第9話 ゾンビ

 事故でここに飛ばされた研究員は変わり果てた姿をして居た。一千年の時が彼らを変化させている事は確かなのだが、自分がどの様に変わってしまったか知らないままに、一千年帰る道を求め続けているところが地獄なんだろう。


ここの研究員は十三人を数え、皆昔の白衣を着てるのですぐにわかる。ただ、隠れて横で聞いていると、奴隷として使っている原住民を憐れむ者と当然と考える者とに別れていた。前者は三人しかおらず少数派であった。その他は我関せずが多く、ただ帰りたいの一心であった。ドラゴニュームを見つけた奴は他の者とは完全に違う外見をしていた。もし、道で会えば奴こそ悪魔と表現するに相応しい外見を見せていた。ゾンビが十三人動き回り、転送装置を作っていた。が、父が居らず、探し回ったが見つからなかった。それで黒いドラゴンの様子を見に水晶の森を進んだ。ドラゴンがいた。


 ドラゴンは大きな水晶の木々が折れて倒れている上に寝転んでいた。だが、この姿はおかしく感じた。クルドの寝姿と違っていたからだ。水晶の木々の柱でドラゴン全景が見えない。それで、だんだんと進んで行ってしまい、とうとうドラゴンの前に立っていた。ドラゴンの頭を見て、俺は「ハッ」とした。


 ドラゴンのツノの根元にあの研究所から消えたアンテナが刺さっていた。五百キロは有るとジェフに言われていた無くなったアンテナがそこにあった。正面から見たときドラゴンは、首を向かって右に曲げ、頭を内に寄せていた。アンテナがツノに刺さっていると見えた時、俺はぐるっと回り込み、その根本を確かめるつもりだった。だが、そこに見たのはアンテナがドラゴンのツノの根元に刺さっている光景であり、なぜかドラゴンの頭に同化した父の姿であった。俺は絶句した。ドラゴンも父親も眠っており、意識は無いようだった。後退りして俺は逃げ出そうとした。下がろうとするが、さっきまで何もなかった筈なのだが、後ろに下がれない。どうしてだと思い後ろを振り返ろうとしたその時、しわがれた右手が俺の右肩をつかんだ。俺は恐怖した。


「この愚か者が。ギガトマ様に何の用だ」

俺は肩を掴む手を払いのけた。細く華奢な手だとばかり思っていたが意外にも力強く簡単には払いのけられなかった。

「なぜそんなに力が有るのか?」

俺が質問すると相手はおかしな事を聞くという風な顔をした。ゾンビの変顔も見られたもんじゃないが、元は人間だからか相手の気持ちは手に取るようにわかった。


 一人のゾンビと争っていると何事かと騒ぎを聞きつけ、三人のゾンビが集まって来た。こいつらを斬り殺してやろうかと思いはしたが、不幸にもこの世界に放り出され、何とか帰りたい一心で機械の開発や発明に没頭しているゾンビ達をただ殺しても、寝覚めが悪いと思いとどまった。四人に捕まり、ドラゴンの前で立たされていると、先程の悪魔のようなゾンビがやって来た。


「お前は無礼にもギガトマ様の眠りを妨げ、起こそうとした。今度の実験が始まればギガトマ様はお目覚めになられる。そして、我が指導者にして最高神たるディビー・マクレイン様もだ」

「なら、ドラゴンと人が合体したのは何故だ」

「何!それは・・・・・」

「分からないんだろう。多分お前達が最高神としたあの男にも分からない。そして、お前達は自分の姿形がゾンビの様に成り果てた事を理解しているのか」


「アッ!ハハハハハ!ゾンビだと。バカめ!この姿を見て敬え。我らは神となったのだ。千年だぞ、我らがこの長き時間を耐えて過ごして来た、いや、こられたのは、かのギガトマ様が我らに命をお与えになったからに他ならない」

「バカな。お前達は多くの人を奴隷の様に扱い、苦しめ、虐待した。恥ずかしくないのか」

「お前には判るまい。この何もない世界にこれだけの文明を創り上げた我らの力を。我らの努力を。苦しみを」

「だが、何も生まれず、ただ時間を浪費するのみだったのでは」

「違う!そんな事はない」

「違うだと。どこが違うのだ。言ってみろ」


 言葉を失い何も言えない者達に代わって悪魔の様な外見になったゾンビが発言し始めた。

「お前は誰だか知らないが、この俺たちは二十一世紀のニューヨークからここに来た。俺たちはこのドラゴニュームを発見し、エネルギーを抽出するのに六百年程かかり成功した。その成果が今ここにある」


 奴の手には光り輝く鉱石が握られていた。

「どうだ見たか。この輝き、この美しさ。ここまで精製できたのはこれ一つだけだ。あとは皆崩れ去った。ただの石になっちまった」

悪魔は恍惚の表情を見せ、鉱石を手に持ち、上に持ち上げ眺めたり、指で撫で回していた。

「お前達人間は絶対にこの石を触る事はおろか、見る事すらできぬよ」

そう言って俺に触ってみろとばかりに顔の前に差し出した。

「人に出来ないだと。お前達は人でなくなったと言うのか」

「そうよ。神たる我らは何をしても許されるのだ」


 その神をも恐れぬ態度は悪魔そのものだと俺に感じさせた。自称神のゾンビ達は今やこの地でエネルギーを自足し、機械を作り出し、異世界を往き来出来る様に実験を繰り返しているらしい。そして、今から最終実験を行い、千年の時を費やして創り上げた機械の真価を問うらしい。

「失敗しても奴隷が死ぬだけよ。我らは何も変わらぬ。世界の終焉は我らと共にある。我らが滅ぶ時世界も滅びを迎えるのだ。さあ、これからこの異世界から元の世界に帰ろうぞ。何も恐れる事などありはしない。六百年前、大爆発を起こし、この辺りは地獄と化し、多くの奴隷どもは死に絶えた。だが、俺たちは生き残り今日までこうして実験を繰り返して来た。何も恐れる事はない」


 悪魔は自分のことをツバルフ・エルトニアと名乗った。

「俺様に世界はひれ伏すのだ。この世界を作り上げ、莫大なエネルギーを作り上げたこの俺様に」


「自己中もいい加減にしろ。お前達は何も実現などしてはいない。多くの不幸と世界の破滅を招くだけだ」

「ハハハハハ。何も知らぬ。何も分からぬ原始人が」


「愚かしくも神だと宣うに、何も知らないのはお前達だ。世界を破滅させるつもりか」

「何が悪い。こんな世界など無にしても悔悟の情けが沸く筈もなく、涙なぞ流しはしまいぞ。俺たちはここまで千年かけて到達した。これがどれだけの偉業かわかるまい」

「お前は、いや、お前達はこの俺が誰かもわからぬ様だな」

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