第11話 いきなり初のパーティ戦!
春兎を含む五人は街を出発し草原を商業用の馬車で駆けていた。
出発する直前にギルド館の受付、 アリナ=クロベルから
して受け取っていたのだ。
当初、 誰が馬を引くのか揉めていたがヒナが引けることを
思い出してお願いしたところ快く引き受けてくれた。
俺が隣に座ることを条件として出されたが、
そのくらいならと、 こちらもその条件を飲んで今に至る。
ヒナの隣に春兎。
荷台には旅先で必要な回復薬やら武器。
そして残りの三人が乗っている荷台と言っても
それ程狭くはなく後三人ほどなら乗れるほど余裕があるし
更には屋根までついており、 揺れる心配性もほとんどない。
それなのに先程から妙に後ろから視線が刺さる。
隣のヒナは何故かご機嫌で時折後ろを振り向きながら、
ドヤ顔をかましてる。
――こいつら何かの遊びでもしているのか?
そんなことを思いつつも次の目的地である
【守護の街―スクード―】へと移動していた。
最初の討伐は、 炎帝ケルベロス。
アリナさんが言うには俺らがいた街【エアスト】から遥か北西、
獄炎の谷にいるというが、 そこまで行くのが馬車で約1カ月。
その道中の街々で少しでも情報を得ようとしていたわけだ。
「春兎兄ちゃん。 前から何か来る 」
ヒナの呼びかけに反応した春兎だったが正直遠すぎてよく分からない。
――
前回、 大変な目にあったからな暫くは使用を控えたほうが良いだろう、
というより何か前もこんなことがあったような・・・
すると後ろから不意に声が聞こえた。
「春兎さん、 大量のゴブリンがこっちに向かってきています 」
声の主はクイナだった。
春兎は即座に馬車から降りる。 それに続いて四人も降りてきた。
「ヒナは馬車を見ていてくれ。 何かあったら守るように!」
「わかった。 」
「フレイとクイナはサポートを、 アレッタは俺と一緒に大群を叩くぞ! 」
「ちょ、 何で私まで! 神なのに!楽したいのに! 」
「私は春兎さんの指示に従いますよ 」
「まぁ私も、 従わない理由ないしね~ 」
フレイは文句を垂れていたが、二人のやる気を目の当たりにして
渋々サポートを引き受けた。
「街に着いたら好きなもの食べさせてやるから我慢してくれ 」
「ホントッ!? ・・・ こほんっ! 神様を食べ物で釣ろうなんていい度胸してる
じゃない! 仕方ないわね、 その条件で手伝ってあげる! 」
この時、 アレッタとクイナは同じことを考えていた。
『フレイ、 ちょろ過ぎ!!!』
「春兎さん、 来ます! 」
アレッタの指示で戦闘態勢をとるも、
春兎は一瞬唖然とした。
数百というゴブリンの群れが一斉に押し寄せてきたのだ。
「春兎君、 来るよ! 」
クイナの声で現実に戻され、春兎は戦闘を開始する。
鍋のフタで一体、また一体と突き倒していき、
アレッタは雷属性の魔法、 【
右手から放出する。 その威力は一撃で数十体を焼き尽くす程強力だった。
背中を取られると、 クイナが幻惑魔法で相手を混乱させ、その隙に
愛用の鞭で援護する。
フレイも、 と思ったがそもそもアイツ武器とかあったっけ?
そんな春兎の心配を他所に次々とゴブリンが襲い掛かる。
と同時。 後方から物凄い熱を感じた。
振り向くと、 炎を纏った短剣を持つフレイが今にも
暴れそうな勢いだった。
まさしくその通りだった。
サポートに徹するはずのフレイが前線にでて
次々と敵を薙ぎ払っていく。
その姿は、 さながら暴れ回るハムスターの如し。
「春兎、 今また失礼なこと考えてたでしょ!
あんたから焼きビーフにしてやろうか!? 」
「思ってない思ってない! それよりも敵に集中しないと! 」
—―だからアイツ勘良すぎだろう!
しかも仕方ないじゃん! 俺だってましな例え方したかったさ、
虎とか牛とかさ、 でもどう見たって元気に動き回るハムスターじゃん!
敵を倒しながら春兎は思った。
「小動物で悪かったわね! 」
「俺の心の中を覗くなよ! 」
「心!? ちょ、 何言ってるのよ! 誰もあんたのことなんか 」
フレイがあからさまに何かに動揺し始めたので、
少し気になったがそれでも今は目の前のゴブリンに集中することとした。
それでも彼女は何かブツブツ言いだし始めて、 注意力が散漫になる。
そこをゴブリンは見逃さなかった。
「フレイ危ない! 」
「えっ? 」
振り向くとあと一歩の所までゴブリンはフレイに近づいていた。
「嫌ぁあああああ! 」
「
フレイは静かに目を開けたが、そこには氷漬けになった
ゴブリンがいた。
春兎はその氷を見て、すぐさまヒナの方へと振り向く。
彼女はドヤ顔しながら満足気に、ピースサインを出していた。
その様子にホッとしたのも束の間、
まだ半分以上のゴブリンが残っていたのだ。
「春兎君! 話しているって余裕そうだね? 」
気が付けばサポート役に徹していたクイナまでもが前線で
戦っていた。
「春兎さん! 数が多すぎます! 」
状況は、 こちらがやや劣勢だった。
流石に数の暴力という言葉があるだけはある。
しかし春兎は悪魔で冷静を保っていた。
ここに来るまでにいくつかスキルを習得、
その中に強力な攻撃魔法があったのを思い出したからだ。
――いけるか? いや、 今使わないで何のための攻撃魔法だ。
いくら幸運度が悪かろうと関係あるかっ!
その様子を見ていたクイナは何かを悟ったように、
春兎に補助魔法をかけた。
「一時的に魔力値が上がる魔法だから! 何かするつもりなんだよね!? 」
「クイナ?! ありがたい! 」
春兎は鍋のフタを前へと突きだした。
鍋のフタと言ってもまんまフタということじゃない。
持ち手もしっかりしていて、
槍と盾が一体化したような武器となっている。
そして春兎はスキルを発動した。
「食らえゴブリン共。 【
次の瞬間、 どこからともなく現れた烈風達が次々と
ゴブリンを飲み込んでいく。
その間、 約数十秒。
一瞬の間に、 かなりの数のゴブリンを飲み込み
消滅していった。
八割方削ったところで、 残された敵は急いで
撤退をし始めるが遠くから狙いすまされた
氷魔法によって、 その場にいたゴブリンは全滅。
振り返ると、 またもヒナがドヤ顔していたのでその様子が可愛いと
春兎は心底思った。
―――――――――――――――――
道中、 予想外のアクシデントはあったものの
再び馬車へと乗り込み、 目的地であるスクードへと向かった。
「あの群れをこうもたやすく片付けるとは 」
その馬車を後ろから見つめる女性に、五人は気づかなかった。
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