第6話

 脱力したまま溜め息を付くだけというのも悲しいのでお茶を淹れようとしたが、アキラさんが「召喚獣は私ですから、ご主人様は座っていてください」と言い出した。

 どうしようかと思ったがとりあえず甘えることにした。

 急須やカップのありかを教えて、お湯は私が魔法で用意する。

 しばらくすると、茶の香りが部屋に漂い始めたのだが、普段より妙に香りが良い気がする。

 茶葉は何の変哲も無いんだけど……?


「お、お茶淹れるのお上手ですね」

「少々心得がありまして。私の世界の紅茶と同じようですし問題ありません。

 それと、お茶請けを持って参りました」

「なんですか……?」

「お菓子です。チョコレートと言いまして……」


 アキラさんからもらった菓子は、妙に艶めいた肌触りの包み紙に包まれていた。

 包み紙の中には、手の平に簡単に収まる程度のサイズの黒いカタマリがある。


「はぁ……」

「美味しいですよ」


 アキラさんが自分の分を一口で食べる。

 ……うーん、人間の食べて良い物なのだろう。


 よし、同じ物を食べて召喚獣と親睦を深めるのも大事だ。

 覚悟を決めて口に放り込む。


「んっ!!!???」

「あ、お口に合いませんでした?」

「おいひい!」


 なにこれ!?

 甘い! と、ちょっとほろ苦い!


「凄いですね!」

「私としては、魔法でお湯を作れる方が凄いと感じるのですが」

「いやー、魔法使いなら誰でもできますよ。美味しいお菓子は魔法で作れませんし」


 おかげで、暗く沈んだ気分も少し明るくなってきた。

 お茶も、琥珀色の輝きが普段よりちょっと違って見える。

 いやー、サービスの良い召喚獣と出会って良かった良かった!


「ところでテレサさん。一つ、提案があるのですが」


 と言って、アキラさんは懐から何かを取り出した。

 のっぺりとした黒い板だ。

 鉄ではないし、塗装した木でも無さそうだ。

 表面はガラスのようなもので一面覆われている。


「スマートフォンと言いまして」

「はぁ……」


 まじまじと見ていたら、突然、板が光った。


「な、なんですかこれ!?」


 ガラス板の表面に、複雑な文字や図形が動いている!

 目が痛いほどカラフルだ。こんなもの見たことがない。


「これを使って計算したり、音楽聴いたりできます。ほら」


 アキラさんが指で触ると、ガラス板に映った絵がぐにゃぐにゃ動く。

 そして板から、なにやら奇妙な音楽が聞こえてくるではないか!


「凄いですね……!」

「私の世界だと、これを持っている者どうしで遠く離れていても会話ができたりします。まあこちらにはインフラが無いから不可能ですが」

「はぁ……」

「ちなみにこの板……スマートフォンは少々高いですが、機能を絞った物は安価ですよ。計算するだけの物や音楽を聴くだけの物などもありますし」


 すごい。こんなもの見たことが無い。

 おじいちゃんが、チキュウはここよりも技術が進んでるって聞いてたけど、こんな訳のわからない物を普通に持ち出してくるのは流石に予想外だった。


 でも……。


「すみません……。

 これを売りさばいたりするのはちょっと無理ですね……」

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