第8回 元魔王、うわさされる。

「なにあれ? ちょーかわいいんだけど。なんかの魔物? やばい、猛烈もうれつに抱きつきたい」


「やめとけ。ああいうのは、ああやってかわいさで人間をおびきよせて、油断したところを食うんだよ」


「えー、そうは見えないけどなぁ」


「しかし、あんな魔物、見たことないけどなぁ。あの男が捕まえたのか?」


「じゃあ、あの人は魔物使いなの? んー、そうは見えないけど」


「あの男、どこかで見た気がするんだよなぁ。最近……どこか……こう、目にしたというか……」


「ああ! そうだよ、あの人! あの、サビレ村の勇者だよ」


「え!? 最近噂されてるあの!?」


「ふたりだけで話を進めるな。なんだ、その噂って」


「え、知らないの? ほら、最近、魔王が変わったって話あるじゃない? それは、勇者に倒されちゃったからなんじゃないかって言われててさ。で、その魔王を倒したのが――」


「あそこにいる、サビレ村の勇者、ってこと!」


「そうそう。まさか噂の張本人に出会えるなんてね。私、サインもらっちゃおうかな」


「迷惑になるから、やめときなさい」


「えー、いいじゃん」


「ダメだ」


「そこをなんとかさ」


「ダメだって」


「ねえねえ、あのさ、じゃあさ、もしかして、あのかわいい魔物は、一緒に魔王を倒した勇者の仲間ってことなのかな。魔物を仲間にするなんて、めずらしいよね」


「だね、あんまり聞かないよね」


「見たことはないな」


「んーでもさ、最近の魔王って、そんなに悪いやつじゃなかったんでしょ? なんで倒しちゃったんだろうね」


「前と違って、とっても優しい魔王だったって話だよね……ちょっとかわいそうかな」


「そうはいっても魔王だからな。いつかは倒される運命なんだよ」


「なにそれ、ちょっとひどくない?」


「いやだってさ、いくら優しい魔王になりましたって言われても、そう簡単には許せないやつらもいるんだよ。そこはさ、時代とともに変わっていくもんさ」


「なんか達観たっかんしてるね」


「伊達に年とっちゃいないからな」


「じゃ、私、サインもらって、ついでに、あのかわいいのにもダイブしてくる!」


「あ、ずるい、私も行く!」


「おいこら、話聞いてたのかよ」

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