第11回 元魔王、もうけ話にのる。

 ユーキの話したもうけ話は、きわめて単純なものだった。


 どの魔物が一番早くゴールするかを予想し、お金を賭ける。

 それが当たれば、賭けたお金が何倍にもなって返ってくる。


 つまり、魔物レースを使ったギャンブル、ということだった。


「MO的に、こういうものは許せるのかい?」


 説明を聞いたイトは、私にだけ届くように、小声でそう聞いてきた。


 おそらく、魔物が賭けごとに使われていることを言っているのだろう。


「社会的にどうなのかはさておいて、魔族だって、人間を使った賭けごとぐらいやっているさ。そういう意味では、お互い様なのさ」


「そういうもんかね」


「それに、レースというのならば、少なくとも虐待ぎゃくたいではなかろう? 

 むしろ、よい待遇でむかえられている可能性だってある。

 助けを求められているのならばいざ知らず、通りがかりの外野がとやかく言うことではなかろう」


「それは……そうだな、もし雇われてるってことなら、そういうこともあるのかもな」


「だろう? イトよ、なにごとも一面だけにとらわれてはダメだぞ」


「へいへい」


「それでどう? おふたり様は魔物レースに参加する気はあるかい?」


「それは――」


 イトが、また耳打ちをしてきた。

 どうやら、この賭けにのろうとしているようだった。


 私も、その意見には、おおむね賛成だった。

 こうでもしなければ、簡単には、お金は手に入らないだろう。


 それにおそらく、のかもしれないのだから。


「その顔は、参加することに決めたみたいだね」


「でも、俺たちはそもそも金がないから困ってたわけで、だから賭けるための資金もまったくないんだよ」


「それは大丈夫だよ。おふたり様の持ち物をお金に替えてあげるから。その大事そうに持ってる袋に、なにか価値のあるものでも入ってるんじゃない?」


 ユーキは、着ぐるみを入れていた布袋を指さしていた。


「この中か?」


 そう言いながら、イトは袋の中を探り、そこから折り畳まれた布を取り出した。


 それは、私がもともと着ていた服だった。

 サビレ村でニニに直してもらってからは、袋に入れて持ち運んでいたのだ。


「おお、いいものが入ってるじゃない、どれどれ」


 ユーキは、私たちの許しを得る前に、さっとイトからそれを奪いとり、広げた。


「うーんと……なるほど。多少ボロではあるけど、価値がないってわけじゃないから、いいんじゃない? これなら魔物レースに参加させてあげられるよ」


 そう言ってユーキは、手でつかめるくらいの木の板を、イトに手渡した。


「これが参加証兼掛け金になってるんだ。これを持って、そっちから裏手に回ってね。そこですぐにレースが始まるからさ」


「その服は、どうなるんだ?」


「レースが終わるまでは、こっちであずからせてもらうよ。もし必要なものなら、レースの勝ち分で取り戻してくれればいいさ。なぁに、それくらいは簡単に稼げるもんだよ」


 ユーキは、また強引に、私たちを魔物レースが行われる会場へと連れていく。


「でも、なんであんたがあんな服を持ってたんだい? もしかして着るの? そういう趣味なの?」


「いろいろあんだよ、旅してりゃ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る