第7話 観の力

 大聖龍ケサロサの元から飛び立ち、西に向かう。だが、クルドは悩んでいた。

「アキオ。どう行こう」

俺はこの意味が分からず。答えられずにいた。

クルドは地上に降りて俺を前に話し始めた。


「この先のオデヤイカという所がある。そこでディオス達が待ち伏せをしている」

「じゃぁ、行こう。行って奴らに一泡吹かせてやろう」

クルドはただ黙って項垂れて悲しい顔をした。

「どうしたんだ。クルド」

「アキオ、ここが運命の岐路だよ」

「どういう事だい?」

「分からないだろうなぁ。アキオ、君に観の力を授けてやろう」

「俺に?」

「そうだよ。でも苦しむ事もある力だ。ただし、ここだけの事にしておくから心配しないで良いよ」


 俺はクルドに乗り、ミランダ、ソレアの二人と飛んで行った。オデヤイカを通りかかった時、ディオスとの争いが始まり、ディオスは逃げ去り、後には奴がダッシュガヤに集めさせた軍勢が残された。俺は奴らに降伏を呼びかけ、地上に降り立った。たった五千で俺たちに刃向かうとは。俺たちは奴らを解散させ、それで終わりだった。そう、終わりのはずだった。だが、ダッシュガヤに指示を受けていた五百の兵が弓を発射。雨のように降る矢。狙いは俺一人。

「危ない!旦那さっま」

ソレアは俺の前に立ち、命を失い、ミランダは茫然自失。俺はソレアの名を叫び抱き寄せていた。子供のように泣きじゃくり、怒りのままに暴走し、クルドに命じオデヤイカを死滅の炎で焼き尽くし、後には大きな穴が残ってしまった。後ろにミランダを乗せクルドと飛び続け、・・・・・・・・。


「ハッ」とする。

今のは夢だったのか、ソレアもいる。ミランダもそばに居てくれる。眼下にオデヤイカの平原が見える。先ほどと同じ光景。多くの軍勢が辺り一面に詰め寄せて矢を射ってくる。大岩を投石機で投げつける奴らもいる。さっきと同じだ。

「クルド、焼き払え」

クルドに指示。平原は炎に包まれ、ダッシュガヤの手勢は全滅。俺たちを襲うディオス。その背にダッシュガヤ。

「お前達に最後を与えてやる」

「アキオ!それは我の言葉よ」

ダッシュガヤは懐からまあるい球を取り出し、俺たちに投げ付けた。

「あぁ!」

ミランダが落ちる。ソレアが手を握るが遅く、ミランダは地上に投げ出され死んでしまった。クルドに追われディオスは逃げ出し、俺は追い切れず、ミランダの亡骸を連れて彼女の国に送り届けた。悔やみ続ける俺。ソレアも悲しみ、ガジュ国は喪に服して居た。


ソレアに抱きつかれ、「ハッ」とする。見るとミランダがいる。二人がいる。

オデヤイカの平原。五千の兵。クルドの炎を受け敵は全滅。ディオスは現れない。逃げたのか。

「あれを」

ミランダが指差す先には女が一人立って居た。

俺たちは近くに降り立った。俺は訝りながらも女を見て居た。

「アキオ様。あなたがいらしゃるのを待って居ました」

女は俺に話しかけてくる。

その時、現れたディオス。大きく吐き出された炎。俺の周りが炎に包まれ、燃え上がる。クルドも傷つき、俺は無事だったが、二人は消えて無くなった。俺は狂ったように叫び続け、ディオスを追うようにクルドに指示。クルドが飛び上がる所で声がかかった。


「アキオ。どうだった」

「あっ!クルド」

「あなた。大丈夫でしたか」

「旦那様、涙をお吹きください」

「ミランダにソレア。生きて居たか。よかった」


クルドに見せられた。未来はあまりにも悲惨すぎた。

「アキオ。ここは未来への分岐点。どうしようかと思う事が多すぎる」


 なんと悲しい未来しかない。行くも地獄、帰るも地獄。俺は残酷な未来を二人に話すことの愚を考えてただ黙っていた。だが、ここからオデヤイカを通って先に進むしか道がない事も事実なのだ。

「クルド。なぜ、この道しかないんだ?」

「分からない。きっとあるんだが、絶対に選ばないんじゃないだろうか」


俺は違う道がないかもう一度未来を見て見た。


二人に揺り動かされ、目覚める俺。涙が溢れ、思い出したくもない未来。

「クルド、やっぱり行くしかない。オデヤイカに行こう」

「どうするんだい。はっきり分かった事は二つ。オデヤイカは大きな穴ぼこが出来る。ディオスはどうしても逃げられる。だったらオデヤイカに大穴を作ってやろうじゃないか。そうしたら、たったと行き過ぎ、次の目標に向かおう」

「クルド。それで良いのかい」

「それしかない」


オデヤイカに着いたらダッシュガヤの軍勢が居た。ミランダが辺りを窺うと、クルドの右後方の上空に何かがいると言う。

「クルド。上昇しよう。オデヤイカにフルバスターを落とそう」


クルドは空高く駈け上がり眼下にオデヤイカの平原を見た。その視界の中に赤い点もみた。アキオの言うフルバスターを吐き出す。


 太陽の様な明るい光が地上に落ちてゆく。普通の炎は早いが、それに比べてふんわりと羽が落ちる様にふんわりと落下していく。

「おおっ。あれはなんだ」

多くの地上に配置された兵達は口々に叫び、空から太陽が落ちてきた恐怖を叫んだ。


 オデヤイカは光り輝き、炎に包まれた。この爆風は多くを巻き込んだ。ディオスも例外でなく爆風の中必死で態勢を維持するのがやっとだった。ダッシュガヤも振り落とされかけて、命からがらディオスに縋り付いて居た様な状況だった。


オデヤイカはもう平原ではなくなった。雨が降れば湖になるだろう事はダッシュガヤも想像ができた。さあ、これからディオスとともに戦おうと覚悟を決めたダッシュガヤではあったが、クルドの姿はすでに遠退きつつあった。自分達を振り向きもせず、悠々と飛んで行くその姿を見てダッシュガヤは悔し涙を流しながらディオスに訴えた。


「クッソ〜!我らを問題にもしないのか。ディオス様、追いましょうぞ。追いかけてやってしまいましょう」

「・・・・・・・」

「なぜです。なぜ追わないのです」

「ダッシュガヤよ。これでよく分かった。正面からやつと戦い、必ず勝てる事はない。何か策を講じなければならぬ。もう追いかける事など不要だ」


ディオスとダッシュガヤはそのままどこかに姿を消した。


先ほどまでは軍勢で犇めいて居たオデヤイカは、今は風が吹くだけであった。




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