隠居魔王の成り行き勇者討伐 倒した勇者達が仲間になりたそうにこちらを見ている!

〇〇〇〇

本編

前枠 元魔王、旅に出る。

 私は魔王だ。


 ここ200年ほど、この世界の魔のものたちを統率とうそつし、国をたもってきた。

 魔族にとっては短い期間なのだろうが、私にとっては長い時間だった。


 だがそれも、ようやく終わりをむかえる。


 そう考えると、やっぱりすこし、もの悲しさを感じてしまう。



 私はもともと、『稀代きだいの落ちこぼれ』と言われた子どもだった。


 それは私が、血で血を洗うあらそいを好まなかったからなのだろう。


 ささいなイザコザであっても、できるだけ穏便おんびんにおさめようと努力してきた。

 誰にでも優しく、いつくしみをもって接することが正しいと信じてきた。


 血気けっきさかんな魔族の中で、そんな私は、やはり浮いていた。



 しかし、だからこそ私は、次代の魔王として選出せんしゅつされたのだった。


「お前ならば、この時代であっても、魔王として君臨くんりんすることができる」


 そう言われ、私は魔王となったのだ。



 その言葉がどういう意味だったのか、そのときはよくわからなかった。


 だが、今ならばわかる。



 時代が――そう、この現代という情報化時代こそが、私を魔王にしたのだった。



 なにごとにもやわらかく、波風なみかぜ荒立あらだてないようにという私の心は、まさにこの時代に適したものだったのだ。



 勇者がくれば手厚てあつくもてなし、魔王討伐とうばつあかし土産みやげにお帰りいただく。


 そうすれば、勇者の顔を立てつつ、こちらも被害を出さずにすむ。

 世知せちがらい世の中をなんとか生き抜いていくための、かしこいやり方だった。


 万が一にでも勇者を傷つけ、あまつさえ殺してでもしてしまえば、その情報はあっという間に、世間せけん拡散かくさんされてしまう。


 そして、


 やれ「魔王は世界の敵」だとか、

 やれ「最近の異常気象は魔王のせいだ」とか、

 やれ「夫が浮気したのは魔王のせいだ」とか、


 そういうよくわからないことまで「魔王のせい」にされてしまう。



 生きにくい時代になったものだ。



 でも、そんな息苦しい生活も、もう終わりだ。

 まわりを気にして生きていくのは、もうやめだ。


 これからは、もっと自由に、ちょっとくらい羽目はめを外しても許されるような、そんな生き方をしてみたい。



 穏便にではなく、おもしろおかしく。

 すこしばかり過激になっても、楽しく笑えればそれでいい。



 そういう生き方もありかもしれないと、この年――1896才になって、初めて思えたのだ。



 だから今日から、私は『元』魔王だ。

 あとのことは子にまかせて、私は魔王の任をおりよう。


 子に重荷を背負わせてしまうことになるが、そこは我が子なればこそというもの。


 それに、親離れ子離れは、遅かれ早かれ必要なことだろう。

 そのためにも私は、立つ鳥あとにごさずに消えなければならない。



 そうだ――


 旅だ。


 旅をしよう。



 はじめてのひとり旅に出よう。

 どこか遠くへ、誰も知らないような土地で、おもしろおかしいことをしよう。



 よし。

 そうと決まれば、早速出発しようではないか。

 今日はまたとない旅日和なのだから。




 凹◎凹◎凹◎




 そうして私は、魔王城を旅立った。


 それから数日のときがたち――


 私は、とある辺鄙へんぴ田舎いなかみちで、見事なまでに行き倒れていたのだった。

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