民放連盟の規準を無視するテレビ局

 渚沙は、何人かの知人である放送局関係者に、トラタ共和国の聖者のことは軽率にテレビで取り上げるべきではないと主張してきた。彼らも、日本で起こったカルトによるテロ事件を重大視しているので、同意している。彼ら自身が「テレビは嘘だらけ」とはっきり、隠そうともせず渚沙に話しているのだ。

 そのうちの一人は、正統派のシニアのディレクターで、多くの優秀な業界人を育て、優良な番組を制作してきた実力派であった。孫の面倒をみるのと料理が趣味になっている今でも、時折スタジオに顔を出している。彼は渚沙の本を読み、自ら関心を持ちナータを訪れ、ナータが設立した昼間働かなくてはいけない子供たちのための約百三十校の無料学校の生徒たちに会っている。その後、渚沙の著書を番組で紹介してくれた。


 震災直前に、渚沙が帰国して実家で偶然目にして驚愕きょうがくした、日本の巨大カルト団体のCMについてそのディレクターに質問したことがあった。資金繰りのためにある放送局がやっていることだが、それは良くないことだと業界では話してはいるらしい。が、国民にとっては、良くないと話しているだけで済む問題ではない。多くのメジャーな新聞社も金欲しさに、同カルト団体にへつらっている異常な国である。日本のジャーナリズムが、とうの昔に崩壊していたことを渚沙は知らなかった。


 マスコミの有害行為といえるものは他にもある。

 渚沙はスピリチュアル番組というものを見たことがなかった。以前の帰国時に時折目にしたのだが、可愛い動物たちが出てくる番組を台無しにする、動物と話が出来るという胡散臭い外国人の自称霊能者が出てくると、渚沙は即チャンネルを変えた。トラタ共和国にやって来る、見慣れた病的な西洋のスピリチュアル系たちと類似した妄想癖、自己陶酔的な空気を漂わせているのだ。一見良い人のように見えるところも同じだ。確かにもともと良い人ではあるようだが、スピリチュアル面では相当狂っているというのが大半だから、短い帰国時くらい、ああいう人たちからいい加減解放されたいと渚沙は思っているのに……。


 ある帰国時にテレビをつけたら、偶然高視聴率だという噂のスピリチュアル番組をやっていた。その内容は非常に無価値なもので、人の過去生がどうとかオーラがどうとか、確かめることもできない「霊視」をするらしい。胡散臭うさんくさいくだらない番組、という話だけは人から聞いていた。渚沙は、どれ少し見てやろうじゃないかと、冷やかし気分でチャンネルをそのままにしていた。


 すると、噂のスピリチュアル・リーダーEが出ていた。渚沙はその時まで、写真で顔と名前だけは知っていたが、動いているEを見たことがなく、Eに対するいい印象も悪い印象も持っていなかった。番組の内容は別として、日本の代表といえる人気のスピリチュアル・リーダーだとしたら、人格者かもしれない、とニュートラルな状態だった。ところが、そのニュートラルさは不快さと共に瞬時に消え失せ、見出して五分もしないうちにチャンネルを変えた。

 その時、スピリチュアル・リーダーEは、「私のいうことを信じないのですね、私がいらないことをしていると思っているでしょう」というような言葉を発しながら、芸能人のゲストをいやらしい目つきでにらみつけていたのである。しばらく見ていたが、冗談ではなく本気のようだった。慌てた芸能人は気を遣い、そんなことはないといいながら苦笑いしていたが、そうするより他ないだろう。

 世間で話題になり、スピリチュアル系のお客から人気がある一方、Eを嫌う者たちも同じくらいか、それ以上大勢いて、相当数の批判のコメントが本人に届いていた筈だ。それで、Eもそんな凡人丸出しの態度をとってしまったに違いない。


 この番組のワンシーンから、霊能者Eは無意識で人に依存させるように、自分のいうことをきくように仕向け、人をコントロールする典型的スピリチュアル系であることがよくわかった。自分を信じないと思う人間に対して不満を露わにした態度が、疑いもなくそれを証明している。本者を知らない他力本願な人間、洗脳されやすい人だけが、すぐに彼らに大金を注ぎ込むいい鴨になるのだろう。

 これが、視聴者から自殺者が出て、マス・マインド・コントロール、大衆洗脳の問題が浮き彫りになり、著名な精神科医、宗教家、弁護士たちに批判され、とうとう打ち切りになった有名なスピリチュアル番組である。先の霊能者Eは、未成年の自殺問題と大衆洗脳で集中攻撃され、番組が打ち切り終了となる前に降板させられている。ウィキペディアにはこの番組専用のページがあり、自殺問題と大衆洗脳の件について掲載されていたが、少しするとこの部分が削除されていた。


 Eはどんどん地に落ちていったらしい――とある専門分野で活躍していた著名人Tの知り合いの企みにより、偽の心霊写真を番組上で本物として扱い深刻にコメントしたことで、Eはインチキ霊能者であることが暴かれてしまう。このエピソードはTの著書に記されている。これを読んだ時、なんともえげつない仕掛け人たちだと思ってしまったが、この方法でほとんどの霊能者の類が役に立たない偽者であることを証明できるだろう。


 同じ頃、霊能者E、それに、やはり著名な日本の代表的スピリチュアル系Hの両者に多額な金を払って直接会ったというハルの知人たちがいた。彼らの話からも、英知の「え」の字も知らない無知、無力、いい加減なスピリチュアル系に過ぎないことを知った。

 さらに、EとHはナータを否定したというから、個人的な感情で渚沙は頭にきた。人々から大金を徴収し、俗臭のする芸能人のようなビジネス・スピリチュアル系が、他国の政府から生き神として扱われている正統派の聖者を知った顔で否定すること自体、お粗末さを露わにしているじゃないか、と。ナータに一度も会っていないのに公で堂々と嘘をいた例の日本人のスピリチュアル系男と同レベルだ。これが日本のスピリチュアル・リーダーと呼ばれる人たちの悲しい実態か……。


 さて、先の大衆の精神に有害なスピリチュアル番組がとっくに終了していたことを渚沙が知ったのは、二〇一〇年の夏だった。日本の人々のために本当によかったと安心した。その後、また懲りずに、若い女性霊能者を持て囃す低レベルな番組が巷で流行っていたらしいが、幸いそちらも、二〇一四年秋に終了している。


 日本の民放連盟では、放送基準というものが存在し、迷信や占いの類など、非科学的なスピリチュアル系の話題を肯定的に、無理に信じさせるように番組を作製してはならないと記されている。日本民放連盟の公式サイトで閲覧できる。不思議なことに、この部分が年々柔らかい表現になってきているのだ。スピリチュアル信奉者らしき関係者が中にいるのか、または、日本にはスピリチュアル系視聴者がけっこう大勢いることを知っていて、単なる視聴者稼ぎのために番組を放送しやすいよう、基準をじわじわと変えていると思われる。実に気持ち悪い話だが、本当に起こっており、ここ数年の間、民法連盟の公式サイトで時折確認してきたことである。


 渚沙はSNSで、この民放連盟の公式サイトの基準内容を何度か紹介してきた。だが、渚沙の影響力などたかが知れている。現在まで幾つかの放送局はずっと基準を無視して、スピリチュアル番組を制作、放送し続けている。そうやって狂人を増加させ、カルトの種を撒いていること、また、我が国が世界有数の事件を起こしてきたカルト大国であることをまったく認識していないようだ。今でも東京でテロを起こしたカルト組織の信者が増加中で、シニアのディレクターが重大な社会問題になっていると、渚沙に話したばかりである。


 今後、日本の民放連盟は、そういった放送局に対する厳しい高額の罰金制度を設けるなどしたらどうだろう。極悪な巨大カルト組織のコマーシャル、洗脳されやすい、暗示にかかりやすいスピリチュアル系視聴者の精神衛生上に悪い、不快な妄想スピリチュアル系や自称霊能者の出演をメディアから取り締まれると思う。

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