第10回 元魔王、もうけ話を聞く。
まだ日は高かったが、酒場はそれなりのにぎわいを見せていた。
そんな酒場までの道中を、私は、愛らしさをふりまきながら歩いてきていた。
どうだ?
だんだんと板についてきただろう?
「こっちだよ、おふたり様……違うかな? おひとり様とお一匹様、なのかな?」
「そんなのどっちでもいいよ。それよりも、さっきの話は本当なのかい?」
「もうかる話のこと? 本当も本当さ。ささ、詳しい話は奥で」
小柄な丸メガネは、そう言いながら、私たちを酒場の奥へとむかえいれようとしていた。
しかし――
「すまない、イト。扉にひっかかってしまった。ちょっと、手を貸してくれないか」
「いそがしいなぁ、おい」
イトの助けで、私はなんとか
大きな身体というのも考えものだな。
全身を隠せるのはいいが、その分、小回りがきかない。
今後は気をつけなければならない。
「さて。それではまず、自己紹介をしておこうかな。ボクはユーキっていうもんだ。よろしく」
「ユーキは、この町の出身なのかい?」
「うおっ! あんた、人間の言葉が話せるのか」
「それなりにな」
私の言葉に、丸メガネことユーキは、驚いた顔を見せた。
だが、それも一瞬のことで、すぐに
まるで、私のことを見定めているかのような視線だ。
「それで、ユーキはこの町の出身かい?」
「あ……ああ、そうさ。生まれてこの方、この町でずっと暮らしてる」
「そうかい。外に出ようとは思わないのかい?」
「おいMO、変なこと聞くんじゃないよ。もしかしてそれは、俺へのあてつけってやつかい?」
私は、イヤミな顔をしながら、イトのほうを向く。
やられたことはやりかえす。
それが魔王だ。
元だけど。
「まあまあ、そっちの事情は知らないけど、ボクに関しては、まあ……そうだね。この町のみんなは優しいし、周辺にも凶暴な魔物がいないから、暮らしやすいんだ」
「サビレ村だって、のどかで過ごしやすいところなんだよ」
わかったか、とイトは、私の着ぐるみをバンバンと叩く。
私のふっくらさの前では、そんな程度、痛くも
ただ、不愉快ではあった。
「MOちゃーんぱーんち!」
身体のひねりをうまく使って、小さい着ぐるみの手で、イトに
「ぐぁ……! なんだぁ、やるかぁ……!」
「ちょっと、こんなところで争いごとはゴメンだよ。おふたり様は、ここになにしに来たのさ」
そうだった。
旅には金が必要なのだ。
その金を手に入れるために、私たちはユーキについてきたのだった。
「話を聞こうじゃないか」
ユーキは、その丸メガネをきらりと光らせて、私たちに話を始めた。
「魔物レースって聞いたことあるかい?」
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