第10話 世界の終わりに

 恐ろしい事に、目の前のゾンビ達は自身が呪われた存在であることを自覚していない。死ねないのは、いや、死なないのは神に愛されているからだと信じている。だが、俺の目からみれば、千年の間、牢獄に繋がれているとしか見れない。逃げ出すことも出来ずに、ただただ研究に、労働に精を出し続けていることを想像すら出来ずにいるのだ。彼らの立場からすれば、幸せに千年を暮らしてきたのかも知れない。ある種の研究に没頭出来たのだから。だが、俺は予想できる。この実験は失敗すると。さっき見た多くの奴隷を殺しても奴らは平然とまた集め、この実験を繰り返すのだろう。ここは地獄の入り口だった。


「お前を殺す前に名前を聞いてやろう。神となった我に語るがよい。聞いてやろう」

「偉そうに、ゾンビのくせに。だが、言わずにおくことは出来ないだろう。あのギガトマの頭にいるディビー・マクレインを父とし、カオリ・マクレインを母にもつ、俺の名はアキオ・マクレインだ。俺が見る限り、お前達の計画は失敗する。諦めろ」


「ハハハハハ。嘘だ。確かあの時、僅か3歳だった筈。それがまだ二十歳位で現れた。そんな事が信じられようか」

ゾンビ達は皆混乱した。今まで自分たちの思考の中に、矛盾が生じなかった事も問題が起きなかった一因であった。今、ゾンビの中に「もしや?」の不安や「なぜ」の疑問が沸き起こり、自分たちの絶対正義が崩壊し始めた瞬間であった。


「お前がアキオだと。ならディビー・マクレイン様と会わせてやろう」

ツバルフ・エルトニアはそう言うと俺をギガトマの前に引き出し、ギガトマに起きる様に声をかけた。なかなか目覚めないギガトマにドラゴニュームをかざし、その光で起こした。


「ギガトマ様、ディビー・マクレイン様。お目覚め頂きありがとうございます」

「お前はツバルフか。もう実験は終わったか?結果はどうであった」

「博士、まだです。ただ、問題が起こりまして」

「どの様な?」

「これで御座います」

「なんだ?ただの人ではないか。それが実験になんの関わりがあると言うのか」

「はい。この男はアキオ・マクレインと名乗っております。さて、どうするか悩みまして。それで博士に起きて頂きました」

「ふ〜ん。そうだったのか」


 ディビー・マクレインは俺の顔を見ながら何かを考えていた。だが、その顔つきから俺の事、云々よりも俺の利用価値を考えていることは手に取るようにわかった。どうもこの世界から抜け出せたら何をしてもいいように考えている様だった。ややあって、我が父ディビーは喋り始めた。


「お前はアキオか。なぜそんなに若いのか?」

訝しくも興味が湧いている様だった。俺は答えずにいた。父は何かを考えていたんだろう。何も話さず、何の反応もない父ディビー・マクレインを見ていた。その時、俺の横にいたツバルフの左胸に矢が刺さった。それと同時に三人のゾンビの顔や胸は矢で射抜かれていた。が、彼らは何も感じないと言わんばかりの態度を示していた。ただ何か得体の知れないゴミが体に付いていると言わんばかりであった。俺の後ろに立っていた五人にも矢が刺さっていた。ゾンビ達にとって矢など問題にもならなかった。


「アキオ!逃げて」

声の主はミランダだ。

「旦那様、お早く」

ソレアも俺に声をかけてくる。


俺は剣を抜き、ゾンビの腕と足を切り落とした。だが、腕も足も斬り落としたが、ピョコピョコと動き回る。俺は体をくねらし飛びのいた。ゾンビ達から逃れ、ミランダやソレアの待つところに走り込んだ。そこには捕らえられていた多くの人が集まっていた。


「これはどうしたんだ?」

「ミランダ殿と相談の上、ここから逃がしてやろうと彼らを牢から連れ出しました。ここにいる化け物は悪い奴らだけではない様です。あれをご覧ください」

三人のゾンビ達は牢を開け、多くの奴隷を解放していた。


「バカなやつらめ。この実験に全てをかけてきた。ここまできて止める訳にはいかない。さあ、あんな奴らなど、もうどうでもいい。繰り上げて実験を開始する。ドラゴニュームをエネルギー供給施設に格納した。各自の持ち場に戻れ。各セクション異常ないか。よし、オール・グリーン。準備完了」

「ツバルフ、どうだ。どうなった」


「博士。準備完了。いつでも始められます」

「始め!」

「皆、これから世紀の大実験が始まる。スイッチ全てオンにせよ」


機械が動き出し、各メーターが動き出した。三人のゾンビ達は多くの奴隷を解放し、山側を逃げる様に伝えて逃がしていた。機械の震える音が聞こえる。


「旦那様、あれを」

ソレアの指差す方を見る。虹色の光が機械の先端からもれだしている。確かあそこにはエネルギー供給施設があった場所だと思い、早く逃げる様に周りの者達に言い、自分たちも三人逃げ出した。


「クルド。早く逃げよう。ここにはいられない」

クルドは黙って三人を乗せると上空に駆け上がった。水晶の谷は小さくなり、確かあの辺りだったと指差すくらいに小さくなった。少しして小さな光が輝いた。それはみるみる大きくなってゆき、半径5キロ程の大きさをその世界に収めた。誰もが受け入れない程の大災害が生まれ出でた様であった。


俺たちが地上に降りた時、全ては終わっていた。全てが燃え尽き、山肌に幾人もの焼死体が転がっていた。

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