第22回 元魔王、大食い対決をはじめる。

 「ここは『対決食堂』となる!」とまで言ったのに、場所を表に移されてしまった。


 ちょっと恥ずかしい。


 しかし――


「確かに、ここのほうが対決には適しているようだな。私たちも動きやすいし、観客にも優しい」


「やるんなら盛大にやらないとな」


 大将と勇者亭の店員は、手際よく広場の設営を進めていた。


「手慣れているな」


「そりゃあ、昔はここで、よくイベントごとをやっていたからな。ゆっくり食べるのもよし、わいわい食べるのもよし、食を楽しんでもらってこその『勇者亭』だ」


「ならば、今回ももりあげてくれるのだろうな?」


「あたぼうよ。そっちこそ、あんまり早くに白旗をあげないでくれよ?」


「もちろんだ。やるからには勝つ。それが魔王というものだ」


 元であってもな。


「おもしろい。そうじゃなくっちゃぁな」


 広場には、ロープと垂れ幕で観客席が作られ、戦場には、私たちが食するための席と、対面するように、大将たちが腕を振るうための料理場が、それぞれできあがっていた。


「それじゃあ、始めようか」


 高らかに鐘がならされる。


「やぁやぁ、我こそは『勇者亭』の総大将、コクドクである! 本日は久しぶりに、このような催し物を開催させていただくことになった。騒がしくしてしまうことを、どうかお許しいただきたい」


 うおおおおお、とまわりから一斉に声があがる。


 どこから湧いたのか、広場いっぱいに、観客がつめこまれていた。


「観客のほうがうるさいじゃないかよ」


「みなさん、お祭り好きのようですね」


「にぎやかでよいではないか」


 私たちは、用意された席に座り、大将の言葉に耳をかたむけていた。


「我々『勇者亭』は、本日、このものたちから挑戦を受けた。

 なんと、このものたちは、我々の作る料理をすべて食し尽くすというのだ。

 どうだ?

 そんなことを言われて、引き下がれるか?

 引き下がれないだろう?

 だから我々は、今この場で、大食い対決を執り行なうことに決めたのだ!」


 うおおおおお、とまたも観客の声がこだまする。


「このものたちが残せば我らの勝ち、完食すれば我らの負けだ。

 え?

 なんだって?

 残ったものはどうするのかだって?

 決まっているだろう?

 観客のみなに、タダで、ふるまおうではないか!」


 イベントをやっていると言うだけあって、観客の巻き込み方がうまい。


 そして、観客たちのもうまかった。

 もしこの対決で私たちが負ければ、まわりの観客は、無料の食べ放題にありつけるのだ。


 つまり、観客は私たちに「負けろ」と思うようになり、自然と『勇者亭』の応援をするようになる、ということだった。


「大将、きたねぇぞ」


「そっちが食べ尽くすと言ったんじゃないか、これくらいの煽りは許してもらわないとな」


 大将と店員が、料理場のそれぞれの持ち場についた。


 そして――


「それじゃあ、これより、『勇者亭』大食い対決、はじまりだ!」


 高らかに鐘がうちならされた。

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