第11話 実験の再挑戦

 もうこの辺りで生命が蠢いているのは水晶の谷だけだ。それもドラゴンとゾンビの世界があるだけだ。あれだけの爆発と熱エネルギーが溢れたにも関わらず、ゾンビはあいも変わらず実験を繰り返そうとしていた。ドラゴンとの会話はもう無い。ドラゴンギガトマは眠りについている。

「さあ、お前達、さっさと機械をもう一度作り直すのだ。人はまた拐ってくるさ。今度こそ失敗はせん。まだまだ我々の時間は尽きない」

「お前、あの男の言ったことを覚えているか」

「なんだ?」

「俺たちはゾンビだと。生ける屍だと」

「ああ、あのバカか。そんなことがあり得ようか。この我らの姿を見てもそう言っておられようか。奴らなどもう生きては居らんよ」

「そうだろうか。俺たちは。何を信じて・・・・・」

「その気の迷いが失敗に通じている。この機械に間違いは無い。そうだろう。ここにきた経緯はもう事実だ。機械は絶対に成功している。だからこそもう一度ちゃんと動きさえすれば、必ず」


ゾンビ達は同じ考えを繰り返してきたらしい。やはり人としての感性に欠けているのだと俺は聞いていて感じた。ミランダはもう一度矢を射てゾンビを倒そうとしたが、それには無理があるので止めておいた。


 しばらく見ていると機械の一部を取り替えて、再実験をやろうとしている事がわかった。彼らは慌ただしく動き出した。一人のゾンビが座り込み、手に持つ機械の一部を床に置き、ため息をついた。

「俺たちは何をしているのか。帰りたいのは皆そうだが、多くの実験は失敗に終わり、今さら何をしようとしているのか」

その姿を見たスバルフは怒りだした。

「お前は何をしているんだ。この実験は最終機動形態に設定する。前の百倍の出力が出されるのだ。これで成功する。帰れるのだ」


 半径五百キロが灰になる。爆風がこの世界を吹き荒れ、熱波が全てを焼き尽くす。この世界の自然界にとり大災害が引き起こされる。静観の域を超え、このゾンビ達を滅ぼさねばどうにもならないことは間違いの無い事実だった。


 ミランダに俺の援護を頼んだ。ドラゴニュームとやらを盗りに行く事にした。俺を捕まえようとするゾンビを射抜き、岩でも機械にでも貼り付けにしてくれる様に頼み、岩肌を降りて言った。ゾンビ達は実験準備で忙しそうにしていた。

「さあ、これで準備も完了した。これで成功する。最大出力に設定完了。スイッチオン」

機械が唸りを上げ起動し始めた。


エネルギー供給装置が発熱し、持ちそうにも無い。生身の人ならば危険を感じ装置を止めるのだが、なまじ不死身が災いしそのまま動かし続けている。

「ああ。世紀の大実験は成功だ」

ツバルフは満足そうに呟いていた。だが、事態は切迫していた。機械自体の限界を示しつつあった。機械から火花が散り、一部配線は溶け、燃え尽きていた。ゾンビ達は応急処理を続けていたが、そろそろ限界に達しようとしていた。


 俺は供給装置のドラゴニュームの格納口の前に辿り着き、剣で格納機の基盤を剥がし、赤く燃え上がるドラゴニュームを露わにした。普通の人ならば見ただけで死ぬのだろうが、俺は怖いとか、苦しいとかは感じる事はなかった。剣をドラゴニュームの球に突き刺すとそのまま引っこ抜き取り出した。


供給装置の異変にきずいたツバルフは俺が逃げようとした時、出口に現れた。俺からドラゴニュームを取り返そうと必死になって向かってくる。奴は切っても死なないし、殺す事はできない。ミランダが矢を射り、ツバルフの右手を供給装置に貼り付けた。右足、胸、左手、首と続け様に射り、機械の壁に貼り付け、動きを封じた。奴は何やら大声で叫んでいたが、周りのゾンビ達は機械の対応で忙しく誰もやって来なかった。大出力のエネルギーが途絶えたら機械は止まると考えていたがどうも機械内を巨大エネルギーが蠢き、その出口を求め暴れまわっている様だった。


 俺とミランダはソレア達が待っている場所に急いだ。急に大きく地面が動き、地割れが発生。ミランダは足元が崩れた為、地割れの中に落ち込んだ。

「早く行って。私はいいの」

ミランダはそう言うがそうできりゃあいいんだが、そうはできない俺がいる。

右手に持つドラゴニュームを突き刺した剣を地面い放り出し、ミランダに手を伸ばしているとミランダが「後ろ」と叫んだ。


 後ろを見ると、矢が突き刺さったままのツバルフがいた。

「お前のせいで。よくもよくも。死ね!」

ツバルフは俺を亀裂に落とそうと俺の首を両の手で締め上げた。俺は必死で剣を弄った。やっとの事で剣を手に握ると奴の胸に刺してやった。

「なんだこんなもの。俺は不死身だ。これは返して貰う」

ツバルフは剣からドラゴニュームを取り、上着のポケットに入れた。だが、これがいけなかった。熱く発熱したドラゴニュームはポケットの素材を役尽くし、中から外に落ちてしまった。コンッ。軽い音がしてその球は亀裂に落ちて行った。

「ああ、俺のドラゴニュームが」

ツバルフは躊躇なくドラゴニュームを追いかける。亀裂に飛び込む様に見えた。


ミランダを助け上げ抱き寄せた時、また地震が起こり、亀裂は塞がった。目の前の岩を登っていくと上からソレアの手が現れた。

「さあ、お早く。もう時間がない様に思われます」

クルドに乗り俺たちは上空に駆け上がった。


 水晶の谷は大きな雷鳴が響いた。それはドラゴンの雄叫びにも喩えられ、その声は遠く離れたオタニヤの地でも聞こえたらしく、まさにこの世界の終焉が引き起こされるとして、人恐れてひれ伏すと多くの語り部が今に伝えている。




 

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