第4話
アキラは自室――東京墨田区のアパートで、異世界の銀貨をしげしげと眺めた。
外国の古代の銀貨、としか見えない。
まず、デザインが均一ではない。
おそらく鍛造、つまり金属を叩いて打ち出したものではなく、鋳造品を磨いたものだ。
そして磨いただけではなく自然と摩耗したために丸みを帯びている。
「ふーむ、この世界のものではないのですから、古美術商に持っていっても二束三文でしょうね……。スクラップ屋でキロ単価で買い取ってもらうのがせいぜいというところでしょうか」
アキラが調べた相場では、銀貨4枚を上手く現金に変えられたところで2千円程度、という見積もりだった。3時間程度の労働だったので、時給換算すれば666円。最低賃金以下の時給だ。
「ま、面白かったから良しとしましょう」
時給以上の価値がある体験だった。
アキラがそう満足気に思っていた時、
『す、すみません……今、お時間よろしいですか……?』
おっかなびっくりの少女の声が、アキラの頭に響いてきた。
これもまた奇想天外な体験だったが、大体予想がついた。
彼女からの電話……というかテレパシーなのだろう。
「はい、梅屋敷です」
アキラは、携帯電話のような感覚で彼女に返事をした。
◆
『はい、梅屋敷です』
あっ、良かった。繋がった。
召喚契約を結んだとはいえ、顔が見えない相手と交信するのはちょっと緊張する。
交信による会話は傍から見ると独り言をブツブツ言う不審者にしか見えないので、自分の部屋の中だけでしかできない。準備万端にしておいて失敗するとストレスがたまるし、なにより向こうが忙しいと会話するスケジュールを組むだけで面倒くさい。
「ど、どうもこんにちは」
『ご主人様、先日はお疲れ様でした』
「はい。えっと、いまお話する時間ありますか」
『ええ、自分の部屋にいるので大丈夫ですよ。しかし頭の中に声が響くのは流石に驚きますね』
と、あまり抑揚のない声で言った。
本当に驚いてるのかな……?
「全然驚いてるように聞こえないんですけど……あ、えっと、名乗ってませんでしたね。テレサです。あなたの主人です」
『大丈夫、声でわかりますよ。また何かお仕事でも?』
良かった、どうやらアキラさんは取り込み中ではないらしい。
ご飯や風呂トイレとぶつかっていたらけっこう気まずいだろうし。
「実は……早急に相談したいことがありまして」
『ふむ……もしかして数学の試験、駄目でしたか? 中学生レベルの問題だったので自信はあったのですが』
「いえ、数学はかなりの高得点でした。あと魔法の実技なんかは私の独力でもかなり良い点数だったのですが……」
『ですが、ということは……』
アキラさんの声色が低くなった。
はい、お察しのとおりです。
「古典文学と外国語で赤点になって……留年しました……」
返ってきた答案を見たときは死にたくなった。
だが、夜に寝て朝起きて再び答案を見ても、現実だった。
『そうでしたか……』
「我が召喚獣、梅屋敷アキラよ……どうか私を救ってください……。
具体的には、来期の学費を稼がなければいけません……」
『ご主人様、それは私には荷が重いかと存じます』
アキラさんは、若干疲れが混じった声で返事をした。
「ああっ、つれないこと言わないで……! せ、せめて事情を聞いてからでも!」
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