第16話 ドナトカムナの戦い

 見ればディオスは右半身は焼け落ち、右手と右足だけでどうにか動こうとしていた。右目はアキオが潰した為、左目だけがギョロギョロと光っていた。もうドラゴンという姿形をしていない。


「お前達、もう勝ったと思っているな。この世界を舐めるな。このドナトカムナの世界で亜空間を作れるワシをどうにかできると思わない事だ」


 ディオスはそう言うと地面にブスブスと沈み込んでゆく。瞬く間に見えなくなった。

「アキオ。どうしよう。何処かに行っちゃったよ」

「いや。きっと奴はこの辺にいるんだ。動けないから自分だけ亜空間とやらに入り込んだんだろう。クルドもきっと亜空間ぐらい作れると思うけど」

「ふ〜ん。出来るかな」

「クルド、さっき亜空間をぶっ潰したんだろう。大丈夫さ。簡単に潰せるんだ。簡単に作り出せるさ」


そんな話をしている間にクルド達の周りがゆがんできた。どうもディオスの亜空間に取り込まれたみたいで何も無い暗黒の空間で上も下も無い世界だった。クルドは「あっ」と叫んだ。何かに怯えて逃げ出した。俺には何が何だか分からぬままにクルドに連れられ何処かに辿り着いた。

「ここは何処だ?クルドわかる」

「まさか。カカレウだろうか」

「カカレウってなに?」

「怖い所さ。恐ろしい化け物がいるんだ」

「あっ、ハハハハハ。そうなの。これは面白い。見てみようぜ」


 空が歪んできた。見ると何か大きい青く緑色した大口を開けた物が現れた。酸い臭いと苦そうな感じがあたり一面に広がる。それが上から覆い被さろうとする。

「逃げよう。これは大変だ」

クルドは俺を連れて慌てて逃げ出した。だが、今度は地面が割れて飲み込まれ、落ちてゆく。

「クルド、飛べ!」


だが、クルドはなぜか飛ぶ事ができずズンズンと落ちて行く。なぜか何処まで落ちるのか分からないくらい落ちて行く。


気がつくと今度は岩だらけ平原だ。大空に一つの点が現れた。それが近ずいてくる。見ると大きいグエルが俺たちを押し潰さんと、上空から荒鷲のように足を俺たちに向けて舞い降りてくる。


「クルド、火を吐け!焼いてしまえ」

だが、その声も虚しく、クルドは何もできない。クルドは逃げ回り、俺も走り回るだけであった。


何度、この世界で苦しめられることを経験したか。だが、段々と俺は腹立たしくなって来た。余りに腹が立ち、理性も何も考えが無くなって、俺はデカイグエルをどついていた。そして気付いた時には俺はグエルよりも大きくなっていた。大きな俺が小さいグエルをどつき倒し、蹴りを入れていた。巨人になった俺はそこら中をどつき倒し、蹴り倒していた。もう誰も止めれなかった。


 足元に何か赤いミミズのような生き物が見えた。

「何だ、これは?」

俺は踏みつけようと足を上げ、力一杯踏みつけた。だが、それは逃げて踏めなかった。土の中に潜るように空間の中に潜って行く。俺は腹立ち紛れに踏みつけ出した。力一杯何度も踏みつけた。すると、空間が割れて、裂け目ができた。


「これは何かな?」

両の手でその空間の裂け目を引き裂いた。中に赤いミミズのような生き物がいた。右手で掴み、顔の前に持ってくるとそいつは目が一つ、手のような物が一つ、足のようなものが一つある変な生き物だった。地面に放り投げ踏みつけようとするもすぐに居なくなる。


 それで何故だか腹立たしいのでそこら中を踏みつけ、蹴り続け、地面をボコボコにして、裂いた。するとさっきの赤いミミズがいる。今度は捕まえて引きちぎってやろうとするも、また、地面に逃げられた。


「この野郎、出て来やがれ」

俺はますます巨大化し、やがて頭に天井が当たるまでになった。手で空をこじ開け出したら、大きな音がして空間が崩れ出し、漆黒の闇の中に放り出された。だが、これがきっかけでディオスは地獄を味わうこととなる。


 足元を見るとあの赤いミミズが見えた。俺は何故か火を吐けた。火をミミズに吐き掛け、焼き殺そうとしたが何とか逃げ出す。漆黒の闇の中に消えた。


「逃すか」

消えた辺りを右手で闇を触ると何故かゼリーのような感触がする。手でかき分け、探し出そうと辺りを弄り出した。

「なにもないのか」

腹立たしいこの感覚。腹立ち紛れにゼリー状の物体を蹴りチラシ、手で掘りまくった。何も出てくるわけも無く。腹立たしさは収まらない。ゼリーを思い切り潰しまわり、空間を引き裂いた。するとまた違った世界が現れた。草原が見える。恐竜が走り回っている。その世界に降り立ち、赤いミミズを探し回る。


 ズンズン。足音が辺り一帯に響き渡る。巨人は地上の物皆を踏み潰し、何かを探し回り、腹立ち紛れに山を崩し、湖を飛び込んで溢れさせ、多くの生命を絶滅させた。だが、そんなことでは怒りは収まらず、今度は空を断ち割り、その中に消え去った。


 見るとあの赤いミミズが目の前に見える。踏みつけようと追いかける。思ったよりも早いその動きに驚きつつ、踏みつけた。

「ぎゃー」


悲鳴のようなものが聞こえた。足を上げると赤いミミズはまだそこに居た。また力一杯踏みつけた。

「ぎゃー」

また泣いた。さらにもう一度。

「ぎゃー」

何度踏みつけても「ぎゃー」と鳴くだけで死なないようだ。俺は腹立ち紛れにさらに何度も踏みつずけた。その度に鳴き声だけは響つずける。


さらに踏もうとしたら今度は足が空間にズボッと入り込んだ。その空間はまるで底なし沼のように俺を沈み込ませた。


落ち込んだ先は山と山の間の裂け目。そのそこに赤いあれが蠢いている。俺は山と山を両の手で押し潰し、赤いミミズを追いかける。山が崩れ、辺り一面土ぼこりで一杯になる。見えなくなるとそこら中を踏みつける。そのことで地震が引き起こされた。多くの土地が地割れを起こし、その中に多くの命が飲み込まれ、命の息吹はなくなった。


「おのれ!ディオス」

この声は世界に木霊し。多くの者を震えさせた。口から火を吐き、踏みつけようと追いかける巨人の恐ろしさに震えるディオス。ただただ必死に逃げる逃げる。


追いかける巨人は何処に逃げても空間を引き裂いて現れる。もうディオスは逃げるので瀬一杯で考える事など出来ずにいた。


「思い知れ!」

巨人は踏みつけ、引き裂こうとディオスを探し回る。周りは口から吐く火で燃え上がり、何も無くなる。自分が行く世界は全て廃墟になって行く。追い詰められたディオスはもう後先が無かった。

「もうこうなれば仕方ない。ドナカムナへ行くしかない。帰る事も出来ないが、奴も来ることができる訳が無い」


 ディオスは覚悟を決めて持てる力の限りを使い、ドナカムナの扉を開けた。



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