第2回 元魔王、死を覚悟する。

 この村は、そのものズバリ『サビレ』という名の村なのだそうだ。

 昔は名産品もたくさんあり、サビつく暇がないほどの、にぎわいを見せていたのだという。


 ただ、そんな村にも――そんな村だからこそ、時代の波はおそってくるもので。


 人間社会は、都市部集中型の国家体制に入り、地方都市からはだんだんと人の手が消えていった。

 地方都市でそんな有様なのだから、このような遠く離れた小さな村など、もうどうしようもなかった。



「ご挨拶が遅くなりました。私はこのサビレ村で村長をしているテコナイと申します」


 サビレ村村長テコナイは、椅子に腰かけたまま、深く頭を下げた。


「どうか頭をお上げになってください。こちらこそ、名のりもせずに申し訳ないことをしてしまいました。私は元魔王のモタと申します」


 私も負けじと、身体を折り曲げる。

 まさに病み上がりという身としては、なかなかにきわどい姿勢なのかもしれなかった。


「それで村長、私に倒されてほしいというのは一体……?」


「それがですな――」



 どうしようもなくなっていったサビレ村は、それでもなんとか復興ふっこうしようと、新しい企画を立てては、無謀むぼうにもそれらを次々に実行してきた。


 そして、そのどれもが失敗に終わって、途方に暮れる日々だったそうだ。


「そんなとき、村のものがあの道で倒れている魔王様を発見しましてね。

 これは神の――いえ、まさに魔王様のおぼしなのかもしれないなと。

 そう思ったらいても立ってもいられずに、こう、企画がわっと頭に浮かんできましてな。これはもしかしたら、一大イベントで村おこしができるんじゃないかと」


 そう言いながら 村長は、私に数枚の板紙を差し出してきた。


 そこにはまず、こんな一文が書かれていた。


 『サビレ村勇者に関する 魔王討伐計画実行書』


 そのまんまなタイトルだった。


「ですのでどうか、ここは私たち村のものにめんじて、勇者に倒されてはいただけませんでしょうか」


 このとおりです、と村長は、また頭を下げてくる。


「そう言われましても、さすがに死ぬのはちょっと」


「そうでしょう。ですが、そこをなんとかお願いしたいと考えておりましてな。とりあえず、その紙をめくっていただいて、中をごらんになっていただければ」


「中、ですか?」


 言われたとおりに、私は、渡された紙のすべてに目を通した。



 そして――



「わかりました、村長。こんな元魔王でよければ、サビレ村の力となりましょう。ぜひ、この村の勇者に倒していただきましょう」


「そうですか、それはよかった、ありがとうございます」


 私と村長は、熱い握手を交わしていた。


 やはりこの村は、すばらしいところのようだ。

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