第12回 元魔王、魔物レースに参加する。

 通された先には、薄暗い灯りに照らされた、小さなレース会場があった。


 ぐるっと一周するように作られたそれは、小型の魔物が走るのに、ちょうどよい大きさに見えた。


「よくできてるな」


「そうでしょう?」


 レース場のまわりには、ちらほらと人影が見える。


 しかし、どの影も、光が届かない場所にいたり、顔が見えないように目深にフードをかぶっていたりと、ただならぬ雰囲気をかもしだしていた。


「これから行われるのは、この子たちのレースだよ」


 ユーキの手の上で、フサフサとした毛を持った魔物が、くるくると動き回り、「ちゅうちゅう」と鳴いていた。

 暴れることもなく、人懐っこく鼻を動かしている。


「かわいいでしょ? この子たちはこう見えてかしこくて、ちゃぁんとあそこを一周まわってくれるのさ」


「へぇ、すごいな。じゃあ、せっかくだから、この子に賭けてみようかな」


「残念だけど、この子は大事な私の相棒だから、レースには出ないんだ。

 レースに出るのは、ちゃんとした選手だけさ。

 彼らは、日々、練習に練習を重ねてきた精鋭せいえいたちだから、全員がいいレースをすると思うよ」


 ユーキは、レース場の前にかかげられた大きな板を指さした。


 そこには、出走する魔物の一覧が書かれていて、それぞれの名前や年齢、特徴がこと細かく刻まれていた。


「誰に賭けるのか決まったら、ここに、さっき渡した板を置いてね」


 魔物一覧の下には、それぞれの魔物に対応する形で、木の台が作られていた。

 いくつかの台には、すでに板が置かれている。


「MO、どうする? 誰に賭ける?」


「ん……そうだな、とりあえず『幸運の持ち主』って書かれてるこの子にしとけばいいんじゃないかい?」


「『幸運の持ち主』? こっちの『足が速い』とか『スタミナがある』とかじゃなくて?」


「その二匹は、なんか違うんだよ。こう、なんとなぁくさ」


「適当だなぁ」


「いいんだよ、こういうのはな、びびぃっときたのが正解なんだ」


「そういうことなら、俺はユーキが連れてたあの子がよかったんだけどなぁ」


「出走しないってんなら、しかたないじゃないの。さ、もう賭けちゃおう」


「いいのかなぁ、だってこれ、この旅の命運がかかってるようなものじゃない、それを簡単にさ」


「なんだい、それならこんな感じに、をして賭ければいいのかい?」


「やめなさいって、薄暗いんだから! 変な顔すんじゃないの!」


「変な顔ってなんだい。変な顔っていうのはな、こういう顔のことを言うんだよ、ほらほら」


「へいへい、じゃあ、元気なこの子に賭ければいいんだね、どうなっても知らないよ」


 イトは、私の言った『幸運の持ち主』に板を置いた。


「決まったみたいだね。そろそろレースが始まるよ」


 一覧に書かれていた選手たちが、次々にレース場に出てくる。

 そして、各レーンごとのスタートの位置に、しっかりと並んだ。


 そして――


 スタートを告げる、鐘の音が鳴る。

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