれてやがる。

あいつ後でお仕置きだな。一先ず、 あのアホは置いとくとして

こっちはこっちで氷狼を探すしかないな。


 春兎が氷狼を捜索しようとした時、

何か動いた様な音が茂みの奥のほうで聞こえた。


 (行くべきか・・・ とりあえずフレイを呼んだ方がいいか )


 一瞬悩んだが、 一人で行くことを決めた。

理由は至って単純、

一緒に行ったら間違いなく面倒を引き起こされるからだ。

春兎は、 そっと物音のする方を覗いた。

するとそこには捕まった氷狼の親子、 それを捕まえて楽しんでる盗賊と思われる、野蛮な連中が春兎の目には写った。


 (うっわ。 面倒くさそう、 こりゃあアイツ連れてこなくて正解だったな。 )


 盗賊達を見る春兎は後ろからのもう一つの気配に気が付かなかった。


「ねぇねぇ! なに見てるの!! 」


 そのでかい声は当然、 向こうにも聞こえていたようで、 凄い剣幕でやってきた。

直ぐ様俺は引き返す準備をして全力でダッシュする。


「ねぇ! 何があるのさ! って、 何で走ったてるの!?

 てかあいつら何なのさ!? 」

「馬鹿なの!? お前は馬鹿なの?! 」

「なっ! 神に向かって馬鹿って言うな! 」


 そんな言い合いをしながら、

盗賊と思われる輩から逃げていた。

全速力でひたすら逃げた。


 5分は走っただろうか。

振り替えると追っては来ていなかった。

ようやく振り切ったと思ってる矢先に

春兎は気づく。


 ――フレイとはぐれた。

もしかして知らない間にアイツらに捕まったか?? いやいやいやいや、

さっきまでは一緒にいたし、 きっと蝶々でも探してるんだろう。

きっとそうに違いない。

うん。 とりあえず、 氷狼が気になるしさっきの場所に戻ってみるか。


 春兎は、 盗賊に気をつけながら

先程の茂みへと戻って見ることにした。

しかしさっきとは違った声が聴こえてくる。

考えたくは無い可能性と思いつつも、 どうやら当たりのようだった。


「ちょっと! 離しなさいよ! 神に向かって無礼じゃない!? 」


 ――あーあ。 やっちまったな。 こりゃあアイツもここまでか。

・・・うーん。 帰るか。


 色々考えるのが面倒になった春兎がその場から立ち去ろうとした。

しかしそれは直ぐに打ち砕かれるのであった。

気配でも感じっとたのか大声で助けを求める声が聞こえたのだった。


「こらー!! 春兎ー! 私を助けなさい!! そこにいるのは分かってんだから!

 盗賊さん方! あそこに1人隠れてますよー! 」


 ――あいつ! 何でこの場所にいるって分かったんだよ! しかも平気で俺を売りやがった!! なに考えてんだ!あのクソロリ!!


 盗賊と思われる連中は、さっき逃がした1人だろうと、こぞって

春兎の方へ押し寄せる。

もちろん武器が鍋のフタしかない春兎は戦い方が分からなかった。

瞬時に答えを出した結果彼は自ら投降した。

隙あらば逃げるつもりだったが目の前の問題から対処しようとしていた。

先程から聞こえてくるフレイの我儘な声に春兎は若干の苛立ちを覚える。

そんな感情を押し殺して、 盗賊達の言うことを聞く。


「とりあえず、 土下座だ! てめぇよくも逃げてくれやがって。

おかげで高値で取引するはずだった狼共に逃げられちまったじゃねぇか!

どうしてくれんだよ! おい! 」


 ――そりゃああんたらの責任でしょ。

そっか氷狼は逃げられたのか。

なら良かった。 こいつらに捕まるよりいいだろう。


「そうだな・・・ 土下座でもすりゃあこいつは返してやるぜ 」


 ――まーた心にもないことを言ってくれちゃって。

こんなの考えるまでもない。


「あ、 いらないんで。 帰ります。 さようなら 」

「なっ! ちょっと! どういうつもりよ! 助けなさいよ! 私を助けなさいよ!

 ついでに私にも土下座しなさいよ! 」


 ――この傲慢なアホを助けたところでマイナスにしかならないことは

目に見えてるしなー。


「ハハッ! コイツァ傑作だ! 簡単に仲間を捨てやがった! 」


 ――いや仲間も何も足引っ張られてるんだけど!?


「まぁいい。 どのみちお前らは俺らに捕まるしかないんだからな!!! 」


 リーダと思われる者の合図で前後左右から隠れてた盗賊がやってきた。


 —―数は二十といったところだろうか、一体どこに潜伏していたのやら。

しかしこれは困ったことにもなった。 冒険序盤にしていきなり

大ピンチなんですけど。

これはきっとあれだな、あのポンコツ神様のせいだな。


 春兎には少なからず思うところがあった。

ギルド証を見せてもらったときに、 一つズバ抜けてるものがあったのだ。


 【幸運度※マイナス40】


 ――俺の幸運度を合わせても相殺出来ないほどの運の悪さ。

ホントお荷物もいいところだろ。


「安心しろ、 アンタらは高値で闇市に売ってやる。

まぁその先のことについては責任持てねぇがな!! 」


 春兎は盗賊たちがニヤニヤしているのが見ていて分かった。

お約束過ぎる展開と言わんばかりのタイミングで、すぐさま周りの盗賊が

一斉に襲い掛かってきた。


――もう自棄やけくそだ!

やってやるよコイツで!かかってこいやオラぁー!!


 春兎は腰に装備してる鍋のフタを取り出した。

フタの割りには持ち手が付いている。

そして覚悟を決めて立ち向かったのだが事態は予想外に一瞬だった。

一人また一人と鍋のフタによって倒されていった。

戦い方を知っていたわけではない。しかし、

元居た世界のアニメやゲームの知識で何とか戦っていけていたのだ。

流石に鍋のフタで戦うアニメなんてのは無かったが確かに春兎は鍋のフタを武器として扱えていた。

敵の攻撃を防御すれば、鋼鉄なる盾の如し

敵を攻撃すれば、 一振りで敵を一掃する疾風迅雷のつるぎと化す。

鍋のフタが強すぎたのだ。

これには流石の本人もビビっていた。


 ――鍋のフタ強っ!!


 ただ攻撃範囲レンジが短いという欠点があったため

倒すにはまだ距離を詰める必要があったのだが、

そこは持ち前の身体能力でカバーをし確実に相手を倒していった。

気が付くと相手は親玉だけになっていて逃げる準備をしていた。

親玉は逃げるのに必死で先に回り込まれていた春兎に気が付かなかった。


「逃がすと思う?? 」


 ニッコリ笑いながら近づいた。

そして間髪入れずに、 その武器で突いた。

見事に後方に吹っ飛ばされ気絶してしまった親玉を放っておくことも出来ず

春兎はフレイに頼んでギルド商館の警備兵を連れてきてもらった。


 —―まぁそのフレイは何をしていたのかというと、

邪魔になりそうだったので、 ロープで手足を縛られた状態のまま放置していた。

もちろん倒した後でロープは切ったわけだが。

来るのが遅いだの、 私を先に助けなさいだのうるさかったので

グリグリされたくなかったら早く誰か呼んで来いと、 笑顔で脅した。


 駆け付けた警備兵の話によると、 最近魔物を闇市で売買している

組織の一部で彼らだけでも相当な被害額がでていたそうな内容だったのを聞いていた。当初の目的だった氷狼討伐は疲れたため断念したが二人は

ギルド商館からは臨時の報酬を貰った。

後から聞いた話だと盗賊討伐は氷狼討伐よりも難易度が高く


 【※闇市売買における盗賊討伐 難易度☆☆☆☆】だったそうだ。


 —―報酬のお金は当然俺が管理することにした。

コイツに任せたら絶対間違いが起こるからな。


 以上の戦いがあってからは鍋のフタを笑ってた街の人たちはすっかり

手のひらを返して、 誰もこれを笑わなくなった。

ギルド商館の受付のお姉さんに限っては、 速攻で謝罪させられた。

今後は全面的にサポートさせて貰うと言われたので

これはこれで良かったか。


ギルド商館でこれからの手続きなどを行っていたらすっかり夜になってしまった。

フレイは先ほどからずっと眠たそうにしていた。

彼も疲れたのだろうか、宿を見つけて泊まることにしたのだった。

もちろんお金をかけたくないのでフレイと同部屋だ。

あまりに眠たかったのか同部屋にしてしまったのにフレイは何も言ってこなかった。

それはそれで楽でいいと思ったりもしていた。。


――俺も慣れない戦闘をしたからか一気に疲れが下りてきたような感じがして、

その日は布団に入るなりすぐに眠ってしまった。

フレイもすぐに隣の布団で寝てしまったようだった。


―――――――――――――――


 次の日の朝、 俺はフレイより先に目が覚めた。

何か体の辺りが重い気がしたからだ。

おそるおそる布団の中を覗いてみると

水色の髪をしていた幼女が俺の身体に抱き着いて寝ていた。


「あー、 うん。 これはあれだな。 夢だな 」


 事態を呑み込めずに春兎はもう一度寝ることを決めた—―
















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