降臨
サリクスとアムディの猛攻をかわしながら、ヌビィデアは昔の想い出に浸っていた。
一撃の威力は凄そうだが経験不足からくる単調な兄妹の攻撃は、ヌビィデアの身体に触れる事すらかなわないでいる。
「いい加減に降参して帰ってくれないか? おぢさん、そろそろ塔に置いてきた自分の研究に戻りたいんだが?」
ヌビィデアは体力的に余裕はあったが、表情は疲れ切っていた。
「ふざけるな!」
「馬鹿にしないでよ!」
それに比べてサリクスとアムディは、まだまだ元気一杯といった感じで顔を真っ赤にしながらも攻撃を続けている。
(ふざけるな……馬鹿にするな……か)
(なら少し本気で真面目に相手をしてやるか)
ヌビィデアは意地悪く笑うとサリクスに向けて石を四つほど投げた。
それらは瞬時に人型に膨らむ。
サリクスは驚いて、わずかな隙が生まれてしまった。
四体の人型はサリクスの両手足首を、それぞれ掴んだ。
そして諸共に広めのバルコニーのような空中庭園の上へと落下する。
「お兄ちゃん!?」
アムディは四体の石像と共に落ちるサリクスを目で追ってしまった。
その隙に背後をヌビィデアに取られると後ろ首を片手で掴まれる。
「ひうっ!?」
途端に彼女は身体を全く動かせなくなってしまった。
「どうかな? 降参して帰ってくれる気になったかな?」
空中でヌビィデアは背後からアムディを掴みつつ尋ねた。
「だ……誰が……」
アムディは首を少しだけ回転させるとヌビィデアを睨んで答えた。
(まだ首を動かせるだけの抵抗力があるのか……)
ヌビィデアは素直に驚いた。
アムディを抑え込みつつサリクスを見る。
「妹を……離せ……」
空中庭園の芝の上で四体のゴーレムに土下座させられていかのように四肢を押さえられつつも、サリクスは懸命に起き上がろうともがいていた。
何かが、ひび割れるような音がヌビィデアの耳に届く。
(げっ!? ゴーレムの腕が破壊されかけている。なんつー馬鹿力だ……)
ヌビィデアは困り果てた。
(本気を出して心を折るのは容易いが、それやっちゃうと流石にイントゥールもブチ切れるだろうしなー)
もう、こちらから土下座してお帰り願おうか?
そんな事をヌビィデアが考えていると……。
「ヌビィデア様〜!」
アルムの声が天井の無くなった部屋の方から聞こえてきた。
ヌビィデアがそちらに視線を向けると、アルムがこちらに飛んできているのが見える。
アムディもアルムに視線を向けると、驚きで両目を見開いた。
サリクスも顔を上げてアルムに視線を向けると、鼻の穴から赤い雫が垂れてくる。
ヌビィデアはアルムに問う。
「アルムくん? その格好は?」
「あっ……はい、先程の衝撃で服が破けてしまいまして……着替えが昔の魔将軍だった頃の服しか無かったんです」
アルムは少し照れくさそうに答えた。
ヌビィデアはアルムの着ている服に違和感を覚える。
想い出の中にいたアルムと少し違うような?
「……アルムくん、君……タイツを履き忘れているぞ?」
アルムの将軍服は普段、Tバック下着を着けて、濃い紫色のタイツをはいて、黒いハイレグの水着の様な服を着て、上半身に鎧をまとっている。
今は、そのタイツが無く肌が露出していた。
つまり生尻が丸出しの状態だったのである。
「えっ!? うそっ!? やだっ!?」
アルムは慌てて確認するかのように両手を後ろに回して自らの尻を掴んで引っ張ってしまった。
アルムの見えてはいけない何かがサリクスの瞳に飛び込んでくる。
ぶばっ!
サリクスは盛大に鼻血を噴くと、そのまま気絶してしまった。
アルムは両手で真っ赤な顔を覆いながら、そそくさと元の天井の無くなった部屋へと戻って行く。
アムディは大きく目を見開いたままで再び首を回すとヌビィデアを見た。
「あんた……現役時代は部下に、あんなドスケベな格好をさせて喜んでいたの?」
「違う、あれは彼女自身で選んだ服装だ」
「でも止めなかったのよね? あんな痴女みたいな格好をするのを……」
「タイツを忘れたから、そう見えるだけだ」
「ま、まさか……私を動けなくしたのは……あんな格好をさせる為じゃ……?」
「なんで、そうなる!?」
ヌビィデアが睨むと、アムディは怯えて突然に叫びだした。
「いやああああぁぁぁぁーっ!!! 誰かっ! 助けてっ! 変態魔王に変な格好させられて犯されるうぅっ!」
いつのまにか城の外の庭に人だかりが出来ていて二人を指差していた。
「おいこら! 人聞きの悪い事を言うな! 誤解されるだろうが! 俺は無理矢理そんな事をするような魔族じゃない!」
「うそ! うそよ! わたしを辱めて、いたぶるつもりなんでしょう!? 発禁アートみたいに!」
発禁アートとは、男女のあれこれが細かく描かれたインモラル過ぎて公の展覧会などで発表を禁止されている絵画や彫刻など芸術作品の総称である。
「離してよっ! このっ、どすけべエロエロ発禁大魔王!」
アムディから、そう罵られたヌビィデアは、少なからず精神的なショックを受けてしまった。
いったい、どうして、いつから、こうなってしまったのだろう?
かつての自分は、世界中から恐れられた破壊の使者であり恐怖の象徴だったはずだ。
本来であれば、こんなメスガキなんてションベンちびってベッドの上で掛け布団を被って脅えて震えていて当たり前なのである。
確かに今も恐れられているのかも知れないが、スケベで変態で襲われるなどと、完全に謂れのない誹謗中傷、風評被害の類いだ。
……。
本当に、そうだろうか?
確かに昔、アルムが最初にあの服装で来た時は、こっそり内心で大喜びしてしまった。
華やかだし、艶やかだし、何より美しかった。
仲間の魔族の評判も上々で士気の高揚に一役買っていた。
敵も見惚れて戦意を喪失していた者すらいたぐらいだ。
だから許可した。
そこにエロい下心なんて微塵も……。
(……いや、あったな)
ヌビィデアはアムディを掴んでいる手とは別の手を彼女の鎧の背に当てた。
そして心の中で呪文を唱えると、アムディの鎧を上半身部分だけ破壊する。
「えっ!?」
肌着だけになった己の姿をアムディは視線だけ動かして凝視した。
ヌビィデアは彼女の肌着の裾をクルクルと丸めるように片手で捲り上げ始める。
アムディのおへそが露わになっていく。
「や、やだ……ちょっと……冗談でしょ?」
アムディは頬を朱に染めると焦りながら上ずった声で尋ねた。
「ああ……どうせ俺はドスケベさ……エロエロだよ……だって男の子なんだもの」
ヌビィデアは、まともな返事をせずに意味不明な独り言をブツブツと呟いている。
その両目は、どこか遠くを見つめていた。
服の裾が脇腹と下乳の境界へ辿り着いた頃にヌビィデアは、とある事に気がつきアムディに尋ねる。
「……おまえ、ブラをしていないのか?」
彼女は動かせない筈の身体をビクリと震わせ、少しだけ頷いた。
「だって……すぐ窮屈になるし……鎧を着る時は隠れて見えないし……外しているの……」
その恥ずかしくて消え入りそうな弱々しい声に罪の意識を感じたヌビィデアは、前に回りたくなった衝動をかろうじて抑え込んだ。
だが情けはかけなかった。
裾を捲り上げる手を止めたヌビィデアは、アムディに問う。
「降参すれば裾を元に戻そう。だが降参しなければ、このまま捲り上げる」
「……そんな!?」
「いずれ我々を見ている眼下の人々に、君は透け乳首だけでなくピンクの乳輪を晒す事になるだろう」
「い、いや……」
「ならば言え、降参しますと……国に帰って、お母さんに詳しい説明を聞いて、二度とこの国には手を出しませんと……」
アムディは押し黙ってしまった。
沈黙を否定と受け取ったヌビィデアは、ゆっくりと裾の捲り上げを再開する。
「あ……やだ……やめて」
「早く降参しろ。このままでは、もうすぐ乳輪が降臨してしまうぞ?」
「ああ……そんな……」
「こーりん、にゅうりん、こーりん、にゅうりん」
ヌビィデアは何だか少し楽しくなってきた。
即興の自作唄を歌いながら裾を少しずつクルクルと丸めて捲り上げていく。
そして丁度、肌色と桃色の境界にさしかかったあたりで……。
「うう……ぐすっ……ひっく」
アムディの啜り泣きが聞こえた。
(……ここまでか)
ヌビィデアは元より本気で彼女の乳首を衆目に晒そうなどと考えていなかった。
諦めて降参して帰ってくれる事を望んでいた。
(なんつー強情な少女だ……)
ヌビィデアは自分の方から降参する覚悟を決めた。
いまさら謝ったところで許してくれるかどうかは分からないが、とにかく土下座でも何でもして帰って貰って、イントゥールが二人の子供を説得してくれる事に期待しよう。
そう考えていた矢先に……。
「そこまでにしていただこうかしら?」
聞き覚えのある女性の声が響いたと同時に今度は、ヌビィデアの身体が爪先ひとつ動かせなくなっていた。
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