小さな男の小さな復讐

 ある日。四十がらみの日本人の男が、ナータの寺院にやって来た。二人の女を連れており、日本人の典型的スピリチュアル系らしく三人でトラタ共和国の聖者漁りをしていた。

 彼は、例のカリルの結婚の記事が掲載されている新聞を持っていた。三人はカリルのところにも顔を出したそうだ。


 男は、マイナーなスピリチュアル・マスターの一人らしいが、リーダー的素質はまったく感じられず、話しやすくフレンドリーな男だった。


 

 彼はスピリチュアル・サイトを運営し、例の、見に行った人の運命が書かれている葉っぱ「ハムイ」を書き残したという古代の聖者の絵と、自分の写真を載せて、個人客のためにトラタ共和国の「葉っぱ」を見てくる代行ビジネスをやっていた。


 渚沙は、こんなことに大金を使う客の顔が見てみたいと思った。ブーム当初、ある日本の旅行会社では、一人三百万円で「葉っぱ」探しの代行をやっていたというから、随分儲けたことだろう。



 現地では、自分の「葉っぱ」を見てもらうのに百円もしなかったものが、日本人客、日本の代理ビジネスのせいで数万円台に値上がりしたという。そして、瞬く間に「いんちき葉っぱの店」が百店舗くらい増えた。単純な詐欺ビジネスが横行したのだ。この話は、十五年以上前に聞いたので、今はどれくらいの店があるのか分からない。最近は「運命の葉っぱ」のことはまったく耳にしない。

 井上は、毎回「葉っぱの店」で、ツアー客の個々の葉っぱ探しと解読に立ち会っていたが、解読者はいつも同じようなことを客にいっていると、井上が渚沙に話したことがあった。井上本人のものだけはちゃんと真面目に見てくれるという。なんといい加減なのだろう。代行なんてさらに怪しすぎる。現地の店の解読者はもちろん、代行している日本人のことさえ信じられない。

 

 さて、その男は渚沙にナータとの特別な面会を求めてきた。三人はそのためにやって来たという。渚沙は、その話をナータに伝えた。ナータはイエスともノーともはっきりいわなかったが、あまりにも軽々しい動機のように感じられたのでノーだろうと渚沙は思っていた。その男と連れの女たちは、町のホテルに二、三日滞在し朝夕寺院の通常の礼拝に顔を出したが、とうとうナータの姿を一度も見ることなく肩を落として帰って行った。


 その後、男は帰国してどうしたか。


「私はトラタ共和国に行き、ナータに会って奇跡の祝福をもらった。でも、どうってことなかった」なんと、公の場で堂々と嘘を吐いたのである。
男は祝福を受けるどころか、ナータの姿さえ後にも先にも、一度も直接目にしていない。あまりにも幼稚な男の言動に、渚沙はただ呆れるばかりだった。ナータの寺院や、渚沙の耳に入るとは思ってもいなかったのだろう。しかし、世界は意外に狭いのだ。

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