落ちこぼれ冒険者とドラゴン ドナトカムナ編
@abeyu6629
第1話 友人クルド
俺は自分が悪い奴だと思った事は無い。俺を悪く言う奴は、自分の事を棚に上げて揚げ足を取るようにしか思わなかった。俺が大きな荷物を持って窓を通ってあの場所に帰り着いた時、ミランダとソレアは泣いて抱きついてきた。クルドに至っては落ち着いて「早かったね」と言うだけだった。
俺はそりゃそうださっき母親と窓に入ったところだものと思っていた。だが、俺は見てしまった。岩に刻まれた五十二本の刀傷。ソレアはよく岩に一日一本の傷を付け、自分の記録を残す。それはアイラ族の習慣である事も理解している。
「ソレア。これは?」
俺が聞くとソレアは「ハッ」として、隠す。
「何でも無い」
「何でも無いわ」
ミランダも言う。
「すまない。思ったよりも多く待たせたみたいだ。俺は悪い奴だ」
「きっと帰って来てくれると信じていたわよ」
「そうよ。クルドが大丈夫って言ってくれていたんだ」
「アキオ。君は向こうで大変だったかい」
「クルド。ここほどじゃぁないさ」
クルドは眉を伏せて、何かを知ってる様な感じだった。
「さあ、クルド、行こうか。君の村に裁定の日に」
「良いのかい。アキオ」
「君との約束は果たさねばならないだろう。友人として約束は守るものだ。命をかけても。そうだろう」
「ありがとう。アキオ」
「少し待ってくれる。クルド」
「良いよ」
「ミランダ、ソレア。これはお土産だよ。母さんが選んだんだ」
二人が箱を開けるとそこにはドレスと靴が入っていた。身につけて喜ぶ二人。その姿を窓からきっと見てるだろうと思い、俺は窓に向かい手を降った。
「さあ。行こうか。クルド」
「僕は良いんだが、後ろの方はどうするんだい」
「えっ。置いてゆく。ダメ?」
「そりゃァ。許されるはずはないと思うよ」
後ろを向くと二人は目を向いて睨みつけていた。
「仕方ない。連れて行こう」
三人を連れてクルドは両親の待つドラゴンの村に帰り着いた。長老オルガが出迎えてくれた。ラディウスとフェンネルの両親と妹のエクデルが待つ家に連れていかれた。
「よく戻って来た。クルドよ」
長老オルガは喜びを隠さなかった。
「ラディウスよ。クルドを見ろ。聖印を4つもいただいて来たぞ。予想を上回る成果だ。わしの言った通りじゃろ」
「長老様。ありがとうございます」
こいつらの会話を聞いていると、俺のことを忘れている様な雰囲気だった。それで黙っているのも気持ちが悪いので、俺ははっきり言ってやった。
「俺の裁定はどうするんだ。早くしろ」
オルガは俺をしげしげと見て言葉を継いだ。
「おうおう。そうじゃったそうじゃった。これはすまない事をした。アキオとやらクルドのお守りを任して済まなかった。お前がおらなんだら、こいつはどうなっていたか。お前はラディウスのドラゴンの加護を受けた者。それにあの時、わしはどうしようかと悩んでおったのじゃ」
「どう言う事」
「アキオ。お前が嘘をつき、己が立場を悪くするともクルドを助けようとしてくれた事、嬉しかったぞ。わしの最大の課題をお前が解決してくれたんだ。感謝してる」
「と言う事は、俺はここで死ぬと覚悟を決めていたのは無駄だったってこと」
「そうではないが。でも、ありがとうよ。お前は覚悟を決めここに戻って来た。その勇気、立派と褒めておこう。それでじゃ、わしからも加護を与えてやろう」
長老オルガが俺に向かって何かを吹きかけた。分からないが俺の加護が一つ増えたらしい。俺が首を傾げているとクルドが言った。
「アキオ。おめでとう。君はドラゴンの加護を七つも手に入れてるんだぜ」
「七つも」
「そうだよ。今長老オルガ様から。わが父ラディウス。クリシュナゴーン、キョロシ、サグレイ、ダイカングーン」
「エッ。六だよね。今六つしか言わなかったよ」
「ごめんよ。最後の一つはクルドだよ」
「えっ。そうだったのか。ありがとう」
「アキオ、君は大切な友人。命をかけて僕の課題を達成させてくれた。君がいなければ成就できなかったし、どうすればいいのか分からなかったが、君が導いてくれた」
「そう言われてもねぇ。ただのお人好しなんだろうけどね」
クルドは俺に告げなければならない事があると済まなさそうに話す。
「僕は見た。これはキョロシの観の力。まだ全てを出しきれていない。だが、多くが見える。でも全てでは無い。多分、絶対の未来って無いんだと思う。努力と偶然が織り成すのが人生なのだろう」
「そりゃそうだろう。今の俺も偶然の産物だろう」
「それは違う。この世は理が支配している。君も僕もその中の歯車の一つなんだろうけれど。君が生まれない事など無い。僕は生まれて、ここに居て、君と出会うんだ。ただ、どんなモノも出会う事は予定されているんだが、どの様に反応するかは多くの選択肢が残っているんだ。だから、多くの未来がある」
「ソレアやミランダとの出会いを決定ずけているのは何だろう」
「それはまだ分からない。でも君と僕には多くの未来がある。多くの未来が見えてくる」
「それは素晴らしい。これからどうなるか、懸命になれる」
「君はお父さんに会える事は決まっている。ディオスとの対決も決まっている。これぐらいしか決まっていないんだ。ただ、君に伝えられない事も多くて。キョロシの苦しみの意味が少しわかった様に思える」
「そうか。君も成長したんだなぁ」
「アキオ。ありがとう。僕を責めるとばかり思ってたよ」
「クルド、君を責める事など出来ないよ。友達じゃないか」
「ありがとう。これからも友人として一緒に旅を続けてくれる」
「当然。君と一緒さ」
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