ドイツの精神科医は見た! その1

  渚沙が、西洋の知人や友人の精神科医たちに、公表と記録のために詳しくスピリチュアル系患者たちの話を聞いたのは、二〇一二年以降になる。 


 ルカとは二十年近い、家族ぐるみのつきあいになる。だが、それまで、仕事内容や患者について聞いたことは一度もなく、いつも家族やプライベートの話、共通の知人の話ばかりをしていた。
 二〇一二年の春。渚沙は当時、海外の出版社に二度目の英語のレポートを提出するために見直しをしていて、どうしても知りたかったことをルカに直接尋ねることができた。


「どういうスピリチュアル系の患者が、あなたのところに来るのか教えて」
  

 渚沙は、なにやらと交信していると主張する、いわゆるチャネリングをしている人々に違いないと思っていた。

 ところが、二十年以上医療現場で経験を持つ、精神科の医学博士ルカの答えは意外だった。



「僕のところに来るスピリチュアル系の患者で一番多いのは、ヒーラーのセミナーに参加した人たちだよ。その中でも、ヒーラーから『チャクラ』の治療を受けた人というのは、症状がもっとも重くてね、社会復帰できないくらい重症だよ」

 日本や西洋のスピリチュアル系が、好んで使っている「チャクラ」という言葉だが、「チャクラ」イコール「精神病院行き」くらいに考えておいたほうが良さそうだ。

「チャクラ」に関連して、スピリチュアル系の人が「クンダリーニ」というものを覚醒させる方法を広めているが、これは非常に繊細、危険な行で発狂した人たちが大勢いることを知っておいたほうがいいと思う。


 医学博士のルカは、クンダリーニで狂ってしまった多数の患者に会っている。その中で、渚沙も知っている患者がいる。あるドイツ人女性は、やはりクンダリーニの行で狂ってしまい、人に止められるまで壁に頭を打ち付けたり、地面を転がったりしていた。また、音楽や花火などの大きな音に耐えられず、それに反応して一本調子の長い奇声を発していた。


 彼女は、クンダリーニで狂った人々を治療することを専門とする、今は亡きトラタ共和国の、特殊な聖者の施設にしばらく滞在していた。その聖者でさえも彼女を追い出したがったくらい、重症な患者であった。幸い、彼女は、友人に連れられてナータのところに来てから先の症状がすべて見られなくなったが、発狂後に生じたらしい性格の欠点は未だ改善されていない。彼女のねじれた性格のせいで、余計に困難なのだ。


 他にもスイス人の女がクンダリーニで発狂してしまい、何十年経っても治らないという話を、その夫から聞いている。先の女と類似した、自己中心的でねじけた性格になってしまったそうだ。彼は定年退職後、離婚した。


 リッチな欧米の先進国に勘違いスピリチュアルやクンダリーニによる発狂患者が多いのは、人々が無知である上、金回りがいいからだろう。トラタ共和国などから流行りの「スピリチュアル」のネタになりそうな知識の破片を適当に拾ってきて、突然スピリチュアル系教師やヒーラーになり妄想で自己流のビジネスを始め、人々を狂わせる。

 実は、ナータは過去に「ヒーラーたちは、彼ら自身が治療を必要としている」と何度も口にしている。精神面の治療のことだ。ナータと精神科医ルカの言葉を合わせると、治療する側は既に病んでいて、治療を施される側も狂うことがある、ということだ。知らないということはこわい。「勘違いスピリチュアル」は本当にこわい。
  確かに、渚沙が今まで会ったヒーラーの中で、程度の差はいろいろだが、まともな人というのは見たことがない。どうしてなのかはよく分からない。


 まず、ヒーラーの方々は自分のやっていることについて、よく考えたほうがいいと思う。病気を治すのは医者の仕事だ。一般的に医者たちは、その他の職業に就く人々より長い年数かけて努力し、困難な勉強、実習を積み重ねてきた尊敬すべき存在だ。たった数日のセミナーに参加しインスタントでヒーラーになるような人は、彼らの手前、もっと謙虚になったほうがいい。治らなければ、諦めて自分の運命を受け入れるしかない。そのことで人は学ぶこともいろいろあるだろう。また、病人やその家族のほうも、気持ちはわかるが「病気が治る」といういやらしい文句で勧誘している組織に入ったり、スピリチュアル系に頼ったりすることは無益だし、賢明とはいえない。


 渚沙は、病気を治してもらう目的で寺院に来る日本人のことは、可哀想だとは思うが不快に感じるし、これもまた国恥だと思ってしまう。自国にいるのと同じ、「勘違い宗教」のモードだからだ。そういう人たちが連絡してくると、ここは病気を治すところではありませんと、やわらかく伝えてきた。それでも来るという人には、治ることは期待しないでくださいと一応いう。


 ナータは普通、医者に診てもらうようにアドバイスする。身近な者たちに対してもそうなのだ。だから、トラタ共和国に出向き、一瞬にして病気を治してもらおうという夢のようなアイディアは、すぐに捨てたほうがいい。唯一期待できることとして、「人々の『無知』という病気を治すことが私の仕事だ」とナータは言っている。二〇〇七年頃から、スピリチュアル系の訪問者が増えたが、彼らが現在のメインの患者たちである。

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