第17話

 次の日のお昼頃、アキラさんと共に魔法学校へと向かった。


 丁度お昼休みの時間で、先生達が食堂で思い思いに休憩していたところだった。

 ラーディ先生が以前のようにパイプを吹かしている。

 先生は私達の姿に気付くと、


「おお、君達か。待っていたよ」


 と、嬉しそうに手招きした。

 私達は一礼して彼のところに駆け寄る。


「お疲れ様です先生。休憩中ですか?」

「一服していたところだ、丁度良かった」

「そうですね、それじゃ……」


 競竜の結果を説明しよう、と思ったところで、先生が手の平を出して、


「ちょっと待った」


 と制止した。


「へ? 聞かないんですか?」

「そうじゃない。どうせなら賭け金を預けた全員を集めよう」

「あっ、それもそうですね」


 以前学校に来たとき、ラーディ先生が率先して人を集めてくれたおかげで10人ほどが賭け金を預けてくれた。ならば全員に同時に説明する方が信用されるだろう。アキラさんを見ると軽く頷いた。私と同意見のようだ。


「それで、だ……。ちょっと頼みがある」

「頼み?」


 ラーディ先生は、妙に含みのある微笑みを浮かべた。


「せっかく金を預けて見に行ってもらったんだ。流石に『どの竜が一着で、どの竜が二着になりました』ってだけの報告じゃあ味気ないだろう?」

「え、ええ……まあ……」

「どういう試合展開でどうなったのか事細かに知りたいんだよ。二階の教室を貸すから、そこでちゃんと説明してもらえるか?」

「ちゃ、ちゃんとした説明ですか」

「ああ。私達はただ賭け事がしたいんじゃあない。競竜を直接見られなくとも参加したい気分を味わいたいから賭け金を君らに預けたんだ。難しいかな?」


 などと言うラーディ先生は既にどこか楽しそうだ。

 これは競竜を楽しんでるというより、私達を見て楽しんでいる。

 もしかして……


「預かった賭け金で儲けようとしたんだろう?

 ならこのくらいのお願いは罪の無い範囲だ。違うか?」

「いえいえ、もっともな理屈ですとも」


 ラーディ先生の言葉に、アキラさんが微笑みながら返した。


「しかし十分に楽しませるとなると少々準備が必要ですね……。

 今すぐでもやろうと思えばやれますが、どうせなら明日の同じ時間に集まって頂けませんか?」

「ふむ」

「勝った人への払い戻しは袋に小分けにして用意しています。

 不安でしたらラーディ先生にお預けしますよ」

「いや、それは構わんよ。信用するとも。

 ……それでは明日の時刻、二階の会議室に皆を集めよう。準備を頼んだよ」


 などとラーディ先生は言って、私とアキラさんの肩をポンと叩いた。



「……すみません、アキラさん」

「おそらくバレていますね」


 私達は自宅へと戻って作戦会議を始めていた。

 ラーディ先生の望んでいることは単純だ。

 競竜に行けなかった人が楽しめるような説明をすること。

 だが単純だからと言って簡単な訳では無い。


「釘を刺す、というよりも状況を楽しんでいるのでしょう。いやはや、中々人が悪い」

「あのう、アキラさん……笑い事じゃ無いですよぅ……」

「競竜の説明をするということでしたら大丈夫です。

 スマホで録画していますからね」

「それだけじゃないんですよう……。先生達はみんなけっこうなブルジョワだから、観劇とか芸術とか見慣れてて目が肥えてるんです」


 ラーディ先生達が納得するような物を見せられるか、私には自信が無い。


「観劇、ですか」

「はい。見るだけじゃなくて、自分で演劇を嗜んでた人も居ますし」

「それは……脚本を元にして人が物語を演じるものですね?」

「え? そりゃそうですけど」

「ドキュメンタリーや実況などはありますか?

 実話を元にした劇や、実話を再現した劇など」

「へ? あー、なんか裁判とかで法律の関係者とか騎士の偉い人が殺人事件を再現する……ってのは聞いたことがありますけど……。でも一般人が娯楽として見るようなものじゃないですよ。あとは晩餐とか飲み会なんかで見聞した話をするとか、プライベートでやる人はいるでしょうけど……」

「なるほど……では、どこかの劇団員がそういうことをやったりもしませんね? そのためのプロがいるということもない」

「はい」


 アキラさんが顎に手を当てて何かを考えている。

 この人、何をする気なんだろう。

 そんな不安が首をもたげてくる。


「テレサさん。多少付け焼き刃にはなりますが……考えがあります」


 アキラさんがにやりと微笑んだ。

 多分、私には想像もつかないことだ。

 もしかしたら、また危ない橋も渡るような気もする。


「は、はい……!」


 でも私は、この人が何をするのか見てみたい。

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