第39回 元魔王、旅の仲間をたたえる。
回復した勇者は、私たちに礼を言って、魔王城をあとにした。
それを見届けた私たちは、あらためて玉座に座る魔王のモチに、それぞれ、挨拶をすることになった。
私の紹介に合わせて、ひとりひとりが一言程度の言葉を発した。
「みなさま、我が魔王城によくおいでくださいました。道中、大変だったでしょうから、ゆっくりとしていってくださいませ」
モチは、そこで一旦、言葉を区切り、わざとらしく、おほん、と咳払いをする。
「えー、それでは、これまでMOちゃん様――もとい、モタ様と旅をしていただいた勇者のみなさまに、魔王討伐の証と称号を授与したいと思います」
「称号?」
「せっかくモタ様とここまで来られたのに、証だけをお渡しするのもなにかなと思いまして」
「なるほど、おもしろいな、さすが我が子だ」
「ありがとうございます。ということでですね……」
モチが、私に向かって手招きをしている。
なんだなんだ?
「今回はせっかくですので、その称号を、モタ様と一緒に考えようと思いまして」
「ほほう、我が子ながら、
「お褒めにあずかり光栄です」
そこからしばし、私はモチとごにょごにょとしてから、元いた場所に戻った。
「変な称号だったら、ただじゃおかないからな」
「安心してよいぞ。特にイトの称号は、私たちの自信作だ」
「だから不安なんだよなぁ」
「それでは、称号授与式を行います。『グラネ・フタ』様」
「あひ」
変な返事とともに、グラネは、玉座へと続く階段をあがる。
「あなたは、魔族と人間の双方の血を受け継ぎ、そのために、つらい思いをされてきたとお聞きしました。
そして、つらく苦しい状況から
それは、私たち魔王の力がおよばなかったためでもあります。
どうか、そのことを謝罪をさせてください。
ただ、その上で、私たちのことを助けてはいただけないでしょうか。
新しい時代を作っていくためにも、あなたは必要な存在です。
生まれてきてくれたことあなたに、心からの感謝を送ります。
そんな希望をもつあなたに、この称号『
「ありがとう、ございます!」
グラネは、今度は、しっかりとした言葉を口にしてから、戻ってくる。
「『コクドク・フルイ』様」
「おう」
グラネと同じように、コクドクも玉座の前まで移動する。
「あなたは、『勇者亭』を営み、数多くの人間に、おいしい料理をふるまってきたと聞いています。
そして、魔族の口にも合うように、日々、研究を重ねてくださっているとも。
私たちのために苦心してくださり、本当にありがとうございます。
ただそんな魔族が、恩を仇で返すようなことをしてしまい、申し訳なく思っております。
魔族と人間を分けなければならなくなってしまったことは、とても残念に思います。
食事は、楽しくなければならない。
それは、魔族であっても変わりません。
ですので、ここは魔王である私が、全魔族にきちんと、人間のしきたりを尊重するようにお伝えいたします。
そして、もし今後、分別もわきまえずに横暴な態度をとるものがいらっしゃいましたら、ぜひ私のところにご一報くださいませ。
直々にお灸をすえてあげますから。
それでは、そんな食事という楽しさを分け与えていただけるあなたには、称号『
「感謝いたします」
コクドクは深く礼をつくしてから、元の位置まで戻ってきた。
「『ユーキ・マゼル』様と『ムジー』様」
「はい」「ちゅう」
ユーキは、ムジーを肩に乗せながら、魔王様の前へと進み出る。
「あなたは、人間でありながら、魔族を相棒とし、町の安全を見守り続けてきたとお聞きしています。
あなたと魔族との信頼関係は、ちょっとやそっとでは築けないものだと思います。
特にムジーとの間にある絆は、他のなによりも強いものだと感じられます。
もしかしたら、そこにはなにか深い理由があるのかもしれませんが、部外者である私が立ち入るべきものではないのでしょう。
ですが、その理由があったからこそ、あなたたちは相棒となり、モタ様の仲間として、ここまで旅をすることになったのだと思います。
ですのでせめて、そのことだけについては、どうか感謝をさせてください。
すべての魔族と人間が、あなたたちのように信頼をもって接しあい、両隣の関係として生きていける未来を、私は望んでいます。
そこであなたには、称号『
「ありがたき幸せです」「ちゅう」
ひとりと一匹が、それぞれに礼を口にして、元の場所へと帰ってくる。
「最後に、『イト・アモード』様」
「へいへい」
イトは、軽めの返事とともに、軽い足取りで歩いていく。
「俺は、みんなみたいな大層なものがないんで、短めで大丈夫ですよ」
イトは、モチにそんなことを言った。
これだからイトは。
さきほどの私の言葉を聞いていなかったのか?
「イトこそが、この旅の功労者なのだぞ?」
サビレ村では、妹のニニのために勇者を買って出て、元魔王である私の旅の仲間となった。
コソコの町では、ユーキの相棒である魔物のムジーをまっさきに気に入り、賭けに勝ってユーキを仲間にした。
ハナハダ市では、私たちを『勇者亭』へと導き、私の大食いをサポートすることでまわりの気を引き、すべてをたいらげてコクドクを仲間にした。
魔の国に入ってからは、『くらましの森』で私も知らない家を見つけ、親子の心を見事に言い当てて、クイズを征してグラネを仲間にした。
「私とユーキ、コクドク、グラネをそれぞれ引き合わせたのは、まぎれもなくイトなのだ。イトこそが、私たちを巡り合わせてくれた、真の勇者なのだよ」
「ええ、そうです。そんなあなただからこそ、この『ドウの勇者』の称号にふさわしいのです」
「ドウ? なんだよそれ」
「ドウと言えばわかるだろう? イトが、私たちに示してくれたものだよ」
「そう……言われてもなぁ」
「そうだな……では、こう言えばわかりやすいか。イトはもっとも長く私と旅をしてきたのだ。その二本の足でな」
「そうです。イト様は、この長い旅をその足で歩ききり、我が魔王城までたどりついたのです。そこには確かに、イト様の軌跡が残されていることでしょうし、これからもその軌跡は、そこに残り続けていくことでしょう」
「そこ?」
「まだわからないか。しかたがないな、つまりだね――」
「そんなイト様にふさわしい称号は、つまり、『道』でしょう?」
凹◎凹◎凹◎
こうして、私の隠居先を見つける旅は、一旦の区切りをむかえた。
結果的には、成り行きではあったが、各地の勇者と戦い、勝利し、仲間を増やしながら、魔王城まで帰ってくるという、当初の目的からはだいぶ離れた、おもしろおかしく、奇妙な旅となったのだった。
「最後にちょっといいか?」
「なんだ『ドウの勇者』イトよ」
「あのさ、魔王様に伝えたいことがあるんだけど」
「なんだ?」
「お前は『元』魔王だろ。そうじゃなくて、今の魔王様にだ」
「はい、なんでしょうか」
「あの、もしよかったら、その、つきあってくれませんか?」
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