ゴッドハンドの伯母と渚沙

 渚沙がアメリカから帰国して間もなく。霊能者のたぐいが好きな変わり者の伯母おばが、お節介なことに我が家の個人個人について、偉いお坊さまにてもらったといって、姉である、渚沙の母親に電話してきた。


 伯母は色白でなかなかの美人だが、勝ち気で仕事ができるために、男いらずで独り身のままだ。渚沙が小学生の頃、伯母が同棲していたのを覚えている。その後、結婚したい別の恋人ができたが、父親に会わせるのがいやで諦めてしまったのである。父親というのは渚沙の祖父のことだが、神主の資格を持った人だった。伯母と祖父は一時期仲が悪かっただけだ。そんな理由で好きな人との結婚を諦めるとはなんともったいない話だろうか。その人と結婚して子供でもいれば、伯母の性格も丸くなり、幸せになっていたかもしれないのに、と渚沙は残念に思った。

 つい最近、「セックスなんて、若い時いっぱいしたから飽きちゃったよ」と伯母がいった。

 未だにお堅い処女の渚沙には言葉もない。

「私、八人も流産しているんだから」とちょっと深刻な面持ちで付け加えた。

 初耳だ。八人とはすごい数ではないか。伯母の若い頃の人生がどんなものだったのか想像がつかない。いつも仕事熱心で不良な人には見えなかったけれど。避妊はしなかったのだろうか。


――婚約者のにその話をしたら、本当はおろしたんじゃないかといった。彼がいうなら間違いないだろう。その時、なっちゃんはあまりいい顔をしていなかった。流産は自然だが、堕胎だたいとなると殺人と同じだからかもしれない。それで少し罪悪感があって、伯母にしては珍しく控えめな口調だったのだろうか。――


 流産を打ち明けた後、「渚沙、まさかあんたまだ処女なの? 気持ち悪い」と伯母は顔を歪めた。

 無遠慮にものをいい、自分よりずっと年下の人間を追い詰めいじめるのは、渚沙が子供の頃から変わらない。それで従業員が次々に辞めていくが、伯母は自分の欠点を直そうとしない。

『余計なお世話なんだけどな。なっちゃんのせいで私が処女であることは有名だけど、いろんな男からしつこく言い寄られて困っているんだから。気持ち悪がられたことなんてないし、あまり品のないことを自慢しないでほしいわ』という言葉を渚沙は飲み込んだ。

 伯母とは価値観が違いすぎる。渚沙の住む世界では、処女や貞節は強力な力を所有する。こんなふうに男無用で人付き合いの下手な伯母だが、寂しがり屋で憎めないところがある。親や身近な家族を大事にする。めいである渚沙や妹、渚沙の弟であるおいをよく可愛がってくれ、いくつになっても会いに行くと喜ぶ。お坊さんに渚沙たちのことまでてもらった、というのも伯母の愛情ゆえなのだ。

 エンジニアで外資系企業の取締役である渚沙の父は、理論で説明できることしか認めないため、伯母のスピリチュアル人間的行為を軽蔑し、嫌悪している。母と渚沙たち子供も、時折スピリチュアルものに依存する伯母を遠くから見ていた。しかし、みんな父よりは柔軟性があり、精神世界の全ては否定しない。


 その時は、どこぞやの寺の偉いお坊さまが、渚沙に関して『その子は将来とてもいい人と結婚する』といっていたらしい。偉い坊さまということもあって、渚沙はそれを信じることができた。優秀なビジネスマン、年上で包容力のある男性が思い浮かぶ。運命の人にきっと出会える。そうしたら交際なんかしなくていい。直接結婚しよう。交際はいちいちイベントが多くてわずらわしい。誕生日やクリスマス等の義務的デートが嫌なのだ。

 こうして渚沙は、いとも簡単に失恋のうつから救われたのであった。


*このエピソードは本編の「渚沙の恋と捕まらない大量殺人犯ノート」第9話から一部抜粋し、編集したものです。

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