9ページ目 11月22日

 二階の芸術の本が置かれている棚と棚の隙間に、頭と腕が無い像がある。

 その大理石の石像の足元に、鞄が置かれているのを見付けた。


 誰もいない図書館なので、恐らくは自分の鞄だろう。

 だが、鞄の形に見覚えが全く無い。

 本当に、これは私の持ち物だったのだろうか。

 誰かの忘れ物と言われた方が、まだ納得がいく気がする。


 何かの手懸かりにでもなればと、鞄を引っくり返しては見たが、中身も同じようにピンと来ないものばかりだった。


 一枚だけ、誰かの顔写真のついたカードらしきものも入ってはいたのだが、これもあまりヒントにはならない。

 カードは図書館に置かれた本たちとは異なる言語で書かれている。

 その文字が全く読めないので、果たして何のためのカードなのか、まるで検討がつかないのだ。


 顔写真の人物にも、心当たりが全く無い。

 自分の顔と見比べれば私のものかくらいは分かるのだろうが、生憎この図書館には鏡が無い。顔が映るような窓は全て、あの極彩色の暗い渦の絵に取って代わられてしまっている。

 自分がどのような顔立ちなのか、知る手段が何一つとして無いので、確かめようがなかった。


 そういえば、私の髪や爪はどうしたのだろうか。

 あれは、放っておけば伸びていくはずのものではなかったろうか。


 

 ここに閉じ込められてから、もうかなりの日数が経っている。

 それなのに一度も爪が邪魔になったことはなく、前髪が目に掛かることも無い。


 まあ、食事や睡眠に比べれば些細なことだ。


 本を読む時に邪魔にならないのならば、それで良いような気もする。

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