スピリチュアル・クリミナル 3
ある時、ヒーラー、ヨアヒムの元生徒で、本当にほとんど物を食べずに生活している女がやって来た。この女がカウンセラー系のヒーラー、スピリチュアル教師で、スピリチュアル・センターも経営しているというから大変なことだと渚沙は思った。彼女の生徒なら相当狂っているだろうと即想像してしまうくらい、スピリチュアル系の同業者からも蔑視、批判されるほどの重病人だからだ。
ある時、「ヒーラーやスピリチュアル・カウンセラーのようなものに頼っても、何ひとつ得られるものはない」というナータの言葉を、渚沙がある訪問者に話した。この女は、それをどこかで耳にして憤っていたらしい。普段は互いににこやかに挨拶をするのに、怒りの混じった固い表情で渚沙を睨みつけてくるようになった。それがしばらく続いた。彼女について言及したことではないし、みんなの前でナータが口にした公認の言葉だというのに。そのことを本人もちゃんと承知しているのだ。
こういう人なので、彼女はここに来る度に様々な場面で「でしゃばり」だとか「エゴの塊」と批判され、みんなから毎日のように叩かれている。彼女はナータの寺院に滞在中も営業を忘れない。笑顔で近づき客を物色し、自分のヒーリングやカウンセリングを受けるように勧める。もちろん有料だ。特に、健全な訪問者、スピリチュアル嫌いの人たちが滞在している時は容赦なくエゴを潰され、いい勉強になっているようだ。
さて、この女はナータの寺院に滞在中、見ている限り飲み物だけはよく口にしていたが本当に物をほとんど食べていなかった。その代わりに、なんと一日に十リットルの水を飲んでいたのだ。まさに妖怪……。本人はそのことを自慢げに話すので、みんな揃ってドン引きしていた。
彼らがやっている光を食べて生きる人生というのは、きっとこの程度のものに違いない。運が悪ければ、栄養不足で病気になるとか、最近ダイエットのせいで増えているらしいが子供が出来ない体質になるとか、元牧師が話していたように「餓死」するのかもしれない。
中には、地球に食が足りないからという理由でこの光を食べて生きる「行」に取り組むスピリチュアル系の人たちがいるらしい。しかし真の聖者たちは、実際のところ、地球のほぼすべての人や生物に幾らかの食べ物は行き渡っていると話している。発展途上国で食べ物がなくて子供が飢え死にしているという印象を与える人々は、稀に酷い状態にある人々だけにフォーカスしていると。確かにそういう極限の立場にある人たちも
真実を自らの目で全てを確認できない手前、飢え死にする人の数の真偽はさておき、先進国のスピリチュアル系たちが光の行で食べ物を節約したり餓死したりしても、この地球から飢えで死ぬ貧困者の数が変わるわけではない。
光を食べて生きることがいかにも神聖で素晴らしいと考えているスピリチュアル系の人に、食べないことを目指す代わりに提案したいことを渚沙は思いついた。
日本などの先進国では、多くのコンビニやファーストフード店、レストランで余った弁当や食べ物が毎日大量に処分されている。そういった捨てられる運命の、まだ食べられる物を無駄にしないように食すことや、合理的なシステムを積極的に発案、実施してみたらいいのに。「食べ物を捨てるという罰」も当たらず、実践的で社会の役に立つ。
ところで、先の食べないヒーラーの女は、飲み水も多くの生物にとって大変重要だということを忘れている。現にトラタ共和国では数ヶ月続く夏、乾季には飲み水がなくて困る地域が毎年多数出る。トラタ共和国にやって来て長期滞在し、独りで十リットルの水を毎日飲み干している妖怪はトラタ共和国のお荷物でしかない。なんて独り善がりで傍迷惑なのか。
彼女はナータから何度か食べるように勧められて、なんと今では一日に三度食事を摂るようになり、やっと人間らしくなった。精神病の感染源であるスピリチュアル・センターを手放し、主に個人相手にこぢんまりとスピリチュアル・ビジネスをしている。しかし、相変わらずエゴも妖怪度も高く、人々から批判され、ナータからも折々にエゴ崩しのための精神治療「げんこつギフト」をもらっている。
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