7ページ目 11月20日
旅行記に出てきた様々な料理の記述が、気を紛らわせてくれたという訳ではないだろう。
あれ程ひどく感じていた筈の空腹が、今では何ともなくなっている。
昨晩眠る前に読み始めてから暫くは、豊かな食べ物の描写に却って空腹が悪化し、思わず本を閉じたくなった。
だが、旅行記で筆者が触れる様々な美しい景色や文化に惹かれてそのまま読み進め、あらゆるご馳走の記述に想像を膨らませているうちに、文字通り空腹も忘れていった。
そして最後のページが終わる頃には、腹一杯食べた後のような満腹感を感じながら、満ち足りた気持ちで眠りについたのだ。
ひと眠りした後の今になっても、一度忘れた空腹は特に戻ってくる様子は無い。
空腹もある程度までいくと、却って何も感じなくなるとは言う。だが、飲まず食わずのままにしては、妙に気力が湧いている。
信じ難いことではあるが、まるで本を読むことが、食事の代わりにでもなったかのようだ。
だが、それならば空腹を感じたタイミングも、これまで数日間何も食べずに過ごせていた理由も、全て説明が付くような気がする。
それに、信じ難い…などとは書いたが、この図書館はどうにもおかしい。
その中に閉じ込められている私も、もしかしたらおかしいのかもしれない。
いや。
そもそも何故、私は信じ難い、などと思ったのだろうか。
自分が何者かも、どこから来たのかも、何故こんなことになっているのかも、まるで分っていないというのに。
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