第3夜 元魔王、都の勇者と旅に出る。

第16回 元魔王、都につく。

 コソコの町を離れて、数日がたった。


 山をこえ、谷をくだり、川をわたった。

 宿があれば泊まり、なければキャンプをした。


 料理は持ち回りにしていたのだが、イトの料理はひどいなんてものじゃなかった。


 なんだ、あのカラいのは。


 どうして、あんなにカサが増えるのだ。


 どうやったら、あんなに時間をかけられるのだ。


 しかも、たまにおいしいものを出してくるから、始末に負えない。


 ユーキとムジーは、そんなイトをなんとかして止めようと、いつも躍起やっきになっていた。

 私はというと、そういうのもおもしろいかもしれないと思いながら、ただ眺めて、ただ出てきたものを食べるだけだった。



「荷物も軽くなってきたみたいだし、そろそろ買い込みどきか?」


「そうだね。次はちょうど『冒険者の食堂』って呼ばれてる町のはずだから、いいものが仕入れられると思うよ」


「それは楽しみだねぇ」



 旅は順調に進んでいて、次の大きな町が近づいてきていた。



「なあ、ちょっとは荷物を持ってくれないか?」


「軽くなったんなら、そのまま持ってくれればいいではないか」


「だからだよ。これくらいなら元魔王様でも持てるだろ?」


「失礼な。私だって、ちゃぁんと持っているではないか」


「それ、あの着ぐるみだろ? そんなもん捨ててけよ」


「捨てられるわけがなかろうが。MOちゃんはな、この旅のマスコットなのだ」


「いらねぇよ、そんなの」


「でも役には立っているだろう? これからも存分に活躍させてもらうぞ、ふふふ」


「なんだよ、その持ってまわった感じは……ったく、わかったよ、次の町までは持っていくけどな、そこで絶対に会議するからな、絶対だからな!」




 凹◎凹◎凹◎




 『冒険者の食堂』と呼ばれる都市――『ハナハダ』は、コソコの町よりも、ずいぶんと大きく見えた。


 地方都市のひとつであり、人間側から魔族側へと渡る際には、必ず立ち寄るであろう場所に位置する、大きな商業都市だった。


 人間と魔族が争いあっていた時代には、多くの冒険者たちが、人間社会の最後の食事をここで取っていったのだという。


「なるほど、それで『冒険者の食堂』なんだねぇ」


「モタ様が魔王になってからは、このあたりもだいぶ変わったと聞きました。冒険者だけじゃなく、魔族のお客様も増えて、いろいろと大変にはなっているみたいですよ」


「いろいろとってのは、なんだろうねぇ……。私のしたことで、なにか問題が起きてなければいいのだけどねぇ」


「なにが起こっていたとしても、それはモタのせいじゃねぇよ」


「そうですよ、モタ様は争いをとめただけなんですから」


「そうかねぇ」


「ま、気になるのなら、その目で確かめればいいんじゃないかい?」


「そうですね、考え悩むにしても、実際にハナハダ市を見てからでも、遅くはありませんよ」


「そうかい? みながそう言うのならば、そうしようかね」


 そう言いながら、私は布袋から、を取り出していた。


「じゃあ、準備するから、ちょっと待っててね」

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