第5夜 元魔王、旅を終える。

第36回 元魔王、魔王城につく。

 私たちの目の前には、どでかい魔王城の門があった。


 私たちは、ついに、とうとう、魔王城に、たどりついたのだ!


「そのもったいぶった言い回しはなんだ」


「目的地だった魔王城に、ようやくたどり着いたのだ。少しは演出しないともったいないではないか」


「俺としては、勝手に連れてこられて、成り行きで目指すことになっただけだからなぁ。ただまあ――」


 イトは、ひっくりかえるくらいに首を後ろにたおしながら、門を見上げている。


「門だけでこの大きさなのか……、中はどうなってんだよ」


「そこはくさっても魔王城だからな。中も豪華だぞ」


「ここが、モタの実家、ってことでいいんだよな」


「その言葉がふさわしいかどうかはさておいて、まあ、そういうことになるな」


「すごいな」


「なんだ、うらやましいのか?」


「うらやましくはないけど、とにかくなんか、すごいな。こんな俺でも、ちょっとワクワクするもんがある」


「そうだろう? せっかくだから、ゆっくり見てまわっていけばいいさ。いつまでいてもらってもかまわないのだからな」


「いや、帰りたいのは変わらないから、適当に」


「そうかい。ま、それでもいいさ」



 門の横には、門番用の詰所が作られている。


 魔王城を訪問する際には、まずはそこにいる門番に、話を通す必要がある。


 それは魔王であっても、変わらない。

 元ならばなおさらだ。


「門番よ、いるか?」


「おや、魔王様――じゃなくて、元魔王様、お帰りになられたのですか」


「うむ。とてもよい旅だったぞ」


「それはそれは。今、門をお開けいたしますので、少々お待ちを」


 門番はなにかしらの装置を動かした。


 すると、ドドドドという音とともに、門が左右に割れ、中へと続く道があらわれた。


「お待たせいたしました、どうぞ元魔王様」


「いつも苦労をかけるな」


「いえいえ、そんなことありませんよ。

 いろいろな方にお会いできて、とても楽しい毎日です。

 今日なんかも、ちょうど勇者様がお越しになられているところなのですが、めずらしいことに、おひとり様でのご来訪だったのですよ。

 元魔王様が戻られるちょっと前のことでしたので、もしかしたら、まだ魔王様のところにいらっしゃるかもしれません」


「ほほう、それはいいことを聞いた。もしそのものが観光を望むのならば、私がじきじきに案内をしてやろう」


「なんと。それはきっと、勇者様もお喜びになられること間違いなしですね」


「だろう?」


「わかったから、早く行こうぜ」


 得意げな顔をする私を、イトがせっついてきた。


「元魔王様、そちらの方々は?」


「ともに旅をしてきた私の仲間たちだ。

 もともとは各地の勇者だったのだが、ゆえあって私が倒すことになってな。

 で、どいつもこいつも、どうしても連れて行ってほしいと懇願するので、しかたなく連れてきたのだ」


「そうだったのですか。さすが元魔王様。これもひとえに、元魔王様の魅力のたまもの、といったところでしょうかね」


「だろう?」


「嘘をつくな! もういいから、ほら、行くぞ」


「門番よ、それではな」


「はい、元魔王様。それに、お仲間様方も、長い旅路を、本当にありがとうございました」


 私は、イトに引っ張られながら、魔王城の門をくぐる。

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