スピ系テロリストのハーレム その2

 渚沙は日本の人たちに真実を知らせたくて、シンニョのことを調べた。 


 トラタ共和国の偽聖者シンニョが五年過ごした米国で、彼が洗脳した者たちから集めた金は日本円にして百億円以上だった。米国で東京都ほどの土地を購入し、生活共同体のとりでを築き、数年の間、約二千人の弟子たちと暮らしていた。富豪や映画スター、著名人が信者の中におり、家族を捨て全財産を寄付して入信していた者も多かったという。


 シンニョ自身が薬物の常用者であったことは周知されている。腰痛か何かで必要だった鎮痛剤から味をしめたことがきっかけだった。ある日、シンニョは生真面目な秘書に大量の薬物を買ってくるように命じるが、反対される。シンニョは、薬物に依存するなと人々に教えているからだ。


 それでも、自由に性と麻薬を満喫できることに惹かれた若者が大勢やって来た。古参の弟子は去り、シンニョも、組織の質もどんどん変わっていった。彼らの活動ビデオをYouTubeで見ると、半分下着姿でわめいたり踊りまくったり、正気を失っている者まで何人も映っていた。まるで精神病院を覗いているような気分になる。取材陣の撮影は許可されなかったが、実際は様々なセミナー、広大な施設内の湖周辺では全裸で行動することが当たり前だった。後に、主に元信者たちが撮った多くの写真が出回り、彼らの異常活動は世界中に知られるようになった。


 ある日、シンニョは「悟りを得ているグル(シンニョ自身)を守るために、一万人の死が必要だ。やれ」と幹部たちに告げた。それで実行したことが、自分の砦が存続できるよう、地元の選挙を操作するための細菌テロであった。一人の女秘書のせいにされていたが、 実はこのシンニョの言葉は、録音テープに残されていた。シンニョ自身が共同体のすべての人間を監視するために、砦中に盗聴器や録音機を仕掛けていたのだ。


 細菌テロでは、七百人以上が感染し約五十人が入院したが、幸い死者は出なかったようだ。その他、殺人事件、結婚詐欺、不法入国、不法滞在など複数の罪状でシンニョは終に逮捕される。偽者らしく、逃亡劇まで繰り広げた。懲役五年のところ、約四千万円の保釈金を払って出獄し、即トラタ共和国に強制送還させられることになる。シンニョはそのままヨーロッパなどの二十一カ国に移動しようと試みるが、行く先々でテロリストとしてマークされていたので入国を拒否され、半年後、ようやくトラタ共和国に帰国した。


 それから亡くなる五年の間に自国トラタ共和国でシンニョが専念したことが、ハーレム化したスピリチュアル施設での女遊びであった。一夫一妻制は不自然であり、十四歳からはパートナー交換を含んだ無制限の性交をするべきだと提唱していたシンニョ。自らも積極的に実践していたのだ。イレーヌの女友達が襲われたように、次々に外国人の女たちに手をつけた。合意のもとで、関係を持った信者は多いはずだ。

 

 こういう色魔の犯罪者につける薬はないと渚沙は思う。死んでも治らないだろう。シンニョの死後十五年が過ぎて、シンニョが欲しかったものは何かと弟子で元幹部の英国人男性に問うと、「金、権力、ハーレム、ドラッグを所有するマフィアのボス的地位」と答えている。


 英語や西洋の言語で調べると、けっこう権威のあるニュースサイトでシンニョがカルト犯罪者として扱われている記事が山ほど出てくる。欧州各国では、現在でも国際的カルト組織として危険視し、当時を振り返る記事も少なくない。何故か日本語のウィキペディアでは、シンニョは無実と言わんばかりに擁護するように短めに書かれていた。日本人の信者が編集しているのだろう。


 渚沙は最近、シンニョの実に端整なホームページの日本語版を見つけ唖然とした。スピリチュアル系を容易に惹きつけられる見事なサイトだ。シンニョは既に亡くなっているというのに、彼の思想を受け継ぐ手下が今の日本にもいるのだ。欧米も同様に、今でも支持者がけっこういて書籍が出回っている。シンニョについて何も知らなかった時に、本屋でシャンタムの本のそばに並んでいたのを見たが、背表紙や表紙のシンニョの写真にも惹かれるものは一切なくてまったく読む気がしなかった。本屋はもちろん、日本のたいていの図書館にも、シンニョの本が一冊は置かれている。内容とやっていることが異なるから騙されるのだ。まるでシンニョの亡霊が人々を洗脳し続けているように、シンニョの悪影響は確かに健在だ。


 シャンタムが、シンニョのことをグレート・デビルと指摘した話は有名だ。単なる批判ではない。それがシンニョの実態であり、何も知らない人々に対する警告なのだろう。ナータが井上たち日本人に対し、カリルに関わらないように警告したように。この二人は神話に出てくる悪鬼だった気がしてならない。シンニョに会ったことはないが、渚沙から見ると、カリルの千倍かそれ以上の影響力を持つ大悪党である。シンニョは、生き神に滅ぼされた有名な悪鬼の王の一人だったのではないかとよく思う。


 魚色家の黒魔術師カリルを日本に連れ込んだり、変態テロリストの偽聖者の本を何十冊も出版したり、日本の好色な勘違いスピリチュアル系の人たちはろくでもない危険物を母国に持ち込んでくれる――渚沙の心配は尽きなかった。

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