第7回 元魔王、着ぐるみを着る。

 私は、身体がすっぽりと入るくらいの大きな着ぐるみを装着していた。


 黄色くて丸い身体は、顔と一体になっていて、その正面に目と口がついていた。

 左右には手が、下部には足がそれぞれついていて、私は自分の手と足で、それらを自在に動かすことができた。


 といっても、着ぐるみの手はちょこんと生えているだけの代物しろもので、手首から先でかろうじて動かせる程度のものだった。


「そりゃなんだ」


「着ぐるみだ」


「見ればわかるよ。なんでそんなもん着てんだって言ってんだ」


「それはな――」



 それはサビレ村でのこと。


 行き倒れていた私は、村人に助けてもらったのだった。

 そんな私のことを、村長は魔王様と呼んだのだ。


 こんな人里離れた村でも、みなが私のことを魔王だと知っている。

 そう村長は言っていた。



 ならば、これからの旅では――少なくとも、人が集まりそうな町や都市では、素顔をさらしては歩けないだろう。


 だから――



「無理を言って、作ってもらったのだ」


「いや、そうだとしてもさ、だって、それ……お前って何歳なんだ?」


「1896才だ」


「それでお前……それってお前……いいのか? それで」


「どうだ、似合うか?」


「似合うっていうか、足の先から頭の上まで、全部が隠れてるからな。外見は、まあ、かわいいけどさ」


「そうか、ならば私の正体に気がつくものはおるまい」


「そうだろうけど」


 そんなに私がかわいらしいのか、イトは私の姿をなめるように見てくる。


 ちょっとうれしい。


「でもよ、その身体というか顔というか、その丸みはどうやって出してるんだ? ただ着こんだだけじゃ、そんなふっくらとはならんだろ」


「無論、ただ着ただけでは、こんなにも美しくはならない」


「美しいとは言ってないんだけどな」


「この姿を維持するために、私は、持てるすべての魔力をそそぎこんでいるのだ!」


 目や口だって、こんなふうに自由に変えられるのだ。

 すごいだろう?


「無駄なことをすんな!」


「魔力がつきたらしぼむから、時間制限はあるがな!」


「やめないのかよ!」


「やめないぞ。ほら、時間がないから、ちゃっちゃと必要なものを買うぞ。ついてこい」


「待て待て、せめて先に行かせてくれ、頼むから、このとおりだから」


「そうか? そこまで言うのならばしかたないな。やる気を出してくれてなによりだ」


 そういうことじゃないんだけどな、とイトは独り言をいいながら、私を町の中へと先導していく。


 着ぐるみの入っていた布袋は、ちゃんとイトが持ってくれているようだ。


 さすが勇者だ。


「ああ、そうだ。この格好のときは、私のことを『MOマオちゃん』と呼ぶようにな」


「うるせぇ!」

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