第29話
皆、余韻に浸っているところでライバルのノミ屋二人組が近付いてきた。
「凄かったな!」
「……ボクらの負けたよ。流石だ」
二人とも、素直に私達を称賛してくれた。
意外だと思いつつも、それ以上に嬉しかった。
ぶっちゃけ自分でも何が何やらわからない熱狂に乗せられていたので、本当に私達のやっていることが皆に通じるか不安があったからだ。
「キトゥリスの人形魔術に勝てる奴なんざいないと思ったが、ここまでやられちゃシャッポを脱ぐしかねえわ」
「……おいトライン。負けと言ってもボクの魔術が負けたわけじゃないぞ。
あくまで芸術や表現力として負けただけだ。
そもそも魔術勝負じゃないだろう」
「ったく、頑固な奴だな」
「なんだと!」
「あの、すみません。いちゃつかれると凄い居づらいんですが」
「「いちゃついてねー!!!」」
「いや息ぴったりですよね?」
「「うるさい!!」」
なんだろうなこの二人。
リア充は死ねば良いのに。
「ま、仲良きことは美しきかな……というところですね」
「そうですかねぇ……」
アキラさんは特に動じることもなく呟いた。
「さて、それでは竜券の精算と行きたいところですが……」
「ええ」
……今回は番狂わせが起きた。
おかげでなんと、全員が予想を外した。
本命への賭け金は全て私達の懐に来た上に、おひねりまでももらえた。
「それではこれにて本日は終了します。
ありがとうございました」
観客の皆はハズレ竜券を捨てていたが、それでも何処か充実感のある顔をしていた。
私達も、充実感があった。
セリフや流れを覚えるのに熱が出そうなくらい頭を使ったし、喉も腕も疲れた。
なのに……。
「アキラさん」
「はい」
「楽しかったですね!」
「……はい」
アキラさんが、じんわりと微笑んだ。
よく見れば彼も汗をかいている。
いつもひょうひょうとして捉えどころの無い人だ。
でも。
私達のために、本気でがんばってくれた。
私達も本気で頑張った。
学費を稼ぐという目的を超えて、不思議な喜びを感じていた。
◆
「これは面白い……」
神職の仕事がないか王都を歩き回り、ようやく魔法学校に潜り込めた日。
副学園長に案内された校内で、こんな興味深いものを見られるとは。
「神父様、どうしました?」
「いえ、あの教室でやっていた見世物が実に興味深くて……」
「ああ、あれは競竜ですよ」
「それはわかるのですが、ああしてまで競竜の様子を伝えるのは面白いなと」
「色々と考えるものですね」
「しかし、王都ではやはり人気があるのですな。
あんな風に目の色を変えているのは驚きます」
「とはいえ賭博ですからね……頭の痛い話です」
確かに、学生どころか教師まで熱狂しているのは止めたいところなのだろう。
しかし完全に止めるのも難しかろう。
この国は、国を打ち立てた初代の王が大の賭博好きだった。
戦国時代を駆け抜けて、サイコロ賭博で領地をもぎ取った逸話があるくらいだ。時と場合をわきまえる必要はあっても、賭博そのものを罵倒することは不敬に思われかねない。この国が建つよりも前からあった太陽神教あたりは構うことなく賭博を悪徳と見なしているが、賭博の誘惑に負ける者にはやはり届かない。かく言う私も、賭博は嫌いではない。
「エンライさんも気をつけてくださいね。一応学校なんですから」
「ははは、拙僧はあくまで代理の神父ですからね。
博打を楽しむなどできませんよ」
早速釘を刺してきた。
若いのにしっかりしている。
ともあれ、副学園長の言うことは聞こう。
ここは神聖な学び舎であり、私は学校付きの神父代理。
ここで賭博に興じるつもりなどはない。
そう、拙僧にとって賭博とは興じるものではない。
人を集めて、開くものだ。
たとえばここで見聞きした話を余所に持ち込むことは、学校の規則の範疇外だろう。
儲かりそうな話だ。すでに同じ事を考えている人間もいるだろう。
ここだけの話として胸の奥に秘めているのは
「もったいないというものだな……」
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