第三、第四の勇者
はかない夢
ヌビィデアは夢を見ていた。
それはイントゥールが助かった後。
つまりはディックが亡くなった後。
ヌビィデアの持ち物で無くなった城の、とある部屋の扉がノックされる。
「どうぞ」
ヌビィデアが返事をすると扉を開けてアティが入ってきた。
彼女にしては珍しく、疲れたような、哀しいような、そんな表情を見せていた。
「ありがとう、ヌビィデア……イントゥールは何とか落ち着きを取り戻したよ」
「……今は?」
「眠っている」
「そうか」
アティはヌビィデアに近づくと、その胸へと頭を預けた。
「本当に助言をありがとう……ボクじゃ彼女に何て声を掛けたらいいか分からなかった」
「お腹の中にディックとの子供がいるのに、彼が助けようとした命を置いて、独りで勝手に死ぬ事を決めない方がいい……当たり前の事を伝えただけさ」
ヌビィデアは顔を下に向けて微笑む。
「もっとも、魔王の俺が言えた立場じゃないから、君に代弁して貰ったんだがね」
「ふふっ……そうだね」
顔を上げて笑うアティの両の目尻から涙が流れていた。
「アティ……」
「……ディックの亡骸の前で泣いていいのはイントゥールだけ」
「そんな事はない。でも、君がそう考えるのなら、それでいいさ」
アティはヌビィデアの胸に顔をうずめて泣いた。
ひとしきり涙を流した後でも勇者は魔王から離れようとはしなかった。
「アティ……俺は涙を流した女性の慰め方を一つしか知らない。もし、それを望まないなら……後ろを向いて扉を開けてくれ……そうでなければ、抑えられそうにない」
「ヌビィデア……ボクはキミでもいい……ううん、キミがいい」
アティはヌビィデアの両肩に両手を掛けると爪先を伸ばした。
◇
窓から射し込む朝日がヌビィデアの瞼を照らす。
「んん……ん……」
彼は親の仇でも見るかのように光る窓を薄目で睨んだ。
しかし。その窓のそばにはアティが立っていた。
(えっ!?)
アティの上半身はタオルのような白い布を首に掛けている以外は裸だった。
タオルの両端が彼女の双丘を覆い隠している。
ヌビィデアの視線は下へと降りた。
アティは何も穿いていなかった。
ヌビィデアの視線が高速で上に移動しアティの顔を捉える。
彼女は優しく微笑むと口を開いた。
「あ、師匠! おはようございます!」
サリクスの声だった。
驚いたヌビィデアが目をしばたたかせると、アティの幻は消えてサリクスが上半身裸に布を首に掛けた格好で現れる。
どうやら朝稽古をした後で身体の汗を拭いているようだ。
サリクスは、かろうじてズボンを穿いている状態だった。
ヌビィデアは無言で手の平から黒球を出すとサリクスの顔面に向かって投げつけた。
「いってえぇーっ!」
直撃だった。
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