第2夜 元魔王、町の勇者と旅に出る。

第6回 元魔王、町につく。

 サビレ村をあとにした私と勇者イトは、次の町へと向かっていた。



 屈強な男たちは、思いのほか、ゆったりとしたペースで走っていて、私の足でもじゅうぶんに追いつくことができた。


 もしかしたら、私のために、速度を落としてくれていたのかもしれない。

 なんと心の優しい、屈強な男たちなのだろうか。



 追いついた私は、そんな慈愛に満ちた屈強な男たちに、さらなるお願いごとをしていた。

 勇者イトのついでに、私のことも、町まで運んでいってもらうことにしたのだ。


「それも、いろいろと、おかしいんだけどね」


「なにがだい?」


「普通に考えればわかるでしょ。なんなの、この神輿みこしみたいにかつがれてる状況は。そこになんの疑問も持たずに乗っかるあんたも、一体どうなってんだ」


「世界には、こういうことだってあるんだよ」


「じゃあ、その世界ってのがどうかしてるってことだな」


「ニニも言ってたけどさ、もう少し外に目を向けてみないかい? こういうことに慣れとかないと、この時代、生きていけないよ?」


「生きられなくても、かまわないねぇ。絶対に慣れたくないからねぇ、こんなことには」


強情ごうじょうだねぇ」


「人を拉致らちしといて、なにを言ってるんだか」


「私がついてるんだから、危ないことなんて、なにもないんだよ?

 なぜなら私は、元魔王様なんだからさ。

 大船に乗ったつもりで、楽しく旅をしようではないか。

 畑の手入れは、ニニがしてくれるって言っているのだから、ていのいい休暇だよ、休暇」


「休暇ねぇ」


「きれいな景色に、おいしい料理。すてきな出会い、なんてのもあるかもしれないではないか」


「こんな旅で、出会いなんてあるのか?」


「あるともさ」


「ふぅん、そうかね……。いやね、妹の手前、普段はあんまりこういうことは口に出しにくくてね。これでもいい年だからさ、誰かいい人いないかなぁ、なんて思ってたりはしたのよ」


「ほら、やっぱり外に出ないとさ。そういうことは、広くどーんとかまえていかないと、見つかるもんも見つからないからね」


「そうかもねぇ」


「魔族でよければ、私も紹介できるよ?」


「魔族は……どうだろ、よくわからないんだよね、あんた以外、見たことないしさ。最初はできれば、人間の女の子でお願いしたいねぇ」


「そうかい? まあ、この旅で見つければいいさ」



 私たちは、屈強な男たちにゆられながら、先日私が歩いてきた道を、逆方向に進んでいく。



「それにしても、あんのクソやろうどもめ、戻ったらタダじゃおかねぇぞ」


「おいおい、村の勇者ともあろうものが、そんな言葉を使っちゃぁダメだよ。静かに暮らしたいと言ってた君はどこにいったんだい? 」


「じゃあ、どんなんだったらいいんだよ」


「『本物の勇者になって、お前らを見返してやるぞぉ!』くらいは言えないもんかい?」


「なんだよそらぁ。

 俺はな、魔王を倒すつもりも、勇者になるつもりもないの。

 勝手に連れ出されて、勝手にこんなことになってんの。

 そもそも元魔王のあんたが、あんなところで行き倒れてなけりゃ、こんなことにはならなかったんだろうが」


「ちょっと待て。それはなんだい? 全部私のせいだっていうのかい? さすがにそれは、おかしくないかい?」


「なにがだよ、なにがなんだよ、えぇ?」


「お前はあれだ、勇者じゃないな、勇者未満だな」


「未満ってなんだ、未満って。俺は、ただの村人なの」


「じゃあ、勇者未満村人以上か」


「以上ってのも、なんか違うけどなぁ」



 そんなこんなで、時間はどんどんと流れていき――



 遠くのほうに、町らしき建物がちらほらと見えてきて、それがだんだんと大きくなってきていた。



 そして目の前に、『コソコ』と書かれた看板があらわれた。


 そここそが、私たちが目指している次の町だった。



 屈強な男たちは、私とイトを町の前で下ろし、そそくさとどこかへと消えていった。


「ありがとう! またどこかで!」


 私は、見える範囲の大自然に向けて、礼を言った。


「ところで、あいつらはどこの誰だったの? というか、なんだったの?」


「気にしない、気にしない」


「いや、気になるでしょ。人間なの? 魔族なの?」


「屈強な男たちだよ」


「答えになってないでしょーよ」


「いいから、さ、ここが、そう『コソコの町』だよ」


 サビレ村より栄えてはいたが、都市とは呼べそうにない大きさだった。

 それでも、必要なものはそろえられそうと思わせるくらいの、町並みとにぎわいがあった。


「じゃあ、今からここで、旅支度たびじたくをするから」


「なんだよぉ! ここで終わりじゃないのかよぉ!」


「違うよ、ここから始まるんだよ」


「おかしいって。なあ、元魔王さんよ。だってさ――」


 グダグダと文句を言うイトをよそに、私は布袋から、を取り出していた。


 さすがニニだ。

 彼女の仕事は完璧かんぺきだ。


 私の取り出したそれは、ニニにわざわざ作ってもらった、だった。

 私はそれを広げて、服の上から羽織はおる。


――それは、どちらかというと、中に入る、と言ったほうが正しい様相ようそうではあったが。


「――あのな、魔王」


 そう言って私のほうを見たイトは、目と口を大きく開けた。


「なんだぁそりゃ、突然どうしたぁ……!?」


「ふふふ、どうだ?」


 私にふさわしい、黄色くて丸くてかわいらしい、すてきな着ぐるみだろう?

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