第14話 ディオスの挑戦状

 次の日、王宮の謁見の間の石畳の上で目覚めたガレ・ザクラ・アイラは、縄で巻かれている自分の姿に驚愕し、怒り出した。床が冷たいのも腹立たしい事実の一つではあったが、何よりも落ち度のない自分をこの様な姿にする事を許し難かった。


「誰かある。これはなんたることだ。俺を縄で巻くとは、許し難い」

ガレの声に気付いた二人の衛兵は歩み寄り、責任者を呼びに行かせた旨を伝えた。少しして、ソレアとガテヤ、首席大臣のクンタを伴い多くの臣下が集まった。


「さて、昨晩はガレ様、お越しになられて言われておりましたなあ」

「何を言っていたのか」

「ソレアなど女王の値打ちなし、俺が王になって当然と」

「俺は酔っていたから何を言っていたか覚えておらん」


 ガテヤは呆れ果て、剣を抜くと縄を斬り、ガレを自由にした。

「これであなたは自由だ。ソレアと戦いなされ。酒に飲まれ、グダグダとクダを巻くのは戦士として恥ずかしいもの。さっさと決着をお付けなさい」


ガテヤは出来の良い剣を一振りガレの目の前に置くと後ろに下がった。

「なぜ酔って好きな事を言ったからと剣を渡すのか。俺は何も戦いたくはない」


ガテヤは怒り浸透し、髪の毛は逆立ち、目は血走っていた。それを見たガレは腰を抜かした。これを見た周りもソレアも目を伏せ、首を振り呆れた。

「あなたはアイラの掟をご存知か?」


 ソレアの問いかけにガレは答える。

「そんなもの、しらいでか。わかっている」


「どうも事の重大さを認識されていない様ですな」

首席大臣のクンタが困り顔で話した。

「あなたに問題がある事は多くの方々から申告がありました。ただ、ガテヤ様、女王様が置いておく様にと仰られ、放置していたのが悔やまれます。今回あなたが知らなかった事とはいえ、あのダッシュガヤに利用されたことはお分りいただけたでしょうか。女王様の母御であるソニア様はかのダッシュガヤに連れ去られました。拐かしを幇助した事は事実なのですよ。申し開きがあれば仰ってください」


「何を言ってる。ダッシュガヤなどと言うものは知らぬぞ」


ここに集まった十五人の臣下の中から一人が進み出て、ガレを睨みつけ、体を揺すって剣を手に取るように勧めた。右手に剣を握らせ、自身の両の手で周りを包み込み、そっと呟いた。

「この剣を手に取り、男になりなされ。アイラの男として、戦士として」


ガレは剣を手から振り払い、遠くに投げ出した。涙を流し、石畳に泣き崩れた。


「こいつを城の外につまみ出せ。いや、アの国の北の果てに捨てて参れ」

ソレアはそう言うと、玉座に座った。


 王宮に衛兵が駆け込んできた。

「大変です。空に人が写っております。どうか外に出て、お確かめください」


空に大きく映し出される二人の女。岩の前にソニアが立たされ、その横にダッシュガヤがナラニオをソニアの首に当てている。声こそ聞こえないがダッシュガヤは大笑いを見せていた。


映像はものの数十分で終わり、それを見終わったガテヤは怒り狂った。だが、何一つ出来る事などある筈もなく、一人悲しく頭を抱えてふさぎ込んでいた。

「これは多分ディオスからの挑戦状なのでしょうね。旦那様やミランダにも見える様に空に映し出したのだから、勝ちに来るでしょうね」


「だが、あの場所は何処なんだ」

「父上、クルド殿はわかっている筈。もうすぐ来ると思います」


ソレアの思い通り、アキオとクルド、ミランダがやってきた。

「今回の件は大変予想が難しい。クルドがいうには、自分達の知らないところで戦う羽目になると言う。人質の捕まって居る場所は分かるのだが、その先が見えないらしい」

「旦那様。そんな所なら行く必要はありません。母もアイラの女、覚悟もあります。捨てておいて下さい」


「ソレア、君の言う事は予想していた。だが、そうも行かないんだ。この戦いは避ける事が出来ないものなのだ。この挑戦を無視したらアの国の未来は無い。大乱が引き起こされるぞ。ダッシュガヤは、多くの民族が仲良く暮らして居るアの国の中に存在するいがみ合いの種を見つけ、それに芽を出ささんと水や肥しを与え始めた。このまま放置しておけば民族同士のいがみ合いが始まり、大小30もの国が独立し、その殆どが破滅の道を歩む事になろう。ただ、アの国は最後の勝者にはなろうが、今までアの国の財貨で復興した多くの地域が破綻し、助けを求めてもアの国の国民が許すだろうか。アの国は平穏となろうとも、他の国は一握りが他の多くの者達を搾取する国になる。誰もが夢を抱き、それに向かって努力する事でいまのアの国は発展している。その根底にある平穏な生活がなくなろうとしている。この世界の破綻を計画して居るのがダッシュガヤであり、今回の事件はその破滅へのカウントダウンなんだ。ダッシュガヤの計画を潰し、ディオスを倒すしか道は残されていないんだ。ミランダが治めている西部地域も反乱が引き起こされようとしていた。あまり時間は残されていない」


「それではどうすれば良いのです」

「ソレア。君の母上は助け出さねばならない。これは絶対だ。そのためにはソレアとミランダ、ガテヤ殿が絶対に必要だ。時間が無いので急ぐぞ」

「それでは」

「そんなに悲しそうな顔をするなよ。俺も辛い。急ごう」


クルドに連れられ、俺たちはヒクイド山にたどり着いた。


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